17.テスタマイザー
「イマジネーターにとって最も大事なアイテム――それはもちろんブースターなのですが、技術の発達によって他にも便利なアイテムが出てきました。というわけで、まず皆さんに覚えていただきたいのがコレ……総合端末『テスタマイザー』の操作方法です」
昨日、新入生に支給された腕輪型のデバイス……これはテスタマイザーというシロモノらしい。まだ説明されていないゆえ、寮の鍵と連絡手段にしかなっていないが、もっと多くの機能を有しているのは間違いない。
そもそも、イオナはこのテスタマイザーからブースターを出現させていた。つまり、この腕輪の中にブースターが格納されているわけだ。ならば最初に学ぶのがテスタマイザーの機能というのは理に適っている。
「寮などの認証キーにもなるので忘れた方はいないと思いますが、皆さんお持ちですね?」
メルシオネ教官の問いに、皆肯定の頷きで返す。
それを確認してから、
「結構です。……さて、このテスタマイザーなんですが、機能が多岐に亘っておりまして。簡単に説明はしていくものの、使っていくうちに慣れるというのが基本になることでしょう。まずは基本的な機能の紹介から始めて、最後にブースターの出力を行いますので、しっかり覚えてくださいね」
講義が始まり、まずメルシオネ教官は基本的な機能から紹介を始めた。
デバイスを認証の必要なセキュリティにかざすことでロックを解除するキーになる機能と、連絡先を交換して通話やチャットを行ったり、或いは学園側からのお知らせを受信できるようなソーシャル機能。既に知っていたこの二つ以外にも、アラームや計算機、カレンダーといった生活を助けてくれる便利なシステムが備わっていた。
それから、生活面で最も重要と思われる機能が、次に紹介されたものだ。
「これは皆さんが生きていく上での、まさに生命線となるものですが、ポータルバンク機能というものもあります。その名の通り、このテスタマイザーには金庫のように通貨――ペンドを貯めることが出来まして、売買などの際には現金を直接やり取りすることなく、テスタマイザー内のお金を変動させて取引が出来るわけですね」
「へえー……この中にお金が」
ロウディシアの統一通貨、ペンド。オレが生まれる前くらいには、個人間では現金払いしか手段がなかったらしいが、近年は銀行と契約してカードを発行し、口座から引き落とす形で決済するような方法も普及してきている。
テスタマイザーはそういうカード形式よりも更に利便性が高い感じがする。リアルタイムで、しかも現物無しで資金のやり取りが完結するわけだものな。
「ポータルバンクというところをタッチすれば開けます。トップ画面には現在自分が所有している資金の額が出てきて、支払などのボタンを押せば該当の処理が行われます」
言われるまま画面を開くと、そこには『30,000ペンド』という額が表示された。……あれ、既にこれだけのお金が入っているのか?
「驚かれた方もいるかもしれませんが、皆さんには最初から三万ペンドが支給されています。というのも、これ以降は食事や道具の購入など、全てを自己資金でやりくりしてもらうことになるからです。イマジネーターとは仕事ですから、それも当然ですよね?」
――まさにその通り、だな。
学園のこのスタンスは、決して冷たいものではない。むしろ、イマジネーターとして立派に育つための厳しさだ。
ついていけないようならば、イマジネーターとして生きていくことが困難ということ。それなら命を落とす前に、辞めてしまった方がいいだろうし。
ある程度放任主義である方が、成長するには良い刺激となるはずだ。
しかし、三万ペンドか……食パン一斤とかリンゴやバナナくらいが百ペンド、外食するなら安く済ませても五百ペンドくらいはかかる。
一ヶ月の食費にもギリギリ届かなさそうな金額なので、早々に資金を稼いでいく必要があるわけだ。
これで寮費も払わないといけないとかだと、ちょっと苦しかっただろうし、無償で寮に住めて本当に良かった。……まあ当然、親が払っている学費にそこは含まれてるわけだが。というか突き詰めれば、この支給金だって同じものか。
「また、このポータルバンクに似た機能として、アイテムバンクという機能もあります。こちらもイマジネーター業を助ける優秀なもので、道具や素材をテスタマイザー内に収納出来てしまうんですね」
例えば、と前置きしてからメルシオネ教官は何かを取り出して地面に置く。
それは動物……いや、恐らくは魔物の牙のようだった。
「有用な素材を収集できる魔物を討伐した際、アイテムバンクの収集機能を利用すると――」
テスタマイザーを操作するメルシオネ教官。軽やかな電子音の後、彼の前に置かれた牙は光の粒子のように変化し、それがテスタマイザーの中へ吸収されていった。
「――このように、簡単に収集が出来るわけです。苦労して剥ぎ取る必要もないわけですね」
魔物の死骸から、有用な素材を自動選定して取り込んでくれる、ということか……驚きの技術だ。
なるほど、メルシオネ教官の言う通り、これだと牙を引っこ抜いたり毛皮を剥いだりする作業が必要ない。昔のイマジネーターが見たらずるいと僻みそうなくらいの便利さだ。
テスタマイザーの中へ格納した素材やアイテムはどう取り出すのかというと、それは該当の品を選んで排出ボタンをタッチすればいいそうだ。こちらも簡単な手順だな。
……そう言えば、コンストラクターはどうなんだろう。疑問に思っていると、
「コンストラクターの方々も、今ではこれと同じシステムの装置を使っているようです。便利なものは普及するんですね」
メルシオネ教官がタイミングバッチリに答えてくれた。やはり、これだけ有用なら誰でも使いたいだろうさ。
「なお、以前は『集魔器』と呼ばれていた装置も現在ではこの収集機能に内包されていまして、魔物の死骸に残存するマナをイマジネーターの魔力に変換してくれる……魔力の回復が出来るオマケもあるのです」
魔物とは、マナの変異によって世界に産み落とされるもの。だからその根本はマナであり、正常化されればそれを魔力として取り込めるというわけか。
戦闘が終わって酷く消耗していても、魔力を回復させ体を癒すというようなことが可能になるのはありがたい。
実際、どれくらいの回復量があるかは実戦で確かめるしかないだろうけど。
「それから、自身の現在ステータスを確認する機能なんかも備えています。こちらについては、後ほど皆さんに行っていただく測定室での確認より精度は落ちますが、遠征先で魔物を倒したりして、自分がどれだけ強くなったかを簡易的に知るには最適な機能でしょう」
これは昨日、コーネリア校長が見せてくれたヤツだな。目標の能力値を決めておいて、そこに達したら帰還するという訓練も出来そうだ。
メルシオネ教官の能力もちょっと見てみたい好奇心はあったものの、残念ながらステータス開示まではしてくれなかった。
どうも、画面自体が表示設定じゃない限り、自分にしか見られないようだ。その辺はプライバシーというわけだな。
「……ここまでで、説明は大方お終いです。残すところはいよいよ、皆さんが心待ちにしているブースターについてですね」
……とうとう来たか、ブースター。
生徒たちも期待に声を抑えきれなかったようで、ざわめきが起こった。
オレはひょんなことから先んじて使ってしまったが、他の生徒たちはワクワクしているに違いない。
自分は一体どんな能力を発現できるのか、と。
「これから皆さんにブースターの出力方法をお伝えし、そして実際に使用してもらいます。どのような能力を持つのかは、ご存知の通り皆さん次第ですので……心の準備だけ、しておいてくださいね」
心の準備、か。言い得て妙だ。
他の子たちよりは落ち着けているけれど、オレもそれなりには緊張しつつ、教官の次なる説明を待った。




