193.首尾は上々?
オリーブ丘陵を下り、アトモス学園へ戻ってきたオレたち。
学園に到着した段階で、時刻はまだ三時を回ったところだった。
討伐依頼だけなら、現地でテスタマイザーを使って報告可能だが、今回は納品依頼も同時に受注している。
そのためA棟の依頼掲示室に寄って、素材を受付のフィンクスさんに受け渡す必要があった。
「あの人に会うの、特別依頼の件以来だねー」
「あれからジャンヌさんに会って、対策チームに入って……大忙しだったからな」
依頼の受注どころか、新人イマジネーターらしいことをあの後全く出来ていない。
ようやく分相応な仕事をやれるのだ、という気持ちだ。
「お、久しぶりやねェ。こんにちは」
A棟に入り、依頼掲示室の扉を開けたオレたちを、朗らかな笑顔と声でフィンクスさんが迎えてくれる。
こちらも挨拶を返し、軽く世間話を交えつつ依頼の報告を行った。
「ふんふん。糸玉もちゃんと三つあるし、請けてる依頼は全部クリアやね。お疲れさん」
納品素材を裏手にある専用のバンクにしまいこむと、フィンクスさんは慣れた手つきで端末を操作し、オレたちに報酬を振り込んでくれる。
三つの依頼を総計した報酬額は、一万八千ペンド。一人当たり三千六百ペンドだった。
それから、今のオレたちにとって大事なのが学園の評点。
こちらはキラーウルフの討伐が三点、ベノムスパイダーの討伐と素材集めが二点だったので、計七点のプラスとなる。
「えっと、これで君らの評点は……八十五点か。いやァ、他のチームと比べて抜きん出とるねェ。ボクもこんなん初めて見るわ」
「はは……ちょっと恥ずかしいですけど、ありがとうございます」
八十五点。マルが昇級試験に合格したラインである八十点はこれで超えられた。五点も余裕はあるし、これで恐らく大丈夫だろう。
「あのジャンヌさんに認められて、イレギュラー対策チームになったんやもんなァ。これくらい成績良くても当然か」
「褒め過ぎですって……それよりフィンクスさんもイレギュラーのこと、ご存知なんですね」
「ボクも五年目やし、何度か戦った経験もあるからね。いや、年数はあんま関係ないかもしれんけど」
学園を卒業したイマジネーターでも、遭遇していなければイレギュラーのことは基本的に伝えられない。
フィンクスさんも、その辺りの事情まで理解しているようだ。
「今更ですけど、フィンクスさんが特別な依頼とか言って、オレたちとジャンヌさんを引き合わせたんですよねえ……」
「あ、嫌やった?」
「騙された! ……なんて気持ちもありますけど、後悔はしてませんよ。そのおかげで、異世界一つを救えましたから」
「ええこと言うねェ。ボクも君らがイレギュラー対策チームになって良かった思てるよ」
フィンクスさんは快活に笑う。
「そうだ……私たち、来週以降に昇級試験を受けようと思ってるんです。フィンクスさんから見て、私たちって合格出来そうですか?」
イオナが試験について訊ねてくれる。この問いかけにフィンクスさんは特に迷わず、
「四月中ってのは聞いたことない早さやけど、君らならまず合格出来る思うよ。落ちてもまたトライすればええだけやし、受けてみて損はないんちゃうかな?」
「はは、そう言って貰えると気が楽になりますよ」
落ちてもまたトライすればいいだけ、か。気負わずやってみなというのはフィンクスさんらしい言葉だ。
そうとも、足元は固められているのだから、後は受かるまで何度でもやってやればいい。
「次は二ツ星以上の依頼を請けに来るの、待ってるでェ。昇級試験、頑張りや」
「……はい! 新しいライセンスを提げて、またここへ来ますよ」
大先輩からの温かいエールを受けて、オレたちは依頼掲示室を後にするのだった。
*
久しぶりに新入生らしいスケジュールをこなしたオレたちは、少しの自由時間を過ごした後に夕食の席を囲む。
そこで、明日の各自の予定について話し合った。
「私たちは予定通り、歓迎会で先輩方から情報収集だねー」
「私は歓迎する側ですが、フェイさんと一緒に探らせてもらいますよ」
女性陣は部活等に入っているので全員が試験の情報を聞いてきてくれる。
イオナが生徒会、ルカがスイーツ同好会、そしてフェイとマルが文芸部だ。
これだけ多岐に亘っていれば、沢山の情報を得られるだろうと思う。
「俺たちは寂しく待つ側になっちゃうねえ」
「全然申し訳なさそうな顔してないけどな、お前は。……一人じゃ依頼も請けられねえし、実際待ってるしかないかね」
先日も同じことを言ったが、部活に入っていないオレやエスカーは蚊帳の外だ。
歓迎会中は学内を歩き回る人も少なくなるだろうし、見知った先輩に会って話をする……なんてことも難しいだろう。
「鍛錬とか勉強とか、そういうので時間を潰すとするかな」
「エスカー、鍛錬なんかするのか?」
「そりゃ俺だって人並みには。真の努力家は努力を見せないんだよ」
「お前が言うと嘘臭いんだよな……」
「はあ、失礼だねえ」
溜め息を吐かれようが、日頃から信用がないのだからそこは諦めてほしい。
「……ん?」
ふいにテスタマイザーから通知音が聞こえてきた。
何だろうと画面を見ると、メッセージが一件届いている。
「誰から……」
差出人の名前を見て、オレはギョッと驚く。
そこにはジャンヌ=リブラの文字が表示されていた。
どうしてあの人からメッセージが……と緊張しながら中身を開く。
「……げ」
その文面を見て、オレはなるほどと得心すると同時に、己の行動を反省する羽目になるのだった。
『やあ、ダインくん。今日の私はロウディシア内で仕事に励んでいるのだが、昼間のアレはきみの能力だね? 測定の時に話したが、あの力は非常に強力だ。軽々しく使わない方がいいと私は思うよ』
……全く、ぐうの音も出ない正論です。




