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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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174.祝杯を掲げて

 報告の時間まで自由の身になったオレたちは、早速食堂で空っぽの胃袋を満足させることにした。

 バランは嫌そうだったのだが、互いに腹が減っているのは違いないので、結果的にあちらのチームも食堂へ同行することになる。

 恐らくは校長あたりから話が通っているのか、食堂の調理スタッフであるナオさんとルトさんがこちらを見てニコリと笑いかけてくれた。


「待ってたよ。ヒーローのご帰還だねえ」

「ヒーローってナオさん……」


 エイヴスでアンドルーさんに英雄と言われたときは感慨深かったが、学園に帰ってきてから言われると何だかむず痒い。

 まあ、それも当然かもしれない。何せアトモス学園はつまるところ英雄を育てる場所で、ロウディシアには多くの英雄たる者がいるのだし。

 そういう人たちに少しでも近づけたなら、素直に嬉しいけれど。……たとえば、ジャンヌさんのような。


「校長から、腹いっぱい食わせてやってくれって仰せつかってるからねえ。今日はお代なんて気にせず、何でも食べていきな」

「あ――ありがとうございますっ」


 やっぱりコーネリア校長が手を回してくれていたらしい。ならばその好意に甘えて、存分にいただくとしよう。

 言うなればこれは、凱旋の記念パーティーみたいなものだ。


「時間も丁度良かったねえ。まだ早いから、貸し切り状態だ」

「だな。後から来る奴には申し訳ないけど、今は人目が無い方がありがたい」


 人目を気にしなくていい方が気兼ねなく食事が出来る……とりわけこうして大人数で集まっているときは尚更。

 六時ごろになれば他の生徒もぼちぼちやって来るだろうから、なるべく早めには退散したいところだな。


「……と、いうわけで。対策チームの初任務成功を祝して……カンパイ!」


 好き放題に料理とドリンクを持ってきた後、またしてもルカが音頭をとって、オレたちは遠慮がちにグラスを掲げる。

 オリエンテーションのときと同じなわけだが、もしかして祝い事があると毎回こうするつもりなのか……?


「カンパーイ!」


 隣では、エステルちゃんが元気良くこちらに倣って声を張っている。

 こちらはルカが、あちらはエステルちゃんがムードメーカー、という感じか。


「ま、いいじゃない。羽目を外せるときは外しておくもんだと思うよ。五日間大変だったんだから」

「それは正論だけどな」


 エスカーにそれを言われると何か引っ掛かる。

 こいつはいつだって、わざと『真剣さ』から距離を取っているように思えるし。


「ですが、ここで疲れないでくださいね。任務の報告も重要な仕事なんですから」

「分かってるって、マル」


 料理を口に運びながら、ルカは笑う。

 マルもこの日はオレたちと食事を共にしてくれることになった。

 今回の任務成功が、彼女の心を動かすことになったようだ。

 過去を受け止め、前へと進むこと……その大きな契機となれたことも嬉しいことの一つだな。


「はあー……エイヴスのご飯も美味しかったけど、学園のご飯も美味しいし、ホッとするなあ」

「そうね。ルカちゃんの言うことも何だか分かるわ。ご飯を食べたりお風呂に入ったり……そういう一つ一つで、帰ってきたことを実感するんでしょうね」

「良いこと言うね、フェイ」


 イオナもルカも、うんうんと頷く。

 このアトモス学園も、まだ入学して数週間しか過ごしていない学び舎なわけだが……帰り着く場所だと皆が感じられているのも凄いことだ。

 

「帰ってきたと言えば、俺たちほぼ一週間分の講義を受けてないワケだけど、追いつけるかねえ」

「う……ヤなこと思い出させないでよ、エスカー」


 ルカが露骨に嫌な顔をして低い声を出す。

 対策チームについての説明があった日、緊急出動等で講義を受けられなくなった際は資料の配布や個別講義で対応するとは言われているが……遅れた分を取り戻さないといけないのには違いない。

 そもそも勉強の苦手な彼女からしたら、苦痛でしかないだろう。


「でも、俺たちは保障がある分マシだと思うよ? あちらさんは、どうなるか分かんないんだし」


 そう言って、エスカーはチラとバランチームの方を見る。


「あー、イヤな話聞いてしもた! そっちのチームと同じ扱いにならんかな?」

「まあ、オレとしてはなってもいいんじゃないかと思うけどさ。校長が決めることだしなあ」

「頼む、校長! 温情をやな……!」


 エステルちゃんはここにいない校長へ懇願するように手を合わせる。

 それを見ながら、エレンちゃんは苦笑いしていた。


「覚悟はしておかないといけないでござるな」

「俺も勉強は嫌だぞー……帰ってこなきゃ良かったか?」


 ……いや、それは極端だろテッドくん。


「転移装置が使用不能になった以上、帰りたくても帰れなかった期間がある俺たちにも何らかの補填はあるだろう」


 バランは冷静にそう分析する。恐らく、彼の言う通りになるんじゃないだろうか。

 事件解決にだって十分貢献してくれているのだし。


「あの……ヤバかったら勉強、教えてください……アニキ」

「……ヤバい前提で言うな、レメディオ」


 額に手を当てて呆れるバラン。

 頼りない弟分を持って大変だなあ。


「……どうも、こんばんは」


 一人の生徒が静かに食堂へ入ってきて、こちらに挨拶をくれた。

 この人は……マルの友人であるトーマスさんだ。


「トーマスさん。こんばんは」

「マル、それから皆も。聞いたよ……大事件の解決、お疲れさま」


 表情を変えることなく、トーマスさんはオレたちに労いの言葉をかけてくれる。


「ありがとうございます。校長にでも聞きましたか」

「うん、偶然B棟の前ですれ違って。僕に教えてくれたものだから、行くべきだろうとね」


 行くべき、という表現をしたものの、多分トーマスさんもマルと話をしたかったのではと推察する。

 なんて、面と向かって聞いたら否定されそうだけども。


「……で、どうだった。君にとって、今回の一件は」

「そうですね。……とても重要な転換点になったかと」


 トーマスさんの問いに、マルはゆっくりと言葉を選びながら返答する。


「イレギュラー対策チームは、私の抱える過去に真正面から対峙するようなものでした。なので、最初は不安の方が大きかったですけど……今回イレギュラーに遭遇し、戦い、そして打ち克った皆さんをこの目で見て、私も負けていられないと思いました」


 だから、とマルは続ける。


「今後もこのチームの一員として、オペレーターの務めを果たしていきたいというのが、私の今の心境です」

「……それを聞いて安心した。大きな一歩を、これで踏み出せたようだね」


 決して笑みを見せることは無かったけれど、トーマスさんは満足そうに頷いた。

 オペレーターの道へ誘った者として……これでようやく一つ、肩の荷が下りたといったところかな。


「じゃあ、僕はこれで。ありがとう、きみたち」


 トーマスさんは、目的を果たすとすぐに帰っていった。

 時間も時間だし、せめて食事でもとっていけばいいのに……とは思うが、彼は誰かと喋りながら飲食するのが苦手な性質なのかもしれない。

 基本的には孤独……というか静けさを愛する人、という感じがするし。

 

「マルも、中々良いこと言うじゃない」

「ええ、少なくともエスカーさんよりは」

「ハハ、こりゃ手厳しい」


 鋭い切り返しに、エスカーも笑うしかない。

 ……そんなこんなで、学園へ戻って来て緊張感の抜けたオレたちは、笑顔の絶えない夕食の時間をしばし楽しんだ。

 そして他の生徒たちがぽつぽつとやって来た頃合いでお開きとし、バランチームに別れを告げてお先に食堂から出ていくのだった。

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