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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の狭間 第一の災禍が去り
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199.食卓を囲んで

 家に上がり、オレたちは廊下を抜けてリビングに向かう。

 大きな掃き出し窓のあるリビングには、夕陽の赤が差し込んでいた。

 母さんがエプロンを付けていたから察していたけれど、室内には既に良い匂いが立ち込めている。

 通話での宣言通り、腕によりをかけて料理を作ってくれているようだ。


「あ――」


 辿り着いたリビングには、先客がいた。

 我が家のもう一人の家族――妹のアニスが。


「おう。帰ってきたぜ、アニス」

「……お兄ちゃん」


 帰ってきたことは把握していたはずだが、アニスは少しドギマギしているように見えた。

 少しばかり沈黙があった後、


「その……おかえり」


 視線を逸らしながら、小さな声で妹は呟く。

 さっき母さん、アニスは出迎えが恥ずかしいみたいと言っていたっけ。まあ、初対面の奴らがこれだけ押し寄せたら恥ずかしがるのも当然か。

 ……全く、我が妹ながら愛い奴め。


「わあ、この子がダインの妹さん? 可愛いー!」


 目をキラキラと輝かせ、声を上げたのはイオナだった。


「アニスちゃんって言うんだー……私はイオナ、よろしくね」


 自己紹介は食事の席でと思っていたのだが、イオナは握手まで求めに行く。

 アニスは目を丸くしていたものの、押しの強さに負けてとりあえず手を握り返していた。

 まあ、イオナが興奮するのも無理はない。

 決して兄の贔屓目とかでなく、アニスは実際、学校でもマドンナ扱いされるほどの可愛らしさを誇っているのだ。

 後ろで結んだポニーテールの茶髪、くりくりとした赤色の瞳。

 身長はやや小柄だが、ほっそりしているわけではなく健康的な感じ。

 幼少期から周囲の人にはお人形さんみたいだと持て囃されていた。


「うんうん、イオナも分かるよな……ウチの妹は最高に可愛いんだよ」

「……はえ?」


 オレが全面的に賛同するのに、何故かイオナは呆けたような声を漏らす。


「昔からアニスに告白してくる男子は数知れず……でも見合う奴なんかいやしないし、まあいてもオレが許さんが」

「へ、へえ……」


 ルカも何かに気付いたように目を逸らした。

 ただ妹のことを紹介しているだけなのに、変なリアクションだな?


「オレがいなくて寂しくなかったか? しばらくはこっちにいるからな、安心してくれ」

「……アハハ、これは……」

「なるほど、ダインくんってこういう一面があったのねえ……」

「フッ……ちょっと、申し訳ないですけど、面白いですね」


 何だかチームの全員から、奇異の目で見られている気がする。

 特におかしなことは言っていないはずなのに。


「……お兄ちゃん、ウザい」


 そこでアニスから、突き放すような冷たい一言がピシャリ。

 驚いたオレに、アニスと寄り添うように立つイオナが追い打ちをかけてきた。


「――そっか。ダインって……とてつもなくシスコンなんだねえ……」


 ――嘘だろ?


 その指摘は、自身の振る舞いが妹を持つ兄として当たり前だと考えていたオレにとって、あまりにも衝撃的なものだった……。





「わあ……美味しい! えへへ、食べるもの全部美味しくて幸せだなあ……」


 テーブルに並べられた料理の数々に舌鼓を打ち、幸福そうな表情を浮かべるイオナ。

 彼女だけでなく、メンバー全員が母さんの手料理の虜になっているようだった。


「ホント、美味しいねえ……ボクもこんな料理が作ってみたいもんだよ……」

「美味しいご飯が毎日食べられてたなんて、ダインくんも幸せ者ねえ」


 皆が絶賛するのに、母さんは嬉しそうにしながらも、


「今日は皆を歓迎しないとって、なるべく豪華なものを用意しただけよ。いつもはもっと簡単なものしか作らないんだから」

「それでも料理の腕は凄いと思います。見た目の豪華さはなくとも、普段から美味しいものを作られてるのは私も分かりますよ」


 シビアに判定を下すマルも、手放しにその腕前を褒めている。

 ただ一人無言のまま料理に手を付けているエスカーですら、食べる手が止まらないといった風に見えた。


「フフ……ダインがチームを組んだのは一体どんな子たちなのかと思っていたけれど、皆いい子みたいで安心したわ」

「まだ軽く自己紹介して、夕食を囲ってるだけだけどな」


 食事の合間に自己紹介だけは済ませられたが、積もる話は食後になるだろう。

 二泊三日のお泊り会だ。まだまだ先は長い。


「しかし、ダインの妹愛がこんなに強いってのはビックリだったなあ。流石のボクもちょっとうわあってなったもん」

「うるせ。これくらいがフツーだ」

「絶対普通じゃないよ、お兄ちゃん……」


 あくまで認めないオレに、妹本人が普通じゃないと突き放してくる。

 ……そこまでハッキリ言われてしまうとかなりショックなんだが。


「でも、可愛らしい妹さんなのは認めるよ。きみには勿体ないくらいだねえ」

「お前、アニスにちょっかいかけたら命は無いと思えよ?」

「しないって。ハハ……妹さんのことになると冗談も通じ無さそうだ」


 お前の冗談がどこまでなのかが毎回ハッキリしないんだよ、エスカー。


「こういう兄を持つと、妹も苦労しそうですね。そこのところどうなんですか、アニスさん」

「ええと……まあ、苦労はしてますけど。悪気があってのことじゃないんで、仕方ないなあって」

「あら、出来た子ねえ……これはダインくんも、もっと客観的に自分を見ないとダメよ」

「はあ……反省します」


 何だか、女性陣から総叩きにされている。

 オレはそんなに妹の迷惑になっていたのか……ぐう。


「この煮物美味しいー……マリアさん、ご飯のお代わりありますかっ」

「はいはい、あるわよルカちゃん。ちょっと待ってて」


 沢山あった料理も、八人いれば物の見事に消えていく。

 十五歳はまだまだ育ち盛りだし、これだけ食べるのも驚くことではないだろうけど。

 大方の料理が片付き、皆が満足そうにお腹を擦っていたところに、


「最後はデザートもあるから、遠慮なく食べてね」


 母さんはお手製の大きなプリンを、一人一人の目の前に置いていく。

 この素敵なサプライズに、特に女性陣は跳び上がらんばかりに喜んでいた。


「……ふー、食べた食べた。これ以上食べらんないや」

「本当にねえ……こんなに美味しいご飯が明日も食べられるなんて、贅沢だわ」

「あらあら、あんまりハードルを上げないでほしいのだけれど。それに、明日はバーベキューでもしようかと考えてたところなの」

「へえ、バーベキューですか。あのお庭で?」

「そうよ、エスカー君。ありがたいことにウチのお庭はそこそこ広いし、ご近所さまとも距離があるから」


 三人で暮らしているときも、時折バーベキューをしたり、或いはピザを焼いたりすることはあった。

 なので野外の調理器具が収められた倉庫もあれば、焼き窯まである。異世界コリンシアの拠点みたいだな。

 デザートまですっかり平らげ、食器類が一度引き上げられると、母さんは食後の飲み物を淹れましょうと言ってくれる。

 紅茶かコーヒーかを訊ねられ、答えは大体半々に分かれた。

 キッチンに戻った母さんはケトルで湯を沸かし、テキパキと人数分の飲み物を用意して。

 温かな飲み物をお供に、オレたちはいよいよ学園での話を始めようか、という段になるのだった。


「……あの、その前に一つお聞きしたいんですけど」


 おずおずとそう切り出したのは、アニスだ。


「なあに、アニスちゃん?」


 妹に優しい同僚だと思われたいのか、イオナが優しい声色で訊ねる。


「お兄ちゃんのことを心配してるってわけじゃあ、ないんです。ただ、その」


 アニスは躊躇いがちにそこまでを言い、咳払いを一つしてから、


「……お兄ちゃんは皆さんと上手くやれてるでしょうか。悪いように思われて、ないでしょうか」

「アニスちゃん……」


 それは、意外にも兄を心配するもので。

 正直なところ、オレはそんなことを聞いてくるとは思っていなかった。

 どちらかと言えば、今は思春期……兄から向けられる好意が疎ましくなる時期だから仕方ないとは考えていたのだ。

 オレの好意が行き過ぎたシスコンだと指摘されたのはショックだったが……それはともかく。


「……ふふ、結局は兄妹ってことなんだなあ」


 ルカがどうしてか得意げな顔になる。


「良い妹さんを持ったねえ」


 エスカーもニヤニヤしているし、他の奴らも微笑ましそうにオレとアニスを見つめている。

 そういう視線を向けられると、流石に気恥ずかしくなってしまう。


「あのっ、そこまで気にしてませんから。というか、こんな兄が迷惑かけてないかが心配なだけですから……」

「アハハ、こんな兄なんて言われちゃってる」

「うるさいぞ、エスカー」


 一しきり笑われた後、口を開いたのはイオナで。


「ゴメン、ゴメン。……アニスちゃんが心配するような迷惑なんて、ダインはかけてないから安心して」

「ある意味困らせるようなことは、たまにあるけどもね?」

「フェイさん、蒸し返さないでください……他の人も心当たりがあるでしょうし」

「ダインって、いわゆるボクネンジンだもんねえ」

「……お前ら、結局悪口言ってねえか?」


 そんなことないわとフェイが笑って、


「それがダインくんの良いところってこと」

「ええと……」


 アニスの方も、良く分からずに困惑していたけれど、


「そうだね……ダインはいつでも私たち一人一人をちゃんと見て、引っ張ってくれる。リーダーに相応しい人だと思ってるよ」


 イオナはそれが嘘偽りない言葉であることを示すように、アニスを真っ直ぐに見つめながら告げた。

 ……リーダーに相応しい、か……。


「……なら、良かったです。何と言うか、お兄ちゃんはどこへ行ってもお兄ちゃんだなって思って、ホッとしました」

「うんうん、やっぱりいい子だねえ、アニスちゃんは……」


 すっかりアニスを気に入ったイオナは、隣に座っていることもあってアニスの頭を撫でそうな勢いだ。

 妹の方も、褒められるのは満更でもないらしく、ほんのり頬を赤らめている。……二人、割と相性が良さそうだな。


「裏表の無い性格ってヤツなんだろうね? 羨ましい限りだよ」

「まあ、お前は何が表かも分かんねえからな……」


 オレが溜め息交じりに突っ込むのに、エスカーは失敬なと返してくる。

 そうは言うけどお前、オレが皮肉で返すのも想像付いていただろうに。


「皆さんが優しくて嬉しいです。その――これからもお兄ちゃんを、よろしくお願いしますね」


 アニスがペコリと頭を下げる。

 それを受けて、イオナたちも任せてとばかりに力強く頷くのだった。


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