190.歪んだマナの価値
「あ――そうだ」
リアムさんから美味しいおもてなしを受けた後。
ルカと一緒に保健室を出たオレは、ふと思い出して声を上げた。
「どしたの?」
「いや、昨日は取材が入っちまって忘れてたんだけど、アイテムの売却に行かないとなって」
「ああ、そう言えば」
一昨日資料室で勉強した際、イレギュラーから収集したアイテムを売らなければという話をしていた。
あれからすぐにロウディシア・タイムズからの取材が入ってしまったので後回しとなってしまったが、今のうちに売却しておかないと。
「ボクも付いて行こっと」
「ああ、構わないぞ」
断る理由も無し、オレは了承してルカと共にカインズ商工会へ向かうことにする。
思えば前回も、あの出張所に行ったのはルカとだったな。
A棟とB棟の間にある道を北上し、右手側にカインズ商工会の出張所が見えてくる。
エイヴスの任務が長期だったゆえ、ここへ来るのもほぼ二週間ぶりだ。
「いらっしゃいませー」
明るく迎えてくれる青年の声。ここの店を任されているサンズさんだ。
彼はカウンターの向こう側で、店内に流す曲のレコード盤を拭いていた。
「おや、ダイン君にルカちゃん。どうもっす」
「こんにちは、サンズさん。覚えててくれたんですね」
そりゃもちろん、とサンズさんは笑う。
「新入生の中で一番素材を持ち込んできた二人っすから」
「はは……やっぱりアレで一番多かったんですか」
前回オレたちが持ち込んだ素材は二十個以上あり、買取総額は四千五百ペンド。
五人で分けて九百ペンド程度の金額でも一番なのだから、新人の懐事情は基本的に辛いんだなあ……。
「今日も素材の売却っすかね?」
「ええ。ちょっと特殊なものもあるんで、コレがどれくらいの値になるのか分かりませんけど……」
そう前置きをして、オレはテスタマイザーから素材を取り出す。
通常の魔物から得た素材をまず出して、最後に例の品……イレギュラーから収集した『変質したマナ結晶』をカウンターに置いた。
「……おや」
サンズさんは軽く驚きの声を発する。
ただ、初めて目にするようなものでもないらしい。
「知ってるんですか?」
「そりゃあ、ここで素材買取させてもらってるんすから、たまに持ち込まれることもあるっすよ。イレギュラーってヤツの素材っすね」
イレギュラーという存在についても認識はしているようだ。
確かに彼の言う通り、イマジネーターから素材を買い取っている以上は、オレたちがしているようにイレギュラーの素材が持ち込まれることだってあるだろう。
それが具体的にどんなものなのか、までは把握していないかもしれないが。
「コレ、珍しいことに重量で金額が変わるんすよ。バンク側の容量の問題もあるんで、モチロン限度はあるっすけど」
「へえ……と言うか、他の素材は違うんですね?」
「大抵の素材は、大きさの違いなんかで分別される感じっすね」
サンズさん曰く、物が同じでも一定のサイズを超えたり、或いは質が違うと別名称で呼ばれる素材が多いそうだ。
たとえば、オレたちが以前持ってきたファットラットの収集品。通常サイズのものは『ファットラットの牙』だったが、親玉を倒して手に入れたのは『ファットラットの大牙』だった。
通常はそんな風に分けられるものだが、変質したマナ結晶については名称そのままで、重さ――正確に言えばマナ含有量で買取額が変動するというわけだった。
「僕もコレがどういう用途の素材なのかは知らないんすけど、昔から魔術工房が買い取ってたみたいっすね。キャプチャが発明されてマナを集められるようになった頃からなんで、結構歴史は古いかと」
「キャプチャか……」
またキャプチャの話が出てくる。言われてみれば、手作業でマナの収集など不可能なわけで、買取が始まるとすればキャプチャ発明後でしかあり得ない。
イオナによれば、キャプチャによる変質マナ回収が終末の発生を未然に防いでいたようだし、かなり凄い発明品だったんだな。
「んじゃ、査定させてもらいますね」
手慣れた動きで、サンズさんは作業を始める。
今回は数も少なかったので、ほんの一分ほどで査定の結果が出てきた。
「こんなところっす」
査定価格一覧
シザービートルの角 ……170ペンド×3
ダークウルフの毛皮 ……250ペンド×2
変質したマナ結晶 ……990ペンド×1
以上 総計2,000ペンド
「うお……この結晶、中々高いですね」
「持ち込まれるのが少ないとこから見ても、希少性はあるでしょうからねえ。細かく言うと、マナの含有量一ポイント分につき十五ペンド、という感じっす」
前にマルが説明してくれたが、キャプチャの容量基準でマナ十ポイント分がランク一魔法の約一回分。
持ち込んだマナ結晶は六十六ポイント分になるから……なるほど、七割ほど容量を食っていたのと計算は合う。
「良い換金素材ではあるけど、マナの保管容量を使っちゃうところがネックだね」
「だな。後はまあ、そもそもイレギュラーと出会わない方がいいってのはあるが……」
世界の終末を起こし得る存在……そんなモノとは出会わない方がいいに決まっている。
けれど、オレたちはイレギュラー対策チーム。どこかにイレギュラーが発生したら、優先的に出向くことにはなってしまうだろう。
必然的に、この素材を手に入れる機会は多いわけだ。……嬉しいやら、悲しいやら。
「じゃあサンズさん、買取お願いします」
「まいどありっす!」
換金が完了し、サンズさんは代金を振り込んでくれる。
一人当たり四百ペンドか……まだまだ安いなと思いつつ、オレはメンバーへの送金作業を手早く行う。
「皆も気になってたし、金額が分かったのは収穫か」
「だねえ。明細も書いてるから、またレシート見せてあげよ」
ルカが言い、オレはそうだなと頷く。
またエスカーが、こんなもんかと呟きながらレシートに目を通すのが頭に浮かんだ。
「ダイン君たち、何だか活躍してるみたいですし、僕も応援してるっすよ。また沢山素材持ち込んでくださいな」
「はは……ありがとうございます」
サンズさんにまでそんなことを言われるとは。気恥ずかしさを感じつつ、オレたちはぺこりと頭を下げる。
こうして無事にアイテムバンクを空にしたオレたちは、商工会を出てそのまま解散の運びになるのだった。




