205.バーベキュー・ナイト
戻ってきた住民たちに注目されるとまた身動きが取れなくなりそうなので、オレたちはさっさと広場を後にした。
魔物の死骸が残るのも良くないし、稼ぎにもなるので素材の収集はキッチリ行いつつ。
幾つもの謎が残った戦いだったが、フェイやエスカーの言っていた通り、今考えても無駄なのだろう。
多分、どこかで答え合わせはされるはずだ。
オレたちが今、一番にやるべきことと言えば――。
「乾杯っ!」
今回も、ルカの音頭でオレたちはグラスを掲げる。
こういうときは毎度、彼女が掛け声を上げたがるんだよな。
「ぷはー、美味しい! さ、お肉だお肉だ!」
と、ルカが勢い付いて言うように、既に第一陣の肉は美味しそうな色に焼けている。
そう、楽しみにしていた庭でのバーベキューがとうとう始まったのだ。
「うふふ、みんな遠慮せず沢山食べてちょうだいね」
「とは言っても、お金は皆さんが出してくれたんですけど」
母さんの言葉に、アニスがそんなツッコミを入れる。
まあ、焼いてくれてるのは主に母さんだ。そういう意味では、遠慮せずというのも合ってるか。
「はあ……お肉がとろける……こんなに美味しいの初めて食べるかも」
「ふふ。良かったわねえ、ルカちゃん」
幸せそうに肉を食べるルカを、フェイやイオナが微笑ましく眺めている。
人が何かを美味しそうに食べている姿は、確かに笑顔を誘うものかもしれないなと感じた。
「野菜も食べないと駄目だよ、ホラ」
「って勝手に入れるなっ。あとボクの狙ってるヤツを取るな!」
エスカーは、こういうのを見るとちょっかいをかけたくなるタイプらしい。
ま、これはこれで見ていて面白いんだが。ご愁傷様だな、ルカ。
「とても美味しいですが……私はこれ、すぐにもたれちゃいそうですね」
「マルちゃんも? 実は私もよ。たくさん買っちゃったけれど、大体は男の子とルカちゃんに任せちゃいそうね」
「計画性無いな……止めなかったオレも悪いけどさあ」
オレもそこまで大食漢ではないし、胃も強い方じゃない。エスカーも肉より野菜を好んで食べそうだし、こりゃルカが頼みの綱だな。
幸い、彼女の勢いは凄い。軽く二人分以上の肉は食べてくれそうだ。
「魔物肉もワイルドな味だけど、やっぱり牛がいいかなあ……あ、この豚肉も美味しいけどっ」
「ルカちゃんは健啖家ねえ。どんどん焼いちゃうわよ」
母さんも嬉しそうに肉を焼いている。少しは休憩してほしいので、オレは肉焼き番の交代を申し出た。
「ありがとう、ダイン。……あら?」
トングをこちらへ渡しつつ、リビングの方へ顔を向けた母さんがそんな声を出す。
何かと思うと、居間の方で点けっぱなしにしているテレビに、とあるニュースが映し出されていた。
「これって、みんながお昼に遭遇したっていう事件じゃないかしら」
「本当だ……あれから結構な騒ぎになってたのか」
画面に映っているのは、昼間オレたちが魔物と戦った開発区の公園。
夕方ごろの映像で、リポーターの男性が噴水の上空辺りを指差しながら、深刻そうな様子で説明を行っていた。
『……午後一時頃、こちらの広場で突如として時空の歪みが発生、その中から多くの魔物が出てきました。住民たちが慌てて避難する中、現場に向かっていったのは何と若きイマジネーターだったということで……』
「若きイマジネーターって、私たちのことだよね?」
ホクホクのカボチャを口に運びながらイオナが言うと、
「それ以外にないでしょ。大方、アスタさんが情報提供者なんじゃない?」
面倒臭そうにエスカーが答える。余計なことをしてくれたと言わんばかりだ。
「まあ、仕方ないだろ。あんな事態だと穏便に済ませる方が無理だろうし」
「そうねえ。むしろここまで取材に押しかけられなくて良かったと思うべきかもしれないわ」
街中で魔物の襲撃があったなんて、考えてみれば大層な事件だ。
あのまましばらく広場に留まっていたら、きっと報道陣や野次馬に囲まれて大変なことになっていただろうし……さっさと立ち去ったのは正解だったと思う。
『……また、三週間前にもアトモス学園内に時空の歪みが発生している状況から、星定議会は歪みの発生原因について調査の必要性ありと考えているとのことです。以上、現場からお伝えしました』
オレたちのような新人イマジネーターでもおかしいと訝しむくらいだ、星定議会も当然異常な事態だと考えるだろう。
議会の調査が始まったとしたら、魔物を倒した当事者のオレたちも参考人として事情を聞かれそうだなあ。そこまでいくと面倒臭そうだ。
「ルクスさんのことは報道されないね」
「さっぱり事情の分からん人だったからな。そういうのは流石に出せないってことだろ」
「だねえ。俺たちは学園の新人って裏付けがとれるけど、謎の人物について報道して、後でヤバい奴だったと分かったら困るだろうからさ」
ルクスと名乗った赤髪の男――果たして彼は何者なのか。
人当たりは良いと感じたが……善人か悪人かは、それだけじゃ分からない。
「……っと、何だ?」
報道に目を奪われていたところに、テスタマイザーの通知が鳴る。
前回はジャンヌさんから忠告のメッセージが来たので、こういう突然の通知には良いイメージが無かった。
差出人は……コーネリア校長だ。またそんな偉い人から来てるのかよ。
『お疲れさん。休みなのに連絡しちまってすまないが、昼にセント・ロウディシアで起きた魔物の襲撃、対処したのはお前たちだな?』
……校長も、休日だというのに事件の対応にあたっているのか。大変なことだな。
後回しにするのも申し訳ないし、すぐに返事を送っておくことにする。
『はい、偶然居合わせたので対処しました。すぐに現場からは離れてしまいましたが』
『了解、安全を確保してくれたなら離れても問題はないさ。ただ、休みが明けたら一度、詳細を報告してほしい。よろしく頼むぞ』
『分かりました。報告に上がるようにします』
そこまでで、校長から返答は来なくなった。
休み中に報告へ来いと言われなかったのはとりあえず良かったか。
「どしたの、ダイン?」
「ああ、いや。事件のことで校長から連絡がな……」
イオナに聞かれたので、休み明けに報告が必要なことをメンバーにも伝えておく。
各々の反応もオレと似たようなもので、校長先生って大変だなという感じだった。
「コーネリア校長にもこの肉、食べさせてあげたいもんだなあ」
「ルカ、きっと校長にもなれば良いもの沢山食べてると思うよ」
「あっ、じゃあ今のナシ」
そんなやり取りでまた笑いが起こり、賑やかなバーベキューの夜は過ぎていく。
母さんの提案を聞いたときは正直乗り気じゃなかったが、こうして皆の笑顔を見ていると、悪いもんじゃないなと思う。
親睦を深め、強まった絆で昇級試験も楽々乗り越えたいものだ。
月の浮かぶ綺麗な夜空を見上げながら、オレはそんなことを考えるのだった。




