197.帰省の日
そして土曜日。とうとうチームメンバーとともに実家へ帰省する日がやって来た。
イオナが生徒会の仕事で忙しいとのことだったので、列車に乗るのは夕方五時前を予定している。
それまでは、荷造りを済ませつつ時間を潰すのみだった。
母さんには午前中のうちに連絡を入れ、今日ちゃんと帰ることを改めて伝えた。
美味しいご飯を作って待っているから、のんびり帰っておいでとのこと。我が母らしい台詞だ。
早いような遅いような半日を過ごし、時刻はやがて四時半を過ぎる。
もうそろそろ出ようかと、オレはカバンを背負い込んで自室を後にするのだった。
「ふう――」
天候も良く、空は茜色に染まっている。
家に帰ってゆっくり出来るときくらい、天気も晴れているのが良いさ。
ちょっと早かったので、駅にはオレが一番乗り。
まあ、ホスト側の人間になるわけだから早い方がいいか。
「やっほー、やっぱダインが一番早いんだね」
最初に来たのはルカ。朝は弱くて朝食の席に遅れてくる彼女だが、この時間なら早く集合出来るらしい。
心なしか、他に誰もいないのを嬉しく思ってるように見えるけれど、それなら普段から早く集まってほしいぞ。
「ふふ、ダインの実家かあ……楽しみだな」
「つっても、飯食って遊んでってくらいだけど。二泊三日で良かったのかねえ」
「ちょうどいいと思うよ? お母さんや妹さんとも仲良くなっておきたいし……」
「仲良くって、そこまでならなくてもいいだろ」
「なりたいんだからいいでしょっ」
まあ、駄目という義理はもちろんない。何でそんなになりたがってるんだよ、とは突っ込みたくなるが。
「あら、またルカちゃんを怒らせてるの?」
次にやって来たのはフェイ。オレたちのやり取りを見てクスクスと笑っている。
「怒ってない」
「怒らせてない」
という返事を同時にしてしまい、それがまたフェイを笑わせることになった。
「ふふ、ルカちゃんは誰とでも仲良くなれていいわね」
「フェイも親しみやすいと思うけどなあ。ダインの家に行くの、実は不安?」
「そうねえ……人様のお家というのはちょっと、緊張してる部分もあるかもしれないわね」
振る舞いは落ち着いているだけに、緊張しているというフェイの発言は意外だった。
でも、母さんも妹もフェイみたいなタイプは好きそうだし、大丈夫だと思う。
その旨を伝えると、フェイは良かったわと胸を撫で下ろしていた。
「おや……案外皆さん早いですね」
この声はマルだ。こちらも声を掛けようとして振り返り、目に入った彼女の姿に少し驚く。
普段はシャツとズボンなど中性的……というかオペレーター業務のし易さを求めたような服装をしていたのが、今はカーディガンにスカートと女の子らしい装いに身を包んでいる。
よく見る彼女の姿とのギャップに驚き、恥ずかしながら少し見惚れてしまった。
「マルちゃん、すごく素敵じゃない。普段からそういう格好しててもいいのに」
「ねー! オシャレだよ、マル」
「よ、よしてください……他所様の家に泊まり込みというので、だらしない恰好じゃ駄目だと思っただけですよ」
「あれも仕事用だし、だらしない恰好ってワケじゃないだろ。でも、今の服装だって可愛らしいんだから、普段から着てても良いと思うぞ」
フェイたちが褒めるのでオレも倣おうとしただけなのだが、マルは何故か俯いたまま黙り込んでしまう。
……何か変なことでも言ってしまったか?
「……ダイン、そういうトコあるよねえ」
「そういうトコって何だよ」
「フフ……ダイン君らしいわね」
ルカもフェイも具体的には教えてくれないし、マルはマルで、
「はあ、構いません。ちょっとビックリしただけですから……」
そんな風に肩を落として溜め息を吐くばかり。少し心外だ。
答えが分からずモヤモヤしているところに、
「お、大体揃ってるねえ。怪しい空気だけどどうかした?」
こちらはいつも通りの軽薄さで、エスカーが到着する。
今はコイツにでも助け舟を出したい気分だ。
「何でもないよ。ダインのよくあるヤツ」
「アハハ、そっかそっか。詳しく聞きたいところだけど……っと。また今度にしておくかな」
マルの冷たい視線に気付き、エスカーは追及しないことに決めたようだ。
……ううむ、怒らせたわけではないと思いたい。
「さて、後は最後の一人かな?」
「ああ……生徒会の仕事を終わらせてから来るんだろうけど――」
オレがそう話している間に、北の方から人影が近づいてきた。
小走りでこっちへ駆けてくるのは他でもない、イオナだ。
「ごめーん! やっぱり遅くなっちゃった。時間大丈夫かな?」
「仕事お疲れ。まだ列車は出てないから大丈夫だよ」
そう告げると、彼女は良かったと安堵の息を吐く。
「大変そうだね……?」
「そうなんだよ、ルカ。まだ入りたてなのに凄い数の書類を処理しなくちゃならなくって……頭の中で数字がずっとグルグルしてたよ……」
「ぼ、ボクには絶対無理だな……ホントにお疲れ」
疲れ果てた様子に、流石のルカもイオナへ労いの言葉を掛ける。
しかし、新人にも容赦がないと言うか……忙しいという触れ込みに嘘偽り無し、だったわけだ。
「ま、無事に仕事を終えられたんだし、後は休暇だ。せめてウチではのんびり過ごしてくれ」
「ん。のんびりかどうかはさておき、楽しく過ごさせてもらうつもりですよ!」
そう答えてイオナはパッと笑顔を浮かべる。
楽しく過ごさせてもらう……か。帰るとき、ああ楽しかったと思って貰えるようなお泊り会にしたいものだ。
全員が揃ったところで、遠くから汽笛の音が聞こえてくる。
列車の方も駅にご到着のようだ。
「良いタイミングだ。それじゃ列車に乗るとしますか」
「ダインの家までレッツゴー、だね」
以前も聞いたようなイオナの掛け声に苦笑しつつ、オレたちはホームへ滑り込んだ列車に乗り込む。
帰省する生徒はもう朝方には出て行ってしまったのか、列車には他に数人しか乗り込んで来ず、ほぼ貸し切りの状態だ。
定時になると、再び汽笛の音が鳴り響き、列車は動き始める。
夕陽をその身に受けながら、オレたちを乗せてセント・ロウディシアへ。
時間にして四十分ほどの移動も、雑談をしていれば存外早いもので。
眠る間もなく列車はオレたちを、賑やかな街へと運び込んでくれるのだった――。




