186.乗り気な面々
「お宅訪問?」
オレの話に、目を丸くしてそう聞き返してきたのはイオナだった。
一夜明けた朝食の席。母の提案を受けてチームの皆に実家へ来るかどうかの話をしてみたのだが、反応は意外にも前向きで、
「面白そう! そっかあ……長期休暇だもんね。皆を招いてくれるなんて、ダインのお母さん優しいなあ」
「って、めっちゃ乗り気だな? いいのかよ、せっかくの休みなんだから予定とか入れてたり……」
「ないない。だからその提案、凄くいいなって思っちゃった」
少なくともイオナに関しては拒否する理由が無いらしい。
確かに、彼女の場合は教会に管理されるような生活をしているのだろうし、あちらが問題ないのなら好きに過ごしていいんだろう。
イオナの反応を見てかどうかは分からないが、他の面々も、
「へえーダインの実家か……ボクも一度お邪魔しておきたいなっ」
「いいんじゃないかしら。私も予定はないし、チームの親睦を深めるという意味でも」
「そういう場を提供してくれるのは素敵なお母様ですね。私も特に予定はないので……構いはしませんが」
と、女性陣は全員が賛成のようだった。……誰かの家へ遊びに行くのって、そんな気軽なものなのか?
「どうせ断られるだろうと踏んでたんだが……予想外だな」
「休みと言っても五日間だし、出来ることも限られるからねー。そこで面白いイベントを提案してくれるんだったら、参加するしかないじゃん」
「面白いイベントってな……」
イオナや他の奴らからしたら、それくらいの感覚なのかもしれない。
ホストになるこちらは、緊張するというか気恥ずかしいのだけど。
「お前らも家に帰ったりするんじゃないのか?」
「夏休みとかもっと長期の休みもこれから控えてるし、それに五日間もダインの家にいるわけじゃないでしょ」
「それは、そうなんだが」
ルカの意見は至極尤もだ。何日か遊んで、それで各々実家に戻ったって別に構わない。
お前たちも親の顔を見に行けよと追い返すのは、理由として薄弱だった。
「……四人は乗り気だとして、エスカーはどうなんだ?」
成り行きを見守っていたらしいエスカーに話を振る。
軽薄ながら、対人関係においては常に一定の線引きをしているこいつのことだ。家にまでは来たくなさそうなものだと思ったのだが、
「特に予定はないよ? せっかくだから、ご厚意に甘えることにしようかねえ」
「……マジか」
お前まで賛成なのかよ、と心の中でツッコミを入れたくなった。
「いや、俺はどっちでもいいんだけどさ……いいの? 女の子ばっかり沢山連れ込んじゃうことになって」
「って、嫌な言い方するな!」
しかし、冷静に考えればその通りだ。これでエスカーだけ来なかったら、女の子を四人実家に連れてくるというとんでもないシチュエーションになってしまう。
……というか、オペレーターのマルを含めたら女性比率が高いんだな、オレたちのチームって。
「はあ……分かったよ。母さんには全員来るって言っとく。休みは五日間だけど、どういう日程にするかだな」
「ダインはすぐ帰省する予定なの?」
「他にやることもないしな。だから異論が無ければ土曜に帰ろうと思ってるけど」
「そうだなあ、私は生徒会の研修がちょっと入ってるから、土曜日の夕方ならオッケーだよ」
イオナが手で丸を作る。……なるほど生徒会は大変そうだし、早く仕事を覚えていけと言われるのも納得だ。
家までは一時間ほど。夕食に間に合うのなら、多少遅くても大丈夫だろう。
「他に意見がなかったら、土曜の夕方にしておくか。後は何日滞在するかだけど……」
「あんまり長くいちゃうと流石に迷惑だよねえ。ちなみにダインはいつまで家にいるつもりなのさ」
「ううん、今のところ休み明け前までいようかとは」
「ふむ。ボクは正直何日だっていいけど、まあちょうどいいのは二、三日くらいかな?」
ルカが言うのに、イオナやフェイも頷く。エスカーは彼女の言葉を受けて、
「昨日取材を受けたロウディシア・タイムズの雑誌も黒曜の発売だったよね? 最後に見て帰れるの、いいんじゃない?」
「ホントだっ! 確かダインの家に届くようにもなってたもんね」
「あー……家族がいるところでは恥ずかしいんだけどなあ」
でもせっかくだし、とイオナは笑う。
雑誌に載ったメンバーが家に揃うっていうのは、誇らしいのが半分、恥ずかしいのが半分……落ち着かなさそうだ。
「では、土曜日の夕方から黒曜日の夕方辺りまで、二泊三日ということにしましょうか」
「ん、それで異論が無ければ」
マルがまとめてくれるのに、オレはそう答えて全員を見回す。
誰も特に異論はないようだ。これで決まりだな。
「じゃ、その予定で連絡を入れとくから。あんまり豪華なもてなしは期待するなよ?」
「しないって。皆集まってわいわい出来るだけで十分だよ」
「盛り上がれるかはボクたち次第だけどねー」
「ふふ。何か遊べるものを持っていかないといけないわね」
皆、既に意識がお泊り会に向かってしまっている。
楽しみにしてくれるのは嬉しいが、はてさてどうなることやら。
「面白くなりそうだねえ、リーダー?」
最後に発せられたエスカーの言葉が、棘のようにチクリと胸に突き刺さるのだった。




