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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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160.それぞれの戦い――ルカ②

「せぇいっ!」

「はあッ!」


 拳がぶつかり、衝撃で風が生じる。

 互いに同じだけ弾き飛ばされるも、足で地面を蹴り込んでもう一度殴り掛かる。


「うおぉ……!」

「ぬう……ッ!」


 逆の拳で、先ほどの動きを繰り返しているような光景。

 そこからルカが足を蹴り上げ、ハルバは頭を後ろへ下げて回避する。

 一度距離をとったハルバは、違和感を抱き始めていた。

 攻撃にフェイントを入れられ始めたからではない。

 ルカの拳が、最初に受けたときから少しずつ重くなっているからだ。


「まさかな……」


 せいぜい火事場の馬鹿力というやつだろうと、深く考えないようにする。

 経験も、魔力の総量も自分の方が上。長期戦になるほど相手は疲労し、自然とこちらに勝機はやってくるだろう、と。


「む……!?」


 油断はしていなかった――はずだった。

 常にルカを視界には入れていたはずなのに、いつの間にか右側面への接近を許している。

 速い……これもまぐれなのか? もしくは無茶をしてでも一時的に能力を増強していたりするのか。


「甘いわ……!」


 それでもハルバは落ち着いて攻撃に対処する。

 ルカの動きをしっかりと読み、拳に力が乗っているかどうかを見定め。

 虚か実か、二択を看破した上で魔力を操り、狙われている箇所の守りを厚くする――。


「むお……ッ!?」


 ハルバは完璧な防御行動をとれていた。

 にも拘らず、ルカの拳はやはり一つ前よりも強く、重く感じられた。

 事実、魔力を込めたはずの右肩部位に薄っすらと亀裂が生じている。

 流石のハルバも、何かがおかしいと思わざるを得ない。


「お前さん、一体……」

「……ボクはさ」


 右の握り拳を、左手でそっと包むようにしながらルカは呟く。


「かなり不器用な人間で、魔力の扱いもからっきし。初級魔法も上手く扱えないくらいなんだ」

「……何?」


 突然そんな話をされ、困惑するハルバ。

 しかしハルバに構うことなく、ルカは語り続けた。


「だから、経験を積まなきゃ満足に自分の力も発揮出来やしない。そういう意味では、戦う相手がいることには感謝してるんだよ」

「力を、発揮出来ていない……?」


 言葉の意味をすんなり受け止められずしばらく呆けた後に、いやいや冗談だろうとハルバは苦笑いする。

 自分が今相対している少女は、明らかに常人の身体能力ではない。

 それに、彼女がイマジネートによって魔力を纏っているのもハルバは感じ取れている。……いや、確かにあまりにも微弱ではあるが……。


「テルさんの闘技を間近で見て学んだこともある。おかげで少しずつ、魔力の操り方は掴めてきてる……」


 ルカは拳を握り締める。そこに込められていく魔力の濃度は、彼女の言う通り先ほどよりも増しているような。

 だが――だとすると。


「――はあっ!!」


 地面を蹴りこみ、ルカは超加速してハルバに突撃する。

 間違いなくそのスピードは、先ほどまでを塗り替える最高速で。


「ぐお……ッ!?」


 雑念が生じていたこともあり、ハルバは防御を間に合わせることも出来なかった。

 腹部に強烈な一撃がヒットし、鋼の鎧がボロボロと砕け落ちる。


「……うん、良い感じになってきてる」


 一方的にやられるだけではいけないと、ハルバは無我夢中で拳を突き出した。

 ……それをルカは片手で受け止める。


「な……!?」

「重いね、威力を殺さないと受け切れないや」


 無理やり手を振り払い、慌てて後退したハルバには、芽生え始めた感情があった。

 それは、ルカという少女に対する恐怖。

 体格も魔力も経験も。全てが自身より劣っていると思っていたはずの敵への畏怖……!


「まさかお前さん……」

「うん?」

「今までほとんどイマジネートの効果を発揮出来んまま戦っていたというのか……!?」


 有り得ないと思ってぶつけたはずの問いかけに、あっさりとルカは頷く。

 彼女の身体能力の高さに、イマジネートの補正はほとんどかかっていなかったのだと。


「馬鹿な……! そのか細い体で、そこまでのことが出来るはず……」


 言いかけて、ハルバは突然に思い出した。

 自身の記憶の片隅にあった、とある噂のことが意識に上ってきたのである。


「待て――ルカ? ルカだと……?」


 名前を呼ばれ、ルカはピクリと眉を動かす。


「俺のような下っ端でも、その『()()()()』という名称は聞いたことがある……お前さんは」


 ハルバが言い終わるよりも前に、ルカは動いていた。


「――がはッ!?」

「ゴメン。その話は聞きたくないんだ。思い出すだけでムカつくことだからさ」

「……やは、り……」


 そうだったのか、とハルバは納得した。

 自身の予想が当たったことと……あの()()()()()()の噂が真実であったことに。


「ボクにとってお前たちは敵で、ただ倒されるだけ。もう終わりにさせてもらうよ」

「……ああ……」


 ――なら、俺が……いや、千年王国がこうして彼女と相まみえたのは、一つの運命だったのかもしれない。


 柄にもなくハルバはそう感じ……そして、彼女に対しての哀れみもまた感じてしまった。

 けれど、彼女の言葉。

 その哀れみすら、お前たちには感じる資格がないのだと仄めかされているようで。


「……そうだな。次のやり合いで、終わりにするとしようかい」


 ゆえに、自分に出来るのはやはり、戦いきることなのだと……ハルバは理解した。


「行くよ」

「来い……!」


 宣言とともに、まず動いたのはルカ。

 真正面から突っ込んでくるのに、ハルバはどっしりと待ち構える。

 あと数歩でハルバのテリトリーに侵入するというところで、ルカは大きく跳躍した。

 ハルバが頭上を見上げると、既にルカは踵落としの体勢に入っている。


「……ふん……ッ!」


 全力の踵落としを、ハルバは両腕を交差させてガードした。

 一番最初に拳を受けたときとは、もはや雲泥の差だ。少しでも気を抜くと、この装甲がバラバラに砕けかねない。


「ふっ」


 崩しきれないと判断したルカは、あえて足を弾かれることでくるりと後ろ向きに宙返りする。

 その遠心力を殺さないまま、間髪入れず前蹴りを放った。


「おっとぉ……!」


 顎が砕かれそうになり、ハルバは咄嗟に上体を後ろへ逸らす。

 そしてがら空きになったルカの脇腹へ左腕でのボディブローを仕掛けるも。


「魔力で動きが見えてる」

「……はッ……」


 ルカはまたしても片手でその拳を受け止めてしまった。


「……せえのっ」


 更に受け止めた左腕をぐいと引き、ハルバの懐に潜り込んで、なんとルカは彼を投げ飛ばそうとする。

 流石に不可能だ――と思いたいハルバだったが、今の彼女にはそれが出来てしまいそうな恐ろしさがあった。


「むう……!」


 やられるわけにはいかない。ハルバはあえて自分から前方へ飛ぶことでルカの攻撃を無力化する。

 ……しかし、ルカはその回避行動すらも織り込み済みだった。


「喰らえ――!」


 パッと腕を放したルカは、前傾姿勢のままハルバへ突っ込む。

 自身が今開放できる限りの魔力をその右拳に込め――放つ。


「負けんぞ……!」


 ギリギリのところで体勢を整えられたハルバも、ルカの攻撃を全身全霊の防御で以て迎えた。

 拳と装甲とがぶつかり、衝撃が爆風を生じさせ、そして――。


「…………ガハハ」


 ハルバが、笑った。


「……完敗の、ようだ……」


 その巨体が、ぐらりと傾ぎ……土埃を巻き上げて、倒れる。

 鋼の装甲は、全てがバラバラと砕け散り、消えていった。


「……はあっ……」


 敵が負けを認めたことで集中が切れたのだろう、ルカは地面にへなへなと座り込む。

 それから、震える手を握り締めて、勝利の余韻にしばし浸っていた。


「最後の、技は……」

「……テルさん……この世界の人が教えてくれた闘技。敵の内部へ魔力を浸透させることで、たとえ守りが固くてもそれを貫通させられるってワザだよ」

「……なるほど、な。道理でこんなに、痛むわけだ……」


 まるで体の中で爆発が起きたかのように、臓腑が痛む。

 ハルバはもう、息をすることすら困難な有様だった。

 薄れゆく意識の中、彼は最後に一言だけをルカへ告げる。


「俺もなあ……こういう生き方しか出来なかったが、目を背けなけりゃならんことばかりなのは、辛かったなあ……」

「……ハルバさん」


 ルカが名を呼んだときには、ハルバの意識はもう無くなっていた。

 彼女はしばらくハルバを見つめ、溜め息を吐いてから……背を向ける。


「そんな悪を潰すのが、ボクの戦う理由だ。まあ……ボクの相手が貴方みたいな人で、まだ良かったよ」


 おかげで殺さずに済んだと、心の中で呟いて。

 ルカもまた、他の面々と同じく山頂を目指し歩き始めた。

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