215.四級ライセンス実技試験④
「はあ……ッ!」
黒の大剣が、蔓をまとめて切断する。
そうして生じた間隙を縫い、イオナが火魔法を放った。
「――フレイ!」
狙いを澄ませた一発、最下級の魔法ながら本体の花弁に当たれば効果は抜群だ。
延焼しないギリギリの火力でラフレシアンを燃やし、斃す。
「ナイスコントロールでしょ!」
「ああ、良い感じだ!」
胸を張るイオナに、オレも称賛の言葉を贈る。
実際上手く撃ち込めているし、主力になるので大助かりだ。
ラフレシアンに致命傷を与えるなら斬撃か火属性攻撃。ただ近距離だと、毒液を振り撒かれる危険もあるからな。
「さて、今度はどうかね……」
死骸に収集を実行し、テスタマイザーに表示される通知を確認する。
『ラフレシアンの毒液:1個』
……残念ながら今回も毒液の方だ。目当ての溶解液ではない。
『皆さん、お待たせしました。ラフレシアンの溶解液について調べが付きましたよ』
「本当か? 入手法が確定するならそれだけで嬉しいんだが……」
『ラフレシアンの溶解液は、毒液の上位版とのことです。通常個体からも稀には落ちるようですが、ほぼ確実と言えるのはボス級個体からの入手ですね』
「ボス級個体……」
要は、推測した通り親玉ファットラットの再来だ。
ここに巣食う無数のラフレシアンのうち、ボス級に力を有した個体を倒せば溶解液を手に入れられる確率が高いということ。
しかし、言うは易く行うは難し。一定間隔でラフレシアンが存在しているなら、ボス級個体だけを狙い撃ちするのは難しい。
せめてどこにいるのか分かれば、戦闘を最小限に抑えられそうだが。
『反応の強い部分を探知してみましょう。ルカさんの力も使っていただけると助かりますが』
「そうだね。ボクも探しながら進むよ」
機械による探知と、ルカの限定スキルによる探知。二段構えならば精度は期待出来そうだ。
なるべく戦闘回数が増えない内に、ボスが見つかってほしいものだな。
「……うーん、微弱なマナの流れは幾つもあるんだよね。エスカーも言ってたけど、ラフレシアンが点在してるのは間違いなし。でも、強そうな気配は今のとこないかなあ」
「仕方ないさ。まだ時間はあるし、とりあえず奥へ向かって進んでみよう」
時刻は現在午後三時過ぎ。タイムリミットまではまだ三時間……厳密には二時間半か。何にせよ、慌てるような時間じゃない。
『進路方向、約二百メートル先にラフレシアンと思しき反応があります。お気を付けて』
「了解」
さっきはルカがしくじったが、次こそ先手を取りたいものだ。
周囲に蔓が張られていないか用心しつつ、ラフレシアンへ近づいていく。
本体の花弁を何とか目視したオレたちは、奇襲攻撃を仕掛けた。
「――フレイ!」
イオナが火属性魔法を放ち、本体を狙う。
突如飛んで来た炎に防御行動を行うラフレシアン。しかし、防いだ蔓二本が炎に包まれ、それを必死で地面に打ち付けて消化する羽目になる。
「今だ……!」
ラフレシアンが慌てふためいているうちに、オレとエスカーが特攻する。
残る蔓でその進撃を止めようとするものの、
「ハイ止まってっ!」
ルカが蔓を引っ掴んで動きを止め、
「――クラッグス!」
フェイが土魔法で岩を発生させ、蔓の進路を妨害した。
「うおお……!」
邪魔立てするものは無くなり、オレとエスカーはラフレシアンの本体を斬り裂く。
植物らしからぬ痙攣をしばらく続けたラフレシアンは、毒液を地面に垂れ流しながらやがて絶命した。
「先手を取れれば、まだ楽な相手だな」
「本体が動けない以上は、ね。これで蔓の本数が増えてくると厄介そうだ」
今の個体は蔓が四本と少なかった。こういう奴だと倒しやすいが、ボス級とは程遠い。
倒すべき相手は、きっと厄介なくらい蔓が多かったり長かったりするんだろう。
あまり期待はせず収集を実行してみるが、やはり入手出来たのは毒液の方だった。
「普通の奴じゃ望み薄だよなあ……」
『そんな皆さんに朗報です。その場所から更に東へ向かったところで、強い敵性反応が確認出来ました。恐らくは』
「親玉だっ!」
ようやくお出ましかとばかりに、ルカが声高に言う。
彼女の方も、マルの報告で改めてマナの流れを読み、この奥の気配を微かに感じ取ったようだ。
「行ってみるしかないわね」
「ああ。ボス級なら相応のデカさがあるだろうし、蔓には一層用心しといてくれ」
メンバーが頷くのを見て、オレは先頭を歩き始める。
「距離的にはどれくらいだ?」
『あと二、三分以内には接敵する距離です。早いうちから蔓の警戒をするのは正しいでしょうね』
もう少し歩くかと思ったが、意外と近い。
太い蔓を見逃さないようにしないと。
「……リーダー」
しばらく進んだところで、エスカーがそっと囁いてくる。
彼が見ている方に目をやると、ズルリと枝の間を蠢くものが。
「ふう。やっぱ観察眼ならエスカーだな」
「お褒めに預かり光栄」
相も変わらず、素直に褒めても素直に受け取らない奴だ。
とにかく、既にボス級ラフレシアンのテリトリーだと思わなくちゃいけない。
「……ちょっと待って。この数……」
僅かに前進したところで、フェイが周囲を見回し絶句した。
……オレたちも理解する。ここに居座るボス級ラフレシアンの、巨大さを。
「マジか……」
先に発見していた蔓の他、目視出来るだけで五本の蔓が確認出来る。
その一つ一つがさっきまで戦っていたラフレシアンのものより明らかに大きい。
「……見えてる範囲でこの数、か。これで全部とは思えないな……」
「ひとまずこれを辿る感じで、本体を見つけないとねえ」
本体の元に辿り着くまで、こちらの存在がバレなきゃいいが。
息を殺しながら、静かに、しかし着実に進んでいく。
そうして何分経っただろうか――オレたちは親玉ラフレシアンの本体と対面した。
「でっかい……」
ルカが驚くのも無理はない。
これまでに倒した三体に比べると、実に倍。二メートルに届きそうなほど大きな花弁がどっしりと鎮座している……。
「……でも、さっきのように先手を打てれば、あっさり倒せたりしないかしら?」
「そうしたいところだな――」
しかしそのとき、
『……皆さん、逃げてください!』
マルの叫びがテスタマイザーから伝わり、オレたちは慌てて警告通りに散開する。
その間に周囲を見回すと、気付かぬうちに相当危険な状態に陥っていたことを理解した。
「な……!?」
オレたちは、バレずにここまで来られたわけではなかった。
ラフレシアンは、オレたちの存在を察知した上で泳がせていたのだ。
だから周囲にはもう、無数の蔓が蠢いていて。
その幾つかがオレたちを捕えようと飛び出してきていたのだった。
「助かったよ、マル……!」
『お気になさらず。問題はここからです……!』
アドバンテージは失ってしまった。いや、むしろそれは始めからオレたちでなく、あちら側にしか無かったわけだが。
「マズい状況だが、こんな魔物に負けるわけにはいかねえ。みんな、もう一踏ん張りだ……やるぜ!」
こいつを倒せばきっと、目標の納品素材が手に入るはず。
苦境だろうが見事跳ね除けて、四級ライセンスの資格を勝ち取ろうじゃないか。




