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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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173.アトモス学園への帰還

 列車が終点へ辿り着いたのは、三十分後のこと。

 普段通りの正確さで、列車はオレたちをアトモス学園へと送り届けてくれた。

 たった三十分ではあまり疲れも取れなかったが、何も考える必要のない時間が久々にとれたのはありがたかった。

 まだイマジネーターとしての仕事が全部終わったわけではないし、後に備えて少しでも気力と体力は回復させておかなければ。


「はあ……着いた着いた」


 開かれた扉から外へ出て、オレは大きく伸びを一つする。

 西の方角を見ると、夕日はもうほとんど沈みかけている……今の時刻は、午後五時過ぎか。

 早朝に腹ごしらえをしてからはぶっ続けの作戦遂行だったので、お腹がぐうぐう鳴っている。

 任務の報告は後か先か……出来れば食事の後がいいけどなあ。


「アニキーッ!」


 駅を出たところで、学園の方から大きな声が聞こえてきた。

 誰なのかは明快……もちろんバランの弟分、レメディオである。


「無事に帰って来てくれて良かったっす、アニキ……!」


 レメディオは涙を目元いっぱいに溜めながら言い、バランの胸に飛び込む。

 バランはまずその衝撃に驚き、次にその大胆さに呆れていた。露骨に面倒臭い奴だという顔をしている。


「分かったから離れろ、レメディオ。暑苦しい」

「す、すんません……」


 慌ててバランから離れるレメディオ。……その顔に鼻水が垂れているのを見、バランはギョっとして自分の服を確認する。

 幸い汚れてはいなかったようで、彼は胸を撫で下ろしていた。……とんだお迎えだな。


「改めてですが、お疲れ様でした」


 また別の、今度は女の子の声。

 オレたちのオペレーター、マルの声だ。隣にはアーロンさんもいる。

 先に休もうかと言っていたが彼女、律儀に待っててくれたのか。


「少しは休みましたよ。私も報告には同席するでしょうから、ぐっすり寝るわけにもいきません」

「はは、確かに。後でまたよろしく頼むよ」

「ええ、了解しました」


 オレの言葉に、マルはこくりと頷いた。


「あんまり働きすぎんなよ? ここんとこ、睡眠時間も削ってたんだからよ」

「アーロンさん。……まあ、それも今日までです。後はゆっくり休みますから」

「そうしてくれ」


 やはりロウディシア側でも、あれこれ対応には追われていたようだ。

 アーロンさんも目に隈を作っているし、技術的なところで苦労させられたのだろう。


「いやあ、若いのはいいねえ」


 三番目に聞こえてきたのは、コーネリア校長の声だった。ジャンヌさんとともに、ゆっくりこちらへ歩いてきている。

 どうやら全員で出迎えるつもりだったが、レメディオが先行した結果こうなったようだ。


「……イレギュラー対策チームおよびにバランチーム。ご苦労だった。アトモス学園の校長として、お前たちが異世界の危機を救ってくれたことを、誇りに思う」

「フフ、偉そうに言うけれど、この男もこの男で常に心配はしていたんだよ。いやあ、そのときの様子を見せられないのが残念だ」

「って、止めてくださいよジャンヌさん。いい場面なんだから……」


 威厳ある出迎えを意識していただろうに、早速ジャンヌさんに内幕をバラされたものだから、コーネリア校長はしどろもどろになってしまう。

 本当にこの二人、どちらが偉いのか分からない……いや、役職を抜きにすると、多分ジャンヌさんの方が立場は上なんだろうな。


「ゴホン……とにかく。お前たちの活躍でワールドスクリプト:エイヴスは、終末ノ獣と呼称される存在に起因した滅びを回避することが出来た。新人イマジネーターがここまでの偉業を成し遂げたんだ、これは学園の歴史に残る功績になるだろう」

「そ、そこまで言われると怖くなっちゃうなあ……」


 ルカは呆れたように笑いながら言う。

 やり遂げたことが自分たちでも信じられないくらい大きなことだから、どこか他人の事のように感じられてしまうのだ。

 ……でも、これは正当なオレたちへの評価なわけで。


「正直なところ、見切り発車感もあるカリキュラムだったが……ここまでの成果を上げてくれるなら俺としても背中を押された気分だ。お前たちを皮切りにして、イレギュラー問題への対応策を今後も打ち出していきたいところだな」

「基本は彼らの育成を中心に据えながら、ね。根幹が蔑ろになってはいけないんだから」

「もちろん分かってますよ」


 ジャンヌさんが釘を刺すのに、コーネリア校長は頭を掻きながらそう返す。


「それから、バランチームはリーダーの独断専行が一因とは言え巻き込まれた形になり、結局最後まで付き合わせてしまったのは申し訳ない。そうした状況にも拘らず、救出後は対策チームのサポートとして見事に立ち回ってくれたこと、感謝している」

「フン、自分の落とし前は自分で付ける……でなければ納得がいきませんから」

「……なるほど。良い考えだ」


 バランが不遜な態度でそう答えたのに、コーネリア校長は満足げに頷いた。

 彼の成長を感じ取り、指導者としての喜びを嚙みしめている、というところか。

 入学当初と比べると、衝撃的な出来事の連続で結構丸くなった気はする。良い傾向だぞ、バラン。


「でも、それなりの加点は期待したいとこやなあ」

「こらこらエステルちゃん……まあ、私も成績としての評価はいただきたいですけど、ね」

「ダインチームの好敵手として、切磋琢磨したい気持ちはあるのでな」

「そうそう、ライバルってやつ!」


 何というか、あちらのチームメンバーも逞しい奴ばかりで微笑ましいな。

 最初のうちは、バランに振り回されることになったら可哀想だと思っていたが、なんてことはない。

 むしろバランを振り回しながら上手くやっていきそうだ。


「ハハ、今回の件について取りまとめが終われば、両チームにはちゃんと加点するつもりだ。楽しみに待ってるといい」

「よっしゃ、言うてみるもんやな」

「ふふ……校長先生も初めから考えてくださっていたでしょうけどね」


 加点が約束され、一同は喜びを露わにする。

 ただ、当然点数はオレたちの方が上になるはずだ。そこだけは譲れないぞ、コーネリア校長よ。


「校長、報告については如何しましょう?」


 オレたちも気になっていたことを、メルシオネ教官が聞いてくれる。


「長丁場だったんだ、帰ってすぐ報告しろとは言わんさ。今日中であればいつでも構わない。むしろそっちで時間を決めてくれてもいいぞ」

「ありがとうございます。……どうしますか、皆さん」


 回答を委ねられ、オレたちは少し相談して、


「じゃあ、飯だけは済ませたいです。風呂まで入ると眠くなりそうなんで……七時くらいでどうでしょう」

「おう、問題ない。場所はB棟の会議室で頼む」

「はい、分かりました」


 空腹のまま報告、とはならず安心した。校長がそんなこと強いるわけないとは分かっていたが。

 とにかくこれで腹を満たすことが出来る。最後の一仕事に備えて、しっかり食べておくとしよう。


「そんじゃ、この場は解散だな。お疲れさん」


 校長がそう告げたところで、ジャンヌさんの方がチッチッ、と舌を鳴らす。


「コーネリア君、こういうシーンで言うべき大事なことを、まだ言っていないよ」

「……それは?」


 問い返す校長に、ジャンヌさんはニコリと笑ってからオレたちに向き直る。


「――おかえり、みんな」

「……はい! ただいま帰りました!」


 おかえりと、ただいまがある場所。

 暖かな、オレたちの学び舎。

 ああ、ようやく帰ってこれたのだ。

 ただいま、アトモス学園――。


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