211:いざ、昇級試験!
雷曜日、いよいよ昇級試験の日が訪れた。
午前中は普段と変わらず講義を受けたが、今までで一番集中出来なかったように思う。
それでも何とか板書を写しきって、歴史と魔法の座学を乗り切った。
「ぐおー、何とか寝ずに済んだあ……」
「内容は頭に入ったの? ルカ」
「そりゃもちろん、後で見直すに決まってる」
「ですよねえ」
昼食の席。さも当然のように言うルカに、エスカーも分かってましたよと苦笑する。
ただ、今日に限ってはオレも強くダメ出し出来ない。こういうときにはずっと緊張が付きまとう性格だ。
幸い、それで大ポカをやらかした経験はないけれど。
「あと四十分くらいで試験ね。早めに集合しておかなくちゃいけないんだったかしら」
「事前説明があるから、五分前には集まった方がいいだろう。余裕を持って行かなくちゃな」
これは試験時の注意事項として案内されていることだ。テスタマイザーの申請画面でも見ることが出来る。
ちなみに試験開始は午後一時から。昼食をとり終えたらすぐに向かわなくてはならない感じだ。
オレたちは雑談もそこそこに、しっかり食事をとってエネルギーを補給する。
そして、十二時四十分には食堂を後にした。
集合場所はイマジネートの訓練などを行った演習場。
ただ、別にその場所で実技を行うわけではない。あくまで始めに集まっておく場所なだけだ。
試験を担当する教官は一名なので、最大二チームが演習場へやって来て、まとめて試験の説明をされるという流れだった。
なお、本日は休み明けということもあるのか、申請チームはオレたちだけだ。気楽にやれる、と思っておくか。
「……お、教官はもう来てるみたいだな」
遠目に男性のシルエットが見えたので、オレは呟く。
恐らく担当教官はメルシオネ教官だろうと予想していたのだが……近づいていくと、その予想が外れていたことが分かった。
「あれ? アーロンさん……」
「おう、十分前行動とは感心だな。今回は俺がお前らの昇級試験を担当させてもらうぜ」
テスタマイザーから何やら画面を表示させながら、アーロンさんはそう告げる。
「どうも、アーロンさん。てっきり俺はメルシオネ教官が担当とばかり思ってましたが……」
「あァ、アイツはちょっと不在でな。俺が臨時の試験官になっちまったんだ」
「じゃあ普段はやっぱりメルシオネ教官なんですね」
イオナが言うのに、アーロンさんはそうだと肯定した。
「メルシオネ教官も忙しいんだなあ……」
「いや、アイツの場合は……っと、余計な話だな。とにかく代役に選ばれた以上はしっかりやらせてもらうさ」
「よろしくお願いします、アーロンさん」
オペレーター室にいるマルはこのことを知っていたのだろうか。
少なくとも、アーロンさんがオペレーター室を出ていくときには知らされていそうだが。
「せっかく早めに集まってくれたんだ、すぐに試験の説明へ移るとするか。今回お前らが受けるのは四級ライセンス試験……イマジネーターとして最初の昇級試験となる」
アーロンさんの説明に、オレたちはこくりと頷く。
「中身としちゃァ、現時点での総合的な能力を見させてもらうと思ってくれればいい。つまり現状の評点、ステータス、そして現場での任務遂行能力だ。評点を確認し、測定室で能力値を確認した上で、お前らには一つの特別依頼を出す。これを見事クリア出来れば、昇級試験合格っつう寸法だ」
「合格した時点で、晴れて四級ライセンス取得ってことになるわけですね?」
「その通り。ちなみにだが、前二つが規定値に達していない場合はそこで試験中止だ。そも合格しねえってのに、無駄に依頼を出すワケにもいかねェからな」
なるほど、それは道理だ。全てが規定値に達していないといけないのなら、駄目な項目があった時点で続ける意味はなくなる。
前情報でこれくらいの評点とステータスがあればいいと聞いていたから安心感はあるが、もしも依頼が出る前に終了だと宣言されたら情けなくなりそうだな。
そういう悲劇に見舞われる新人も今まで沢山いたんだろうが。
「さて、他に何か質問はあるか?」
特に今のところ質問は浮かばない。
アーロンさんは数秒だけこちらの反応を待ってから、よしと声を上げた。
「そんじゃ、まずは測定に行くとすっかね。遅れずに付いてきてくれ」
言うや否や、スタスタと歩き始めるアーロンさん。遅れずに、というのはちょっとしたジョークだと思っていたのだが、中々足が速い。
何と言うか、こういうところにも彼の性格が滲み出ている感じがするな。
A棟の入口扉を抜け、オレたちは測定室へ。
他のメンバーは久々だろうが、オレだけは数日ぶりだ。ジャンヌさんに連れて来られたせいで、既に能力値を正確に知っている。
……正確というのはちょっと違うか。オレの想造値は常に測定不能としか出ないのだし。
測定の順番は特に決まっていなかったので、リーダーのオレが一番手になって、測っている間に後の順を決めてもらうことにした。
事務的な作業なので測定は終始淡々と進行し、だいたい十分ほどで全員問題なく測り終える。
操作室のアーロンさんはオレたちのステータスを確認すると、一つ頷いてこちらへ戻ってきた。
「まァ、心配はしてなかったがここまでは無事クリアだな。おめでとさん」
「あ、ありがとうございます」
「感謝にゃまだ早えさ。とりあえず形式上、一旦演習場に戻るぜ」
事前情報通り、評点と能力値に問題が無かったことを安堵しつつ、オレたちはアーロンさんの後ろに付いて演習場へと戻る。
場内に入るとアーロンさんはこちらへ向き直り、再び口を開いた。
「ふう、これでようやっと実技の話に移れるな。もしステータスが基準に達してなかったら、俺もトンボ返りする羽目になってたとこだ」
「退屈させずに済んだってワケですねえ」
「それならそれで、通常業務に戻れるから良かったけどなァ」
「おっと、そりゃ冷たい」
アーロンさんの素っ気ない言葉に、エスカーは苦笑する。
もちろん本気で思っているわけではなく、シニカルなアーロンさんらしい台詞なのだろうが。何となくエスカーと相性が良さそうだ。
「冗談は置いといて、これから最後の関門……特別依頼について発表させてもらうぜ」
「……はい、お願いします」
アーロンさんはテスタマイザーを操作すると、
「今、お前らの端末に依頼のデータを送信した。特段何もしなくとも、既に受注済みになってるはずだ」
説明を受け、自分の端末を確認する。
請負依頼の画面には、確かに依頼が一つ自動受注されていた。
「それが今回、お前らに課された実技試験ってことになる。お題としては――納品依頼だな」
依頼の詳細画面にはこう書かれていた。
『ラフレシアンの溶解液1つの納品』
「ラフレシアンは森林ならどこにでも発生する可能性がある魔物だが、現在はワールドスクリプト:コリンシアでの目撃情報が一番多い。よって向かう場所はコリンシアに限定し、制限時間の午後六時までに目的の素材を持ち帰ってくること。……把握出来たか?」
異世界コリンシアへ向かい、その森林に出現するであろう魔物、ラフレシアンを討伐。そいつから得られる素材『ラフレシアンの劇毒』を一つだけ入手し、午後六時までに帰還すればいい……ということだな。
聞いただけではシンプルな依頼内容にも思える。問題はラフレシアンという魔物がどういうものか、まだよく知らないという点だ。
「えっと、納品依頼ですけど帰ってくるのはここでいいんですよね?」
「そうだ。いつもの感覚でフィンクスんとこに行かれてもアイツが困るだけだから、必ずこの演習場に帰ってくるように」
ルカの質問に、アーロンさんはそう答える。
恐らくそんなミスはしないだろうけど、万が一のうっかりで制限時間をオーバーする、なんて事態にはならないようにしなくては。
「これが最後だが、もう質問はねェか? そんなら、始めさせてもらうとするぜ」
再びテスタマイザーに視線を落としたアーロンさんは、オレたちに告げる。
「時刻は午後一時半……そんじゃこれより、実技試験を開始する。健闘を祈るぜ、ダインチーム!」
「――はいッ!」
アーロンさんの宣言に威勢よく返事をしたオレたちは、演習場を出て異世界コリンシアへ向け、移動を始めるのだった。




