201.街へ買い出し!
お泊り会初日の夜は、長く賑やかなものとなった。
アニスを含めた七人で一所に集まり、ボードゲームに興じたり昔話を懐かしんだり。
その楽しさについつい時間を忘れてしまい、気付けば深夜の一時を回っていて。
明日もあるのだからということで、ようやく解散・就寝の運びとなったのだった。
ちなみに、アニスを巡るバトルは、ボードゲームでイオナとフェイが勝者となり、二人が一緒に寝ることとなった。
負けたルカとマルは悔しそうにしていたけれど、最後は素直に勝者を称えていた。
……そして、翌日。
「ふあーあ……」
リビングにルカの欠伸が響き渡る。
時刻は朝の九時。のろのろと起き出したオレたちは、ようやく全員が揃って朝食の席を囲っていた。
母さんはだいぶ早くから起きていたようだが、食事の準備をしながらオレたちを待ってくれていたようだ。全く、頭が上がらない。
「夜更かしなんかしちゃったの、いつ以来かしら。ふふ、楽しかったわねえ」
「もうちょっとでボクが勝ってたのになあ。マルも惜しかったよね」
「計画通りではあったんですが、運で駄目でした。……二人はアニスさんと何か話したり?」
「えへへ、ダインが小っちゃいときの話を聞かせてもらいました」
「あっ、いいな!」
嫌な予感はしていたが、やっぱりそういう話題で盛り上がったらしい。
特にイオナ、際限なく聞き出していそうだから恥ずかしいったらありゃしない。
……あとでこっそり、アニスに何を話したか聞いておこうか。
「男子は男子で何か話さなかったの?」
「え? いや別に……」
「恋バナとか出来れば良かったんだけどねえ、リーダーは初心なもんで」
「お前すぐ寝ただろ」
しれっと面倒臭い展開になりそうなことを言うなと、オレはツッコミを入れる。
案の定、女子組は興味津々と言った目でこちらを見てきた。……初心なことは認めるから、止めてほしい。
「ところで。今日の夜はバーベキューにするんだっけか?」
しつこく追及されるのも嫌だったので、オレは強引に話題を転換した。
それを受けて、母さんがそうなのと頷いてくれる。
「せっかくだから、皆で買い出しに行って貰おうかと思って。その間に、私も落ち着いて準備出来るから」
「買い出しかあ。確かに皆で行けば楽しそう」
「勢いで買い過ぎる危険もありそうですがね」
ルカがニコニコと言うのに、マルがそんな牽制を入れる。
実際、思い思いに食べたいものをカートに入れていくと、とんでもない量になる危険性はありそうだよな。
「それ、私も行っていい?」
「もちろんよ、アニス。一緒に楽しんできなさいな」
「やった! よろしくお願いします、皆さん」
「ふふ、よろしくね。アニスちゃん」
喜ぶアニスに、イオナが優しくそう呼びかけた。
「ついでにお昼も食べてくるといいわ。はい、お金は渡しておくわね」
「いや、お金は要らないよ。オレもそこそこ稼いでるし、今日くらいはこっちに出させてくれ」
「あら……言うようになったわねえ。うふふ、それじゃ甘えちゃおうかしら」
嬉しそうに言い、母さんは出しかけた紙幣をしまった。
何となく勢いで言ってしまったけど……八人分の食材を買うのと、七人分の昼食代か。いくらになるんだ? ちょっと怖いぞ。
「ま、流石に私たちで割り勘にしようよ。何でも任せっきりなのは気が引けちゃうし」
「イオナさんに同意です。出せるところは私たちも出しましょう」
「他の同期よりは稼いでるってのもあるしねえ」
「とか言ってると、すぐ無くなっちゃうかもしれないけどさ?」
少々見栄を張ったオレに、メンバーがフォローを入れてくれる。
見かねたという部分もあるかもしれないが、素直にありがたい。
「それじゃ、朝ご飯を食べて準備が出来たら、街へ繰り出しますか」
「はーい」
何故かイオナが主導するように言い、他の面々がそれに応じる。
まあ、楽しそうならそれでいいかと思いつつ、オレは並べられた朝食に手を付け始めた。
*
七人という大所帯で家を出発したオレたちは、列車に乗って開発区を目指した。
セントラル・スクエアにある大型ショッピングモールが目的地だ。
以前、オレとイオナが二人で来たのもこのモールで、専ら街の住民が買い物をするならここ、という風になってきているようだった。
「一階が食品売り場になってるんだよね」
「はい。昔は他のスーパーマーケットに行くこともあったんですけど、品揃えが多いから今じゃここで全部済ますようになっちゃいました」
「時代の移り変わりだよなあ……」
幼少時は、アニスが話したように商業区のスーパーに行くことが多かった。
けれど中等学校に入った辺りからは、この大型モールに来れば大抵の物は買えるため、鞍替えしてしまったのだ。
発展の功罪ではあるけれど、商業区も別に負けっぱなしと言うわけではない。
その歴史を活かし、付き合いの長い農家の野菜を安く売るとか、或いは幾ら以上購入の方には特典を進呈するとか、色々と策を講じて客の繋ぎ止めに奔走しているらしい。
「新しきも古きも、上手く住み分けて残って行ければいいんでしょうけどねえ」
「難しい問題だよねー」
特に発展著しいこの街では、本当に難題だ。
このモールだって、すぐに新たなライバルが現れて客足が遠のく可能性もあるわけだしな。
「はいはい、経済社会について問答するより買い物に勤しまなきゃね?」
後ろから、エスカーがカートを押しつつやって来る。
ジャンケンで負けて、彼がカートを運ぶ係になったのだ。ちょっと苛々しているのはそういう理由からである。
「よおし、それじゃカートも来たところで、どしどし買っていきますか!」
「イオナさん、カート扱い止めてくんない?」
エスカーの抗議は華麗に無視され、買い出しがスタートする。
必要なのはバーベキュー用の食材だけなので、変な物は入れられないだろう……多分。
「まずは野菜コーナーだね! バーベキューと言えばコーンは外せないとして、ピーマンとかはどう?」
「ボクは反対! それよりバナナとか焼かない?」
おい待て、早速変なこと言ってるヤツがいる。
「何言ってるんです、ルカさん……甘いものを焼くならマシュマロでしょう」
確かにそれなら焼いてもいいけど、まだ野菜コーナーだっての、マル。
「玉ねぎとかカボチャとかも良いよねえ……見た感じ、質はちょっとアレだけど」
エスカーはエスカーで商品の鮮度にケチを付けている。
そんな良し悪しの分かる人間だったのかよ、お前。
「はいはい、じゃあこれとこれは入れましょうね。あと、ウチではアスパラも入れてるから……と」
中々食材が決まらない奴らを尻目に、アニスはテキパキと必要なものをカゴの中へ入れていく。
母さんに代わって買い出しへ来ることも多いそうだから、慣れたものというわけだ。
「ルカさんも、好き嫌いしてたら大きくなれませんからねー」
「うっ……しっかりしてるなあ、アニスちゃんって……」
オレやエスカーが言ったら怒りそうなことも、アニス相手だと言い返せないようだ。
事実、アニスはしっかり者だからな。オレだって敵わないし、そもそも反論なんてするわけもない。
「さてと、お野菜はこのくらいにして、皆さんお待ちかねのお肉に行きますか」
「やったあっ」
落ち込んでいたルカが、肉と聞いてすぐさま元気を取り戻す。
単純なヤツだけど、こういうところが見ていて楽しいよな。
肉のコーナーに移動すると、皆ウキウキした足取りで散開していく。
それから普段は買わないような、お高めの肉をこぞって持ち帰って来るのだった。
「見て見て、このお肉百グラム千ペンドするんだって!」
「こっちは希少部位って書いてたよー! 絶対美味しいやつ!」
高かろうが希少だろうが、絶対美味しいという保証はないと思うが。
まあ、綺麗にサシが入った肉だし、これならかなり品質は良さそうだ。
オレの自腹だったら拒否していたに違いないけれど、イオナたちが割り勘を申し出てくれている。
痛むのはオレの財布だけじゃないので、ちょっとくらいは贅沢してやろう。
「うん、案外バランス良く買えました。牛に豚に鶏、それに魔物肉まで。量も丁度良いんじゃないかなと」
「えへへ、アニスちゃんのお墨付きがあればオッケーだね。後は……」
「マシュマロ買いましょう、マシュマロ」
……マル、マシュマロ好きだな。
ご要望通りマシュマロをカゴへ突っ込み、他に幾つかそのまま食べるお菓子も入れる。
最後に飲み物を数種類買い込んで、賑やかどころかうるさいくらいの買い物はとりあえず目的達成と相成った。
「二万七千ペンド……いや、これくらいで済んだと思うべきか?」
「八人分の食材だし、滅茶苦茶贅沢したって感じでもないと思うよー」
イオナがそう言いながら、テスタマイザーの機能でパパッと一人当たりの支払金額を出してくれる。
マルを含めた六人で割って、一人四千五百ペンドの支払い。
普段の学食が安いのでどうしても高額に感じてしまうが、これくらいなら許容範囲内かな。
「ふふ。高級お肉、楽しみねえ」
「だな。こいつは夜に沢山いただくとして、今はどこかで昼飯を食って帰るとするか」
モール内にはフードコートやレストランも複数入っているので、食事に困ることはない。
飲食店舗が固まっているのは四階なので、オレたちはエスカレーターに乗って上階へ向かうのだった。




