161.それぞれの戦い――エスカー
エスカーは、四人組の中では取りまとめ役らしいニヒルな男と対峙していた。
男はエスカーよりもやや赤みがかった金髪で、軽薄な表情を崩さないところがどことなく自分と似ていて気持ち悪いなと感じていた。
……仮面を被ることに慣れ過ぎた自分。
「この状況でも余裕そうだが、いつその表情が崩れるか見ものだな?」
「アハハ……その言葉、そっくりそのままお返しさせてもらおうかな」
エスカーの挑発に、男は歯を剥き出しにして嗤う。
「やはり面白いガキだ……それでこそ潰し甲斐がある!」
男は自身のイマジネートを顕現させる。
周囲にマナの光が溢れ、集束していくと……彼の周囲に無数の刃が形創られた。
「俺の名はレイダ、この能力ゆえに刃のレイダと呼ばれている。お前の名も聞いておいてやろう」
「これから死ぬ相手に名乗っても仕方ないでしょ」
「……ハハ! 正義を重んじるアトモス学園の生徒が言う台詞か? 益々面白い、必ず殺してやるぞッ!」
男――レイダが右腕をエスカーに向けて振るうと、周囲に浮かんでいた刃が一斉に前進する。
その技も、エスカーが普段から使っている氷刃と似通っていた。
「はあ――氷刃」
相手の生み出した刃と同じ数の氷をすぐさま出現させて迎え撃つ。
互いの刃はちょうど二人の真ん中でぶつかり、氷は砕け、鉄は地面に落ちて消えた。
「脆いな」
「こういう場合は落とせりゃ耐久力は要らないからねえ」
「そういう場合は……な!」
ではこれはどうだとばかりに、レイダはエスカーへ急接近する。
いつの間にかその両手には刃が握られており、右から左から高速で斬りかかってきた。
「っとと……」
最小限の動作でそれを躱しつつ、合間にエスカーも氷刃を創り出していく。
そして氷刃でレイダの鉄刃を受けるも、予想された通り氷だけが見事に砕け散った。
「ハ、何を――」
右手の氷を砕き、続いて左手の氷を砕いたところで、その破片がレイダの眼前に飛んでくる。
小癪にも、小さな氷の粒を目晦ましのように使おうという魂胆だったことにレイダは気付いた。
「小狡い手を思い付く……!」
両手の氷を使い終わると、エスカーは軽やかなステップで後退し距離をとる。
僅かな苛立ちを感じた後、エスカーに追撃をかけようとしたレイダだったが、そこである異変が襲う。
「……む!?」
足が動かない。
敵から目を逸らすのは危険だと思いつつも、慌てて足を見やるレイダ。
するといつの間にか、自身の足首辺りまで氷が張っているのが分かった。
氷自体にそれほど厚みは無く、力を入れて動かせば簡単に割れる程度だ。
しかし、不意を突いてそんなことをされれば、レイダのように数秒の隙が生じてしまう――。
「氷弓――避けられる?」
エスカーは弓を引き絞り、氷の矢を放つ。
量産型の氷刃よりも速度のある矢は、躊躇いなくレイダの頭部に狙いを定めていた。
「その程度……!」
レイダは浮遊させていた三つの刃を眼前で一つに融合させる。
花弁のようになった刃は盾として機能し、向かってきた矢を容易く粉砕した。
「なるほど、そういうことも出来ると」
「調子に乗るのもここまでだぞ、ガキが」
花弁状の刃をそのまま掴むと、レイダはまるでブーメランのようにそれを飛ばす。
エスカーがその刃を避けている間に足の氷を砕いてしまうと、彼は素早く距離を詰めた。
「手数で俺に敵うと思うなよ」
両手の甲から生えるような形になった刃と、周りを滞空する刃。
その全てが絶え間なくエスカーを攻める。
「アハ、これは流石に……」
如何に優れた観察眼の持ち主とは言え、付いていけないほどのスピードでは捌き切れない。
エスカーの回避は少しずつ遅れていき、肌に薄っすらと斬り傷が、血が滲んでいく。
「相応に能力の練度も高いみたいだねえ。ここまで攻撃の密度が濃いと、自分にも当たりそうなものなのに」
「急に褒めてくるとは。持ち上げてみたところで、見逃すつもりはさらさらないぞ?」
そんなつもりは無いよと呟き、エスカーは猛攻からするりと脱出してみせた。
レイダは隙など与えていないつもりだが、どうして攻撃圏外へ脱することが出来たのか。
「……冷たい……」
「正解。俺の能力は氷を操る力なんでね。微小な氷晶を散りばめて邪魔することで、コンマ数秒動きを鈍らせてたってワケ」
ついさっき、レイダの足に氷が纏わりついたのと理屈は似ていた。
動く刃や手に微量の氷がぶつかり、付着することで僅かに動きがズレる。
しかし、そうは言ってもコンマ数秒どころかそれ以下の隙しか生じないだろうに。
エスカーはそこに活路を見出し、見事に波状攻撃から抜け出したのだ。
「お前、本当に単なるアトモス学園の生徒か? 明らかに――戦い慣れしてやがる」
レイダの疑念も尤もだった。
アトモス学園のイマジネーターであれば、どんなに長くとも活動期間は五年。
しかも見た目や引率らしき教官がいたことも鑑みると、新入生かそれに近い年代なことは彼にも容易に分かった。
なのに、エスカーの戦闘技術は年にそぐわないほど優れている。
加えて彼には戦うことへの恐怖というものが微塵も感じられないのだ。
「多かれ少なかれ、人には人の事情ってモンがあるでしょ。ま、俺が今アトモス学園の生徒なのは確かだよ。ホラ、ライセンスだってこの通り」
エスカーはテスタマイザーの画面を点け、イマジネーターのライセンスを表示させる。
そこには五級ライセンスのマークと表記、それからアトモス学園所属という文言も記載されていた。
ただ、レイダが知りたいのは無論そんな肩書きではない。
エスカーの言う事情――彼を戦闘のプロ足らしめた事情こそが聞き出したい謎だった。
「……ま、いいさ。名乗りさえしない奴に問うのも間違いだ。興味が無いわけじゃないが……どうせ俺には関係ない。さっさと殺して終わらせるとしよう」
「ああ。どうせ聞けないんだからそれで構わないよ」
エスカーとレイダ。
どこか似ているからこそ相容れぬ二人。
もはや対話も必要ないと、ただ殺意のみを以て再び向かい合う。
この勝負の果て、残る命は一方だけ。
互いにそれが自身であることを疑わず、刃を握る――。




