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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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164.重力の魔術師

『メルシオネ教官、ダインさん。戦闘中に申し訳ありませんが、一つ報告が』


 マルからの通信だ。ちょうどディオンとは距離を離したところだったので、耳には入れておくことにする。


「どうした?」

『イオナさんたち四人とも、構成員との戦いに勝利したようです』

「本当か!?」


 オレが聞き返すのに、マルは間違いなくと念押ししてくれる。

 更に、付近のマップを表示して四人がこちらへ向かっているのを見せてくれた。


「確かにこっちへ来てる……良かった……!」

「フ……これは我々もうかうかしてられませんね」


 不安が消え、その分心が軽くなったようだ。


「おや……覇気が戻ったようだな」

「ああ、お前らの部下が全員やられたって情報が入ってきたからな」

「……何?」


 その事実には、流石のディオンも僅かに狼狽の表情を見せた。

 オレたちの仲間を甘く見たツケだ。


「……なるほど、嘘ではなさそうだ。向上心のある一般兵をと適当に派遣してもらったが……やはりそんなものか」


 あの四人組のことを、ディオンは一般兵だと口にする。

 それなりに付き合いのある上司部下の関係だと思っていたが……そういうわけではなかったのか。


「まあ、構わん。最初から私一人でも何とかなった計画……障害となるべきものは」


 ディオンはそこで、両手を胸の前で交差させ魔力を練り始める。

 溢れ出す魔力はこれまで用いていた黒の球体だけでなく、白の球体にも流れていく……。


「全て排除するだけだ」


 二つの球体から、それぞれ白と黒の魔力塊が放出された。

 もう一つの武器……奴もとうとう本気を出したというわけか。


「ダインくん、予想は付いていると思いますが……」

「ええ……黒が加重だったなら」


 白の魔力はその逆。

 つまり、物を軽くする……いや、重力に逆らわせるレベルのものだと推測される。

 推測を確定させるには、実際にどうなるのかを一度試してみるのが手っ取り早い。


「これで……」


 俺は黒霧を短刀へと変化させ、エスカーがよくやるように投擲する。

 白の魔力塊にぶつかったその短刀は、まるで重力が消滅してしまったかのようにその場でふわりと滞空を始めたのだった。


「ふむ、慎重になるのは良いことだ……私の能力、これで分かったかね」


 一連の動作を悠長に眺めていたディオンが、冷笑を浮かべ語り掛けてくる。

 教師が生徒に答えを求めているような口調に多少苛立ちを感じたものの、オレは素直に答えてやった。


「黒の球がぶつかったものの重力を増加させるなら、白はその逆……重力を減少させるってことだろ」

「うむ、その通りだ。説明の手間が省けて助かる」


 イマジネートの名称もあるし、それくらいは分かって当然だ。

 ディオンも別段隠そうとしていたわけじゃない。ただ今まで手を抜いていただけ……。


「では……さっさと死んでもらうとしよう」


 これまでゆっくりと追尾する程度だった魔力塊。

 しかし、ディオンが手を動かすとそれに連動するように飛翔し、オレたちへ急接近してくる。


「く……っ!」


 黒の加重球を何とか躱す。すると、衝突した地面がバキバキと音を立てて沈み込む。

 地面にも効力が及び、重みでクレーターが生じたということか。

 なら、白の魔力塊――こちらは減重球と呼ぶとしよう――が地面に当たった場合は……。


「ふっ……!」


 ちょうどオレの隣で、メルシオネ教官が白の減重球を避けていた。

 そして地面に球が当たった直後、さっきと同じような音を立てたかと思うと周囲の地面が上昇を始める。

 土埃を巻き上げながらゆっくりと浮上した一平方メートルほどの地面……ある程度の高さまで浮き上がると、そこでふわふわと留まるようだ。

 たとえどちらの球でも、直接当たってしまうとロクなことにならないのは確実だ……!


「けど――結局、当たれば消えるんだよな?」


 ディオンの思惑通りの対象に当たれば、面倒なことになる。

 なら、その前に別のもので消してしまうのが一番楽でいいはずだ。

 オレはさっき創り出したのより二回りは小さな短刀を幾つも準備する。

 それを白黒の球めがけてバラ撒いてみせた。


「どうだ……!」


 加重球に当たった短刀は勢いよく地面へ墜落し、減重球に当たった短刀はふわりと浮き上がる。

 そして当然、球はそこで役目を果たして消滅してくれた。


 ――これで罠みたいに仕掛けられたヤツは怖くないな。


「ダインくん」


 メルシオネ教官が目配せしてくる。

 それだけで何となく、教官の言わんとしていることは察せられた。

 教官にはオレのような囮を生み出す能力が無い……ここは役割分担してほしいというわけだ。


「……分かりました」


 つまり、教官がディオンを攻撃するための道を開く――それがオレに求められること。

 速さと正確さが重要だが、何とかやってみせなければ。

 一度頷くと、メルシオネ教官はディオンへ向かって駆け出していく。

 駆ける――というより、もはや跳躍していると言った方が正しいかもしれない。一歩一歩が長く、高い。

 もちろん見惚れている場合じゃない。オレは教官を狙う白黒の球めがけ、短刀を投げていく。

 間際で消せたものもあったので内心ヒヤヒヤしたが、どうにか上手くやれそうだ。


「ほう……即興にしては上手い分担だ」

「余裕でいられるのも今のうち、ですよ」


 教官は再び創造した細剣を手に、ディオンへ攻めかかる。

 高速の連撃――それをディオンはものともせず躱し続ける。


「二度目は通用しませんよ」

「ハッ、それは残念だ」


 死角から引寄せた加重球を、メルシオネ教官は上手く避ける。

 ただ、あれだけ接近しているとこちらとしてもデコイで消すのが難しい。


「いつまで踊り続けられるかな?」


 こうなると、肉弾戦のような様相を呈してくる。

 至近距離での攻防、その中でどちらが先に一撃を当てられるか……。


「……あまりやりたくはないのですがね」

「む――」


 攻防の最中、確かに教官はそう呟いた。

 ディオンもどういう意味だと眉を引きつらせ……直後にすぐ気付く。


「――刺突刃ペル・フォラル


 衝撃波を帯びる鋭い一撃。腹部を狙ったそれを、ディオンが避けた次の瞬間、


「もう一撃……!」


 教官の左手にもう一本の細剣が握られ、二度目の刺突刃ペル・フォラルが炸裂した。

 不意を突かれたディオンは僅かに回避が遅れ、右腰の辺りに刺突を喰らって血を噴き出させる。


「細剣を両手に持つのは、美しくないと思ってましてね」

「……ちっ!」


 やられるだけでは済ませないと、ディオンもカウンターを狙ってきた。

 攻撃を終え、メルシオネ教官が地面に着地する瞬間を狙って加重球を放つ。

 球は教官が降り立つ直前に着弾し、地面にクレーターが生じた。

 突如開いた穴にタイミングが崩れ、メルシオネ教官はクレーターの底で膝を突いてしまう。


「沈め……!」


 そこへ残りの加重球が一斉に押し寄せた。

 あれだけの数、短刀では絶対に防ぎ切れないし、そもそも墜落して教官に突き刺さってしまうのは容易に想像出来る。

 こういう場合の対処としては……これしかない。

 クレーターを覆うように、オレは黒霧でドーム状のバリアを生成する。

 間に合うかどうかがネックだったが、耐久力は二の次なので何とかスピード生成を行えた。

 防壁に加重球が衝突し、一つ、また一つと消えていく。

 その度に壁はガラスのように割れ落ちていったが、薄っぺらな構造だったので教官にもダメージは及ばなかった。


「……感謝します、ダインくん」

「はい……!」


 全弾を防げたわけではなかったが、時間を稼げたおかげでメルシオネ教官は急いで立ち上がり、後半の球を全て避け切った。

 そのままクレーターから脱出し、オレの近くまで後退してくる。


「ふう……厄介なイマジネートを持つ者が多いな。少々羨ましいくらいだ」


 そう呟くディオンは、さっき負ったはずの傷口がもう癒えている。

 オレが攻撃を防いでいる間に、治癒魔法を使っていたらしい。

 そう……あいつは優れた魔術師でもあるのだ。イマジネートだけでなく、魔法にだって気を付けねば。


「フェイと言ったか……あの子のように、きみの能力についても研究したいところだがね」

「研究だと……気味悪いこと言うんじゃねえ」


 ディオンの言う研究とは、明らかに非人道的なものだろう。

 ヒトをイレギュラーに変えてしまうような技術を持つ組織だ……捕まって研究材料にされてしまえば、人としての尊厳など踏みにじられてしまうのは間違いない。

 改めて、罪深い奴らだと感じる。


「お前を倒し、終末ノ獣も倒してエイヴスを救う。それで終わりだ」

「口にするだけなら簡単なことだが、実際に成し遂げるのは不可能というもの」


 ディオンはオレの言葉を即座に否定すると、魔法の詠唱に入る。

 その間にも、黒白の球を片手で自在に操っているので隙が無い。


「初めに土あり――ロックフォール!」


 これは詠み飛ばし――ロックフォールは確か、ランク三の中級魔法だったはずだ。

 そうだよな、ディオンほどの魔術師なら詠み飛ばしだって難なくやってのけるだろうさ……!


「……ダインくん、頭上に注意を!」


 メルシオネ教官に言われるより前に、既にオレは空を見上げていた。

 ランク三の魔法までなら詳細は何とか頭に入っている……ロックフォールは巨大な落石を生じさせる土魔法だ。


「まだ間に合う……!」


 周囲の土や岩が、オレたちの頭上に集積していくのが見えたが、塊となって落ちてくるまでにはまだ猶予がありそうだった。

 考えている暇もない。オレも教官も全速力でその場から退避する。

 何とか落石の範囲外には逃げられたが、轟音とともに落ちてきた岩塊はオレと教官をまるごと下敷きにしてもまだ余裕があるほどの大きさだった。

 しかも、この岩によってディオンの姿が向こう側へ隠れてしまっている……。


「――ブラスト」

「まずい……!」


 あえて死角から無属性魔法を放つということは、狙っているのは岩塊の方……!


「ぐッ……!」


 咄嗟に黒霧でバリアを張るが、砕かれた岩は鋭く、薄氷のような防壁をいとも容易く粉砕してくる。

 あわや肉を抉られる――という寸前で、メルシオネ教官が前に出て吹き飛んでくる破片を巧みな細剣捌きで叩き落としてくれた。


「すみません……!」

「何の、これしき……!」


 熟練のイマジネーターといえども、全てを処理するというのは土台無理な話だ。

 細かな岩の破片は教官の体に無数の傷を付けていく。

 何れも浅く済んだのが幸いだったが、傷ついた教官を目にするのは心苦しかった。


「教官――」


 せめてフォローを、と動き出そうとしたそのとき。


「……いけません、まだです!」


 教官は必死の形相でオレに向けてそう叫んだ。

 まだ? これ以上何が――そう思い、辺りを見回したオレは、気付く。

 頭上を滞空する黒い球……加重球の存在に。


「あ――」


 粉砕され、上空へと飛んだ破片。

 それが重力を付与され、地面に降り注ぐ。

 そう、オレたちのいる地上へ……!


「ダインくん――」


 教官が、どうにか攻撃を凌ごうと剣を構える。

 オレも苦し紛れに、黒霧を防壁へ変質させようとした。

 だが、間に合わない――。


「――バリア!」


 そのとき、声が聞こえた。

 オレと教官の頭上に魔法壁が張られ、落石の全てを防ぎ切る。

 今の声は……!


「イオナ!」

「ふう、危ないところだったね。間に合って良かったあ……!」


 息を切らしながらも、安堵の表情でそう言ってくれたのはイオナだった。

 彼女が急いで発動してくれたバリアは、全ての落石を受け止めてくれてから消滅した。


「仲間が一人合流してきたか……思ったよりも早いな」


 ディオンは軽く舌打ちをして、次の攻撃準備に入ろうとする。

 戻って来てくれたイオナを含め、全員をまとめて始末するために。

 だが――。


「……む!」


 死角から飛来した何か。

 正確にディオンの武器である球を狙ったそれを、彼は寸でのところで回避する。

 今のは……氷の刃。


「惜しかったねえ」


 合流してきたエスカーが、相変わらずの薄ら笑いを浮かべて言う。

 ただ、それが今はとても頼もしい。


「あー、ボクが一番だと思ったのに!」


 それからほとんど間髪を入れずに、ルカも山頂へ到着する。

 そして最後の一人であるフェイも、


「ふふ……皆無事だったのね。最後の戦いに間に合って良かったわ」


 微笑みとともにオレたちの輪の中へと戻ってきたのだった。


「本当に……無事で良かったぜ、皆」

「当たり前だよ、リーダー。あんなのに遅れはとらないさ」

「あら……私の相手は中々手強かったけれど」

「ボクのとこはそこそこ。イオナは?」

「うーん、性格だけは強かったかなあ」


 互いに自らが対峙した相手について語るメンバー。

 その余裕が示す通り、皆大きな怪我は負っていないようだ。

 服が汚れたり千切れたりしているあたり、魔法による治療はしたのだろうけれど。

 ……イオナが特に損傷してるよな。若干露出が増えて目のやり場には困るが……まだまずいレベルではないだろう。


「これで全員集合ですね。正直なところ、我々だけでは苦しかったのですが……希望が見えました」


 メルシオネ教官の表情にも落ち着きが戻る。

 たとえイマジネーターになりたてのオレたちでも、チームで揃えばちゃんと支えになれるのだなと、嬉しくなった。


「やりましょう、教官。エイヴスの悲劇をこれで終わりにするために」

「ええ……こちらの戦力は万全、今こそあの男……ディオン=マナリーを討ち倒します!」


 その号令にオレたちは力強く応じ、チーム一丸となって戦闘態勢に入る。

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