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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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166.終末に、抗え①――開戦

 つい今しがたまで魔力を充足させるため、火口で眠りについていた終末ノ獣。

 ディオン=マナリーを捕食したことによって、こいつがどれだけの魔力を取り戻したのかは気になるところだ。

 飢え切った獣の今の魔力……そして、もしも完全に満ち足りた際の魔力は、如何ほどのものなのか――。


「気になる? 獣が今何割くらいの力を取り戻したか」


 まるでオレの心を見透かしたように、ルマンが問いかけてくる。

 言葉の代わりに、そりゃそうだろとばかりに睨みつけると、


「……少し休息をとって、魔力の豊富な人間を一人捕食したけれど……それでもせいぜい二割くらいだろうね。だから貴方たちにチャンスがあるとすれば、本当に今だけ」


 二割。

 まだ五分の一の状態で良かったと思いつつも、なら完全体の獣は五倍強いのかという恐ろしさも感じる。

 不意を突かれたとはいえほとんど力を取り戻せていない獣に、ディオンは喰い殺されたのか。


『*****……』


 獣は逞しい両翼を羽ばたかせ、ノイズのような声を発しながら、じっとこちらを見つめている。

 オレたちが戦闘態勢をとっているにも拘らず、それは敵意ある眼差しではなかった。


 ――敵とすら認識されてないってことかよ。


 ハッキリ言って悔しい……だが、力の差が歴然なのは紛れもない事実。

 それを乗り越えて勝利を掴む……ヒトの繋がりが試される、大一番なのだ。


「左右に三人ずつ散開を基本にして戦いましょう。回復魔法の使用者をそれぞれ一人ずつ充てる形で」


 教官の指示で、オレたちは終末ノ獣を囲うように左右へ広がる。

 左側がオレと教官とイオナ、右側がルカとエスカーとフェイだ。

 散らばり過ぎないようには気を付けつつ、グループを分けることで一撃での壊滅を避ける……圧倒的不利な戦いでは重要な考えだろう。


「行くぞ……!」


 三日前にアンパッサの里で巨大イレギュラーと戦ったことを思い出す。

 ……大丈夫、あの時だって連携して討伐を成し遂げたんだ。相手が更に強大でも、オレたちならば。


「氷槍」


 先陣を切ったのはエスカー。短い刃ではなくしっかりとした槍で終末ノ獣を狙う。

 武器を向けられてようやく、獣はオレたちを敵と認識したようだ。


『***……!』


 唸り声を上げ、槍を振りかざすエスカーをギロリと睨みつける。

 しかし、初撃を担うのはあいつではなかった。


「てやあっ!」


 あえてエスカーが大振りな動きで目立たせておいて、その横からルカが殴り込む。

 魔力を込めた拳――テルさんに教わった浸透掌は獣の左脚へ完璧にヒットした。


「……ってウソ、効いてないの!?」


 力の限り撃ち込んだ拳は、しかし獣に鳴き声一つ上げさせることも出来なかった。

 まるで虫に刺されたかのように、獣はゆっくりと視線をエスカーからルカへ移し、目を細める。


「まだだよ」


 そこでデコイになっていたエスカーも槍での一撃をお見舞いする。

 強固な外皮に氷槍はパキリと折れてしまったが、こちらは属性の影響もあって僅かに効き目があったようだ。

 槍の当たったところに、少しの間蒸気が立ち昇っていた。


『****!』


 連撃を浴びせた二人に、終末ノ獣は剛腕を振るう。

 それはまるで、身体に集る羽虫を払い除けるような仕草で。


「そっちだけじゃないぜ」


 こちらも、二人の攻撃をただ見届けていたわけではない。

 オレと教官も足並みを揃え、獣の右脚近くへと接近していた。


刺突刃ペル・フォラル……!」


 繰り出される高威力の刺突は、けれども獣を傷つけるには至らず。

 続けて振り下ろしたオレの斬撃も、外皮に些かの変化も与えることは出来なかった。

 やはり、少なくとも眷属に対して行ったように、強力な水属性の攻撃をまずは加えた方がよさそうだ。

 となれば、頼れるのは後方支援組。


「……流れゆけ――フラクタ!」


 詠唱を終え、イオナが水魔法を発動させる。

 ランク三の中位魔法……スキアさんが使ったのと同じものだ。

 イオナの前方から波が発生し、進むほどに高さを増していく。

 ただ、そこらの魔物相手なら容易に呑み込んでしまえるだろうが、終末ノ獣は比類なき巨大さを誇っている。

 フラクタの大波でも、せいぜい獣の腰あたりまでしか達しなかった。


『***……!』


 高熱の皮膚が冷たい波に接触した途端、凄まじい音と蒸気が噴き出し、獣が唸る。

 ようやくそれと分かるダメージが入ったようだが、まだまだ弱過ぎる。


「――黒月!」


 波が過ぎ去り、やや変色した脚へ向かって黒の斬撃を飛ばす。

 その斬撃も軽々と砕け散りはしたが、代わりに少しだけ皮膚を削ることに成功した。


「イオナちゃん、獣の前に風魔法を出せるかしら?」

「え? うん、いけるよ!」


 フェイが頼むのに、イオナはすぐに請け合う。

 互いに頷いてから、二人は連携の準備に入った。


「イオナちゃんの魔法を、再生するわ……!」


 フェイが光り輝く片翼をはためかせると、次の瞬間イオナの前に波が発生する。

 それは、ついさっきイオナが発動したフラクタと全く同じもの……これは。


片翼の天使(リグレッサー)の力か……!」


 フェイのイマジネートはこれまで回復用に使われてきたが、時間が巻き戻るような効果から、応用が利きそうではあった。

 あのディオンも特異性を評価していたくらいだ。

 なるほど、こういう風に一度発動した魔法を巻き戻して再発生させることも出来るらしい。


「よし――スワール!」


 イオナもフェイの作戦をハッキリ理解し、風魔法を唱えた。

 再生されたフラクタを風魔法の竜巻が吸いこんで、そのまま終末ノ獣へ向かっていく。

 単体では出せない高さを竜巻によって補い、水魔法は獣の胴体に直撃した。


『****!!』


 今度はダメージもそれなりだったようだ。苦しげな獣の反応からも分かる。

 ならば、その痛む箇所に追撃を入れるのが定石というもの……!


「叩き込むぞ!」


 前衛の四人全員で、怯んだ終末ノ獣へ全力攻撃を見舞う。

 オレの黒月、教官の五重刃、ルカの浸透掌、そしてエスカーの氷槍。

 怒涛の勢いで打ち込まれた攻撃に、終末ノ獣は天を仰いで悲鳴を上げた。


「よしっ、これなら効いてるんじゃない……!?」

「ああ、このままどんどん押していければ……!」


 ルカが喜ぶのにオレも笑みを浮かべてそう返す。

 ……だが、流石にそう簡単に事は運ばない。


『……皆さん、下がってください!』


 観測しているデータから逸早く危険を読み取ったのだろう、マルが声を張る。

 それとほぼ同時に、終末ノ獣は一段と高く飛び上がり、両翼に紅蓮の炎をまとい始めた。


「あれは――」


 まずいと直感し、教官の指示に従って後ろへ退く。

 オレたちのグループはイオナが、エスカーたちの方はフェイがすぐさまバリアを張ってくれる。


『****……ッ!』


 獣が大きく翼を羽ばたかせ、まとった炎を飛ばしてきた。

 地上に振り落ちる無数の火炎弾……激しい衝突音と熱さに、嫌でも恐怖を感じてしまう。

 何とか全ての炎を防ぎきったものの、バリアが壊れるのは同じタイミングだった。

 もし一発でも早くに壊れていたら……戦況は一気に最悪へ変わっていたに違いない。


「くそ、攻撃が大規模過ぎる……!」

「散開してても、相手のやることによっちゃ全員危険だねえ……!」


 ディオンがこいつを召喚した際、炎のブレスがとんでもなく広範囲だったのをこの目で見ている。

 大技は結局、皆等しく危険な状況になるのは薄々察していた。出来れば打たせないようにはしたいが……それこそ難しいだろうな。


「技の前触れをすぐ察知出来るよう、より一層の注意を。先ほどのコンビネーションは見事でしたし、攻防のメリハリを付けて戦えれば勝機はあるはずです」


 教官が激励の言葉をくれる。

 そうとも、さっきの畳みかけは上手くいったのだ。後は防御がキッチリ出来るなら、少しずつでもダメージを与えていける。

 大きな山とて崩すことが出来る。


「慎重に、けれど大胆に……だな」


 状況を見極め、行動を即断する。

 新人イマジネーターに求められるレベルじゃないだろという感じだが……だからこそ、実践してやろう。

 選ばれた対策チームの一員として……異世界の命運を委ねられた者として。

 格好悪いところは見せられないのだから。


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