182.はじめてのお仕事
取材の申し込み。
あまりにも予想外の話だったので、すぐに意味を理解出来ず目をパチクリさせてしまった。
「取材――」
「そう、今回お前たちが活躍したエイヴスでの事件について、話が聞きたいってな」
校長の表情は至って真面目だ。
どうやら嘘ではないらしい……が。
「よりによって、オレたちが取材対象なんですか? メルシオネ教官とかスキアさんとか、活躍した人は他にもいますけど……」
「だが、中心にいたのはお前たちだ。エイヴスを救った英雄であるダインチームに、ロウディシア・タイムズは興味津々なのさ」
エイヴスを救った英雄、か。確かにアンドルーさんにはそう称賛されたし、満更でもなかったわけだが……その評価がこういう風に返ってくると困惑してしまう。
実態としてはただの新人イマジネーターであるオレたちがメディアの取材を受け、記事になって周知されてしまうなんて。
「バランチームにその話は?」
エスカーの問いに、
「あちらさん曰く、バランチームについてはもし聞けたら、というニュアンスだった。ヨーゼフ議長との話の合間にそれを伝えはしたがな。親子ともども、取材なんて受けないという回答だったよ」
「貴方それ、拒否されるの見越して言ったでしょう」
エスカーが呆れたように笑う。
バランチームのことを『ついで』のように扱うメディアの話をそのまま伝えたなら、彼らのプライド的に拒否するのは想像に難くない。
まあ恐らく、エスカーの言う通り校長は分かった上で話を切り出したんだろう。
「で、どうする。もちろん選択権はお前たちにあるぞ」
「私たちが断った場合はどうなるのかしら?」
「他に受ける奴もいねえし、立ち消えになるだろうな。学園としては正直、メディアに恩を売っておければ嬉しいところなんだが」
「立ち消え、かあ……」
ルカは勿体ないという顔をしていて、イオナもどちらかと言えば前向きだ。
フェイは決めかねている様子で、エスカーは……面倒臭そうにしているな。
『私の名前が出るのはイヤですがね』
「よし、マルがそういうなら止めておこうか」
ニコリと笑い、食い気味にエスカーがそう言ったものの、
「オペレーターの名前までは出ねえさ。現地の緊張感や戦いの激しさ、そういうものを書きてえのがメディアだからな」
コーネリア校長が経験則からそう返してきたので、マルはだったら構いませんと立場を翻した。
「ええと、それってオレたちにメリットあるんですか? 知名度が上がるってのは理解してますけど、まだまだ活動に影響があるとは思えませんし……」
むしろ、あまり有名になり過ぎたら実力と乖離し過ぎてしまう懸念もある。
気持ちの面で驕ってしまったり、そうでなくとも不相応な依頼を請けさせられた結果、とんでもない失態を犯してしまうこともあり得るだろう。
「まだピンとこないのも分かるが、今の内からパイプを作れるのは悪くないぞ? 卒業してから依頼に恵まれなかったり、満足なサポートを受けられなかったりという話はよく聞くからな。ま、そういう先のことに懐疑的だとしても、もう一つ大きなメリットはある」
「それは?」
「取材も立派な仕事だ。報酬が出るのは当然だろ?」
そうか……報酬があったか。
取材なのだから、コーネリア校長の言う通りギャラは発生して当然だ。
どれくらいが相場なのかはまるで知らない世界だが、少なくとも一ツ星依頼を達成するよりは確実に稼げる……。
「そのお……実際いくらぐらい貰えるんです?」
気になったことを、ルカが代わりに聞いてくれる。
「さて、それは相手さんから直接聞いてほしいことだが……俺の経験から言えば、ロウディシア・タイムズほどの取材なら、新人イマジネーターに対してだとしても二桁に届くんじゃねえか?」
「ふ、二桁……!」
文字通り桁が違う話だ。討伐依頼を一つ達成しても、今はせいぜい数千ペンド。合わせて得られる素材の売却益を含めたって一人当たり千ペンドいくかどうかというところ。
それが十万ペンドも貰えたなら、一人当たり二万……実に依頼二十回分のお金が入ってくることになるのだ。これを魅力的と言わず何と言おうか。
「……どうする?」
オレはメンバーに訊ねるが、気持ちが揺らいでいると良く分かる声色をしていた。
目立ち過ぎるのは苦手な性分ではある。あるけれど……お金を稼いで家族共々いい暮らしをしたいというのも、イマジネーターになった理由の一つなのだ。
稼げるチャンスがあるなら、それも出来れば逃したくない。
「ぼ、ボクは受けてもいいかなって思うけど?」
ルカもオレと同じで、二桁というギャラの多さに目が眩んだようだ。にやけ顔を隠しきれていない。
「私も別に構わないよ。活動してればいずれはされるかもって考えてたし……ちょっと早過ぎたけどね」
と言うのはイオナ。彼女からすれば、大きな戦いの渦中に飛び込む必要がある以上、活躍して注目を集めるのもまた避けられない運命だと受け入れているのだろう。
教会の上層部もそれは認識していて、許可を出しているのかもしれない。
「私も……そうねえ。報酬は魅力的だし、そのお金で装備を整えられれば今後の依頼も楽になるんじゃないかと思うわ」
なるほど、フェイの言うように生活費としての稼ぎだけじゃなく、戦いのための自己投資に充てるのも大切だよな。
まだ最下級のライセンスしか持っていないオレたちだが、今後ランクが上がっていけば、必然的に良い装備も必要になってくるだろうから。
「……となると、五人はオッケーってことだけど……」
ルカが言い、取材了承派のオレたち五人は、残った一人の方を一斉に見つめる。
むすっとした様子で閉口していたその一人……エスカーは、全員の視線に居たたまれなくなったように、
「分かったよ! 俺も別に取材を受けるのは構わないさ。メンバーAとかで済ませてほしいけどね」
「よし、それじゃ全員オッケーってことだね!」
ガッツポーズするルカに、コーネリア校長も満足げに頷いて、
「俺としても、引き受けてくれてホッとしてるぜ。イマジネーターとメディアは互いに大事な取引相手だからな。俺たちはその活躍を広めてもらうことで稼ぎの場を増やし、メディアは記事を読んでもらったりして売上を伸ばす……そういう関係を長年築いてきてる。特に大手のロウディシア・タイムズは長年懇意にしてるところだ、話は蹴りたくなかったんだよ」
「オレたちが断ると、関係にヒビが入る可能性もあった……?」
「流石にたった一回でなるとは思わんが、拒否が続くとあちらさんも、じゃあもういいですとはなるだろう。そういう要因はなるべく作りたくないのさ」
「何と言うか……大変ですね、社会って……」
もちろん、一般的な企業間では取引相手との関係性が大事、というのは理解していた。
ただ、ことイマジネーターにおいてはもっと自由かと考えていたのだが……やはりしがらみというのはどこにでもあるらしい。
……まあ、それが社会というものだよな。致し方ない。
「そんじゃ、ロウディシア・タイムズには了解で返事をしておくぞ。ちなみにお前たちへの取材とは言え、俺も同席はさせてもらうつもりだ。緊張して変なことを口走ったり、或いは向こうから探りを入れてきたりというのも有り得なくはないからな」
「ああ……その方が助かります」
エイヴスを救うほどの活躍をしたとしても、オレたちはまだ十五、六歳の子どもだ。ちゃんとした受け答えが出来るか不安なところはある。
それに、一般人には秘されたイレギュラーが絡む事件……どこまで語っていいのかは、校長に判断してもらいつつじゃないと確かに分からない。
「ちなみに、取材日はいつなんです?」
「ん、明日だそうだ」
「明日っ!?」
ルカが素っ頓狂な声を上げたが、オレも気持ちは同じだった。
もっと余裕をもって日程が組まれると思っていたのだが……いきなりだな。
「情報は鮮度が命ってことだろうねえ」
「そういうこった。時間は未定だから、この後相手さんに連絡を入れてからハッキリさせて、テスタマイザーでお前たちに伝達するとしよう」
「分かりました。じゃあ、午後は空けておくことにします」
「助かる。よろしく頼むぞ」
校長がそう言って笑いかけるのに、オレたちは頷きで返した。
「……あ、そうだ。一つ聞きたいことがあるんですけど」
「どうした?」
「ジャンヌさんって今、学園内にいるんですか?」
オレが訊ねると、校長は首を振って、
「いや、また仕事で出てる。水曜日くらいには帰ってくると思うが……何か聞きたいことでも?」
「そんなところです」
「ふむ。もし会ったら伝えておこう」
「ありがとうございます」
ジャンヌさんもやはり忙しい身のようだ。
急ぎ聞きたいことでもないし、そこは大人しく帰りを待つとしよう。
「じゃあ、オレたちはこれで」
「おう。また明日な」
立ち話にしては随分長くなってしまったが、重要なことだったので仕方ない。
オレたちはコーネリア校長に別れを告げ、そこからは夕食まで自由時間とするのだった。




