191.評点を稼ぐべく
「……で、これが明細ね。お小遣いでもくれたのかと思ってたよ」
明くる風耀日。
朝食の席でレシートを片手にエスカーは、テーブルに片肘を突きながら呟いた。
「けど、一つで千ペンド近いってのはいいね。容量を食っちゃうにせよ、五人全員が持ち帰れるなら五千ペンドくらい稼げるんだ」
「皮算用もいいとこだけどな、エスカー。イレギュラーが五体も出てくるような状況、多分そうそうないぞ」
「また終末の危機でもない限りは、かねえ」
不謹慎が過ぎると、エスカーの頭にチョップを入れる。
そこは言い過ぎたかと思ったのか、彼はいつもの軽い調子ながら素直に謝った。
「まあ、エスカーがお小遣いって言っちゃうのも分かるかな。朝にはアレが入ってたんだし……」
「ああ……」
イオナの言うアレとは、ロウディシア・タイムズからの謝礼だ。
一人当たり一万五千ペンド……一週間必死に依頼をこなし続けたのと同じくらいの額が、オレたちの口座に振り込まれていた。
楽しく話をさせてもらってお金が貰えるのだから、ありがたい仕事だったとつくづく思う。
もちろん、それが本業ではないので胡坐をかくわけにはいかないが。
「しかも噂じゃ、エイヴスからも後々お礼が入ってくるらしいよ?」
「えっ、そうなんだ?」
エスカーの言葉に、ルカが驚いて声を上げる。
オレもその話は知らなかったし、他の面々も初耳のようだ。
「昨日の昼頃、ジャンヌさんにばったり会ってね。校長がその話を受けて配分を考えてたようだって教えてくれたんだよ」
「そうなのね……あの人から聞いた話なら、間違いないんじゃないかしら」
と言うか、エスカーもジャンヌさんに会っていたのか。
コイツのことだから、本当にばったりなのかどうかは真偽不明だ。
「確かにアレも仕事だったもんね。報酬を貰えるのは当然か」
「けど、エイヴスから依頼されていない段階でこちらから動いた一件だし、相手次第では貰えなかった可能性だってありそうだけどな」
報酬はあくまで、依頼を出した相手が支払ってくれるから受け取れるものだ。頑張ったなとアトモス学園側がくれるボーナスなどではない。
緊急性の高い案件の場合、報酬が存在しない事態だってあるかもしれない……それは念頭に入れておいた方がいいだろう。
流石にそういう場合には、学園側の補償とかを期待したくなるけれど。
「ま、とりあえず懐は暖かくなってきたわけだが、だから依頼を全くしないってワケにもいかねえ。昇級試験を安心して受けるにはもう少し評点が欲しいところだし、今日は依頼をこなすとしよう」
「賛成ー。明日は新歓だし、そこから長期休暇に入るし。今日依頼をやっとかないと、しばらく出来ないからね」
イオナが賛同してくれて、他の皆も異存は無いとばかりに頷く。
「じゃ、午後からは頑張るぞ。……いや、午前の講義も当然頑張らないといけないけどさ。特にルカは」
「むっ、分かってますよーだ!」
名指しで忠告されたことに怒って脹れるルカだが、分かっていてついて行けないならその方が問題なんだよなあ。
また勉強会を開くことにならなければいいのだけど。そんなことを思いつつ、オレは朝食のプレートを片付け始めるのだった。
*
午前の講義を乗り越え、昼食を取り終えたオレたちは、その席上でどの依頼を請けるか検討した。
テスタマイザーを使えば、依頼掲示室に行かずとも依頼を確認・受注出来るのが便利だ。
少しずつ仕事の勝手も分かってきたし、同期も一日に複数の依頼を受注しているらしいので、オレたちも可能な限りは数をこなしたい。
ということで、この日は同じ地域の討伐依頼を二つと、それに関連した収集依頼を一つ厳選し、同時受注することに決めたのだった。
「オリーブ丘陵の魔物退治、か。あそこに行くのはオリエンテーション以来だな」
「学園が使用許可を得てるところも一部あるけど、基本は誰のものでもない場所だからね。薬草を集めたり、木材を集めたり……色んな人が足を運ぶ丘陵だから、危険な魔物退治は重要でしょう」
ロウディシアの中でもオリーブ丘陵は、一般人が立ち入っても低リスクな地域の一つだろう。
セント・ロウディシア周辺の平原一帯と、オリーブ丘陵。戦う術を持たない人が、それより先へ踏み入ることは容易ではない。
換言すれば、一般の人たちが商売用の素材等を獲得するなら基本的には近場なわけで。
その場所の安全をより確保するため、商売人たちの組合が定期的に魔物の駆除をお願いする……という流れが出来ているようだ。
「キラーウルフ八匹の討伐と、ベノムスパイダー五匹の討伐……あとはスパイダーの糸玉三つの納品。これくらいなら午後の内にやりきれると思うけど」
「ウルフはもう楽勝だろうし、スパイダーもまだ戦ったことはないけど同レベルみたいだしね。油断しなきゃ大丈夫だよ」
『どちらかと言えば、探すのに一番時間がかかるでしょうね。こちらも索敵は最大限サポートしますが』
「頼りにしてるぞ。だだっ広い丘陵だから目視も限度があるしな」
マルはほどほどに頑張ります、と気怠げに答える。
やる気が無いような言い方だが、何だかんだ全力でやってくれるのが彼女だ。
「よし……それじゃ出発するとしますかね」
「ええ。早めに戻ってこられるよう、頑張りましょう」
学園と丘陵は近くにあるので、オリエンテーションでもそうだったように移動は徒歩だ。
時刻は午後一時ちょうど。さて、オレたちが依頼二つをこなして帰るのに、どれくらい時間を費やすか。
イマジネーターとしての成長度合いを量る意味合いとしても、少し気合を入れて頑張ってみるとしよう。




