196.反省と成果
「……それで怒られちゃったんだ? 私たちが歓迎会に行ってる間に」
「悪かったって」
夕食の席で、オレたちは今日の活動を各自報告することにしていた。
そのメインとなるのは試験についての情報なので、まず前座は済ませておこうと、オレは昼間の資料室での一件について語ったのだった。
ちなみに、あれから少しばかり資料を漁ってみたが、目ぼしい情報は見つからなかった。
エクリプスという事象についても、イオナから聞いた以上のことは何も記載されてはいなかった。
「ま、俺が尾けてるところに偶然リーダーが来ちゃった感じだからねえ。あんまり責めないであげてよ」
「エスカーを怒るのは当然として。ダインもメンバーが変なことしてたらちゃんと止めるように」
「はは……分かったよ、イオナ」
大概のことは仕方ないなあ、というくらいで許してくれそうなイオナも、ルール違反には流石に厳しい。
まあ、オレも過ったことだが退学云々の話をしていた直後の行いだし、何考えてるのと怒るのも無理からぬことだ。
「良かったね、エスカー。退学者第一号にならなくて」
「残念そうな顔してるのはどうしてかな、ルカくん?」
「してないよー?」
言いながらも、ルカはニヤニヤと笑う。これが冗談だからまだいいが、現実になっていたらルカだってとんでもない迷惑を被るのだ。
行かないでと泣くか、或いはあの野郎と怒り狂うか。どっちかになっていたことだろう。
「あんまり怒るのも可哀想だから、このくらいにしておきましょう? それより、報告をしなくちゃね」
「建設的で助かるよ、フェイ」
エスカーが笑いかけるのに、じゃあボクたちは建設的じゃないの? と怒るルカ。
そういうわけじゃないと弁明させられてから、エスカーはフェイに先を促した。
「じゃあ、まずは私たちから。文芸部の私とマルちゃんは、部長のトーマスさんに話を聞いてみたわ」
「はい。私とトーマスさんは比較的長い付き合いですが、試験のことを訊ねたのは初めてでしたね。彼がオペレーターを務めていたチームは、実技試験でレアモンスターを一体討伐するというお題が出たそうです」
トーマスさんのチームは、オレたちが以前遭遇したゴールドスクワールのような魔物が討伐目標に設定されたらしい。
強さとしてはせいぜい一ツ星ランクなのだが、レアモンスターの場合そもそも見つけること自体が難しい。お題を聞いた瞬間はチームメンバーもトーマスさんも頭を抱えたとか。
「ただ、目標の魔物が生息する場所の周辺住民が、目撃情報を持っていまして。それを頼りに探すと一時間足らずで見つかったようです。まずは聞き込みから始めようと提案したトーマスさんは功労者だと褒められた、なんて話していましたね」
「単純な討伐依頼じゃなかったってことかあ。いくら腕っぷしが強くても、情報収集能力や運も持ち合わせてないと駄目なときもあると」
「実のところ、運の要素は最小限だったみたいですが。前日に学園側が、現地で魔物の存在を確認していたということなので」
なるほど。お題を出す学園側も、目標がちゃんとそこにいることを確かめてから設定しているわけだ。
だとすれば、そんな魔物最初からいなかったんじゃないか、という文句は通用しない。よほど運が悪かったと嘆くしかないだろう。
「ボクの方も部長のメイト先輩に聞いてみたけど、あんまり覚えとらん! って返されちゃって。普通に魔物を倒しただけとかも言ってたから、トーマスさんほど難しい依頼じゃなかったっぽいけどね」
「はは……あの人なら言いそう。でも普通の討伐なら、魔物はそれなりに強かったんだろうね。難易度のバランスはとるはずだから」
「だと思う。当時から本人が強かったんじゃないかなあ」
あの小っちゃな先輩――メイトさんも、セアルさんと同じように周囲からは頭一つ抜きん出たイマジネーターらしい。
三年目や四年目にもなると、生徒同士でどうしても実力に大きな差が出てくるようだ。だからこそ、リタイアする者も大勢いる。
「私はスキアさんとアクアさん、それにシエラさんにも聞いてきたよ。スキアさんたち姉妹はワールドスクリプトのとある洞窟に討伐対象がいて、制限時間内に帰ってくるのが大変だったみたい。それから、シエラさんの方は二ツ星依頼相当の魔物を討伐するものだったんだけど……実はその魔物、天候によって場所を変える習性を持ってたんだって」
イオナが持ってきた情報も中々興味深いものだった。
目的地が遠いパターンに、魔物の生息地が変動するパターン……これらも魔物自体は問題なく倒せるとしても、他の要因で失敗する可能性があるお題だ。
こうして幾つも情報を集められて分かったが、イオナがさっき言った通り、試験の難易度はバランスがとられている。
強力な魔物を倒さねばならないか、或いは魔物は楽に倒せても他のところで苦労するか……いずれにせよ、余裕で終えられるなんてことはなさそうだ。
「実はオレも、昼にシモンさんと偶然話す機会があって、試験について聞けたんだけど……気を抜くな、目的を果たして帰還するまでが試験だって感じのことを言われたんだよ」
「へえ……あの管理人さんがそんなアドバイスを」
フェイが嘆息を漏らす。彼女も他の面々も、シモンさんと顔を合わせることはあっても話まではしないだろうし、意外に思うのも自然なことだ。
オレも話しかけられたときはビックリしたものな。
「総合的に考えると、簡単そうに見えるお題ほど裏があるってことだねえ。油断ならなさそうだ」
「オペレーターの判断とか情報提供も重要になってきそうだな」
「もちろん、やれる限りのことはやりますよ。そして最後は皆さん次第です」
全員が一致団結して、油断せず試験に臨む。
基本も基本だが、それは決して忘れちゃならない心構えだな。
「……ところで、今日試験を受けた組はどうなったんだろうね? ちょっと気になるや」
「ああ、二組受けてたんだっけか」
ルカの言葉で思い出したが、今回の試験申請は先約があった。
その二組がどうなったかは、確かに気になる。
「どちらも合格したようですよ。ちなみに三級と四級なので、私たちより上です」
「ふむふむ、それは何より。私たちも続かなきゃって感じになるね」
先の合格者たちに続けるか……いや、絶対に続くんだという気持ちで頑張らねば。
「とりあえず、来週の雷曜日に一度チャレンジしてみるのは確定でいいな?」
オレの問いかけに、否定を示す者はいない。
「そんじゃ、この場で申請だけ入れとくぜ。休み明けに埋まってたら出鼻を挫かれるし」
「長期休暇の後じゃ入れるチームは少ないかもだけど、決めつけちゃうのも油断でしょうしね」
フェイの言葉に頷きつつ、オレはテスタマイザーを操作して申請画面まで辿り着く。
そして来週の雷曜日、まだ誰も申請していない昇級試験の申込ボタンを、ドキドキしながらタップした。
「……よし、申請完了。あとは試験に臨む、それだけだ」
「いざやるとなると、少し緊張してきちゃうけど……全力でやりきって、合格を掴まなくっちゃね」
「ああ。やってやろうぜ、皆」
力強い頷きが返ってくる。
ただそれだけで、大丈夫だと安心できる自分がいた。
シモンさんの言う、仲間を信じること。その大切さを噛みしめつつ。
オレは後の時間を、他愛もない会話に興じながら過ごしたのだった。




