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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の狭間 第一の災禍が去り
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180.秘密の資料室?

「……という理由から『集魔器キャプチャ』が発明されたの。分かった? ルカちゃん」

「な、何とか。フェイの教え方が上手くて助かるよ……」


 人気の少ない資料室。

 昼食後、オレたちはすぐ勉強にとりかかるためここへやって来て、テスタマイザーに受信していた資料を印刷、机に向かっていた。

 計四日分の講義を受けられなかったオレたちだが、既に述べたように一般教養的な知識も多い。

 オレや他の三人はさらっと目を通しただけで何とかなりそうだと安心出来たのだが、ルカだけは真剣な表情で資料と格闘する羽目になっていた。

 ありがたいことに、オレから見てもフェイは教え方が上手いので、ルカでもどうにか覚えられているようだ。

 ちなみに、今はキャプチャの歴史について復習していた。

 現代ではテスタマイザーの一機能として、アイテムバンクの収集機能と一体化しているキャプチャだが、最初に発明されたのはキャプチャの方らしい。

 当時はマナを大量消費するような技術開発・研究が盛んだったため、魔物の肉体に宿ったマナも素材として買取対象だったそうだ。

 研究が一定の成果を上げ、マナの買取制度が廃止されると、キャプチャは使用者のマナ回復手段として転用されるようになった。

 そして後発のアイテム収集機能と合体してテスタマイザーに組み込まれた……という経緯なのだとか。


「エイヴス事件のときは使う場面が無かったけど、長期戦になったときには重宝するんだろうねー」

「特に私やフェイはすると思うよ。魔法を撃ってほしかったら全部よこしなさい、なんて言っちゃうかも」

「ふふ……主導権を握れてるみたいでいいわね」

「フェイにはあげるけど、イオナにあげるのは何かヤだな」

「なんでーっ?」


 ルカに否定的なことを言われ、イオナは酷いとばかりに声を上げる。

 エスカーとルカの口喧嘩は日常茶飯事だが、イオナとルカの組み合わせも若干トゲがあるよな。何故なんだ。


「そう言えば、豊饒祈願の儀式でイレギュラーの死骸が出てきたとき、イオナはキャプチャでマナを回収出来ないかって言ってたけど。咄嗟によく思い付いたな?」

「それが教養ってヤツですよ。まあ、聞いた話では昔からイレギュラーのマナも回収してきたから、終末の危機を未然に防げてたらしくてさ」

「きみの言う教会の知り合いからの話?」

「ま、そんなところです」


 エスカーが探りを入れるのに、イオナはこれ以上言うつもりはないぞと口にチャックをする。


「魔物には自然と収集機能を使うようになってるけど、イレギュラーに対しても忘れないようにしないとね」

「ううん、たとえばエイヴスで巨大イレギュラーを倒したとき、キャプチャを使っておけば状況は変わったのかしら?」


 フェイの問いに対してイオナは緩々と首を振り、


「分かんないけど、アレは難しかったかも。ほら、初めてイレギュラーを倒したときにダインが回収したマナ結晶があるでしょ? ちょっと確認してみて」

「ん? ああ……」


 ほとんど忘れかけていたが、まだ対策チームになっていないときにイレギュラーと戦って、戦利品として歪んだマナの結晶とやらを得ていたな。

 それをアイテムバンクで確認してみると、取得限度が一つだけになっていた。


「一個しか持てないのか……というか、今気付いたけどマナの保管容量まで圧迫してるぞコイツ」

「やっぱり。元はマナだから、そういう扱いになっちゃうっぽいね」


 本来はマナとして回収されるところが、変質してしまっているためにアイテムとして認識されてしまう、という感じか。

 いずれにせよ、一つでマナの保管容量を七割ほど食っている。一体分以上のマナ結晶は回収出来なさそうだ。


「むう、ボクらがマナを回収したとしても、焼石に水だったかもってことかあ」

「ちょっとやそっとじゃどうにもならない駄目押しだったんだろうね、あの巨大イレギュラーは」


 何せ、ディオン=マナリーが五十年以上をかけた計画だ。

 あの段階でもう、終末の到来自体は不可避だったんだろうと思うしかなさそうだな。


「てか、早く売りに行った方がいいなコレ」

「容量を圧迫しちゃってるのはねえ。高値で売れるといいけど」

「どうだったかな。まあ行って確認してみてよ、ダイン」


 エスカーが少し興味有りげに言い、イオナは早めの確認を促してくる。

 まあ、置いたままだと活動に支障が出そうなのは確かだし、さっさと換金しに行くとしよう。黒曜日は定休日のはずだから……用事が入らなければ明日にでもしようかな。


「ふう! これでお終いってことでいいよね?」


 ペンを投げ出したルカがフェイに訊ね、


「ええ、バッチリよ。後は忘れないことね」

「う。ダイジョーブ、ダイジョーブ……」


 ……心配になる返事だな。まあ、忘れるようなら何回も反復して勉強するしかないだろう。


「よし、そんじゃ今日の勉強会はこれでお開きだな」

「お疲れ! 時間も長くはかからなかったね」


 イオナが壁掛け時計に目をやりながら言う。今の時刻は午後二時半……ここへ来てから一時間半ほどだ。

 四日分をこれだけの時間で追いつけたなら、早かった方かな。


「けど、他に誰もいなくて良かったなあ。おかげで集中出来たよ」


 広げていた資料をまとめつつ、そう言ったのはルカ。

 この一時間半の間に資料室へ来たのはオレたちを除けばたった一人だし、その生徒もすぐに出て行った。

 広い室内、ほとんど貸し切りのような状態で勉強が出来たのである。


「午後はイマジネーターの本業に勤しむのが普通ってことだろうさ。休みの日とかはもっと人が多いと思うぞ」

「でしょうねえ。活動に役立つ資料はもちろんのこと、娯楽小説も置かれているし。貸出も出来るそうだから、それなりに人は来ると思うわ」


 なるほど、文学部に入ったフェイらしい視点だな。


「ここに置かれてる資料も中々有用そうなものは多いけど。俺はやっぱり、噂にある秘密の資料室とやらが気になるねえ」


 両腕を頭の後ろに回しながら、エスカーがそんなことを口にした。

 当然誰も聞いたことがなかったので、


「何それ?」


 とルカが代表して疑問を呈す。


「何でも、アトモス学園にはこの資料室だけじゃなくて、もっと重要な書類を保管している書庫があるそうで。それこそ一般には知られちゃいけないような情報ばかりで、過去に探り当てちゃった生徒が退学処分になったこともあるとか……」

「ええー……本当の話なの? エスカーが話すのも含めて嘘臭いんだけど」

「俺が嘘ばっかり言ってるって?」

「信用ならないってコト」


 ルカの言葉はまあ頷けるとして、秘密の資料室ねえ。

 もしあるとしたら面白い秘密だな……とは思うものの、エスカーと違って知られちゃいけない情報を覗きたい欲まではない。

 おまけに見てしまえば最後、退学処分になるのだとしたらリスクがでかすぎる。


「俺も最初は眉唾な話だと考えてたよ? でもねえ、エイヴスの一件で一般人には秘密って話がバンバン出てきてさ。それだけ秘匿情報が多いんなら、まとめておく場所があるのも変じゃないのかなって」

「うーん、今の時代だとデータ化して保管しておいた方が安全だったりしないのかしら?」

『そうとも限りませんよ、フェイさん。千年王国の持つ技術は魔術工房のレベルに匹敵するものでしたし、そうした人たちにはハッキング……つまりデータ上の情報を盗み取られる危険性も有り得ますから。アナログな形で情報を保管しておくのも一つのセキュリティだと言えます』

「なるほど……」


 マルの説明に、フェイは曖昧に頷く。

 正直なところ、機械装置の技術が発展していてもオレたちのような素人に詳しいところはよく分からない。

 ただ、同じ水準の技術を持つ者たちには、鍵を壊して物を盗むように、セキュリティの穴を衝いてデータを盗まれることもあるというのは何となく分かった。


「と言うか、どこでそんな話聞いたんだよ」


 オレが訊ねると、


「割と話し継がれてる噂みたいだよ? ここに来た上級生が話してるのを耳にしてねえ」

「ふうん……」


 火のないところに噂は立たず……昔から語り継がれていることなら、少なくとも近しいものは存在するのかもしれない。

 学園側からしたらそんな噂、消えてほしいところだろうが。


「で、お前は暇を見つけては探してると」

「探してみよっかなと考えてるとこだよ」

「そっか……今までありがとうな」

「退学になるの期待しないでくれない?」


 オレが素っ気なく言うのに、エスカーは引きつった笑みを浮かべながらそう返した。


「リーダーにだって気になる情報はありそうだけどねえ。もしかしたらお父さんの手掛かりとかあるかもしれないし」

「父さん、ねえ……」


 どこにも所属せず、孤独な魔物退治を生業としていた父、ユリアン=アグナス。

 イマジネーターだったという話も聞かないし、コンストラクターにも所属した過去はないらしい。そんな人物の情報が学園の資料室にあるとも思えないが。

 ……ただ、父のことでふと連想したものがある。

 心象世界で父と同じ名前の男から聞いたあの言葉――エクリプスという事象についてなら、何か秘匿された情報もあるのかもしれない。


「けど、生憎退学のリスクを背負ってまで探したくはないな。退学なら一人でしてくれ、エスカー」

「だからそっち前提で言うのやめてくれない? ……ま、でも普通なら探そうとまでは思わないよねえ」


 アトモス学園へ入ること自体が恐ろしいほど狭き門なのだ。

 馬鹿なことをして追い出されるのは絶対御免だし、皆そう思っているから噂に留まっているんじゃないだろうか。


「好奇心旺盛なのもいいけど、チームの一員として責任持って行動してよ、エスカー?」

「ハイハイ、承知しておりますとも」


 この辺で釘を刺しておこうというイオナの真面目な忠告に、エスカーはあしらうように返事をする。

 その態度に不安を感じないでもなかったが、言い過ぎても鬱陶しがられるだけなので追い打ちはしないでおく。

 最後に脱線はあったものの、勉強会を終えたオレたちは凝った体を解しつつ、資料室を後にした。

 ……秘密の資料室、か。もし本当にあるのなら、そこにはどんな秘密が眠っているのやら。


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