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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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159.それぞれの戦い――ルカ

 ルカを対戦相手として選んだのは、焦げ茶色の短髪をした大柄な男。

 見た目の重々しさに違わず、男の有するイマジネート能力もまた堅牢さに突出したものだった。


「ガハハ、見事なもんだろう。この鋼の装甲は!」

「ふう……硬くてやり辛そうだね」


 男の能力にも、高めのテンションにも嫌気が差したルカは、溜め息交じりに呟く。


「ふむ、男ならこの格好良さが分かると思ったんだがなあ」

「……ムカ」


 戦闘前の言葉で既に察していたが、この男もルカの性別を勘違いしているらしい。

 ダインの場合は仕方ない事情があるとルカも納得していたものの、初対面かつ敵対する人間に間違えられるというのは非常に腹立たしいことだった。


「俺の名はハルバだ。この能力ゆえ、鋼のハルバと呼ばれている。お前さんもせめて男らしく名乗ってみい」


 手甲を嵌めた両手をガチリとぶつけ、ハルバはルカに挑発するような台詞を投げかける。


「ボクの名前はルカ。それから――」


 拳をギリギリと握り締めたルカはそこで言葉を切り、いきなりハルバに向かって突進した。


「――悪いけど、こう見えて女なんだよっ!」


 イマジネート能力を乗せ強化された、重たい一撃。

 不意の攻撃にハルバは少し驚いた様子だったが、胸の前で両腕をクロスさせてそれを受ける。

 自慢していただけあって、彼が創り出す鋼の強度は相当のものだった。

 殴り掛かったルカの方が圧し負け、弾き飛ばされるように後退する。


「くう……っ!」

「……そうか、お前さん女だったか。これは失礼したな」


 意外にも、ハルバーは謝罪を口にした。

 敵ながら、どうも礼節はきちんとしている男のようだ。


「戦闘スタイルの似たお前さんに先入観を抱いていたようだ。こういう戦いも久しいもんでな、些か調子に乗っていたか」

「まあ、昔から誤解されることはあったからいいよ。というか、オジサンもやっぱり肉体派なんだ」

「オジサンは止めい、俺はまだ二十六のお兄さんだぞ」

「あっそうなの。ゴメンゴメン、こっちも見た目で判断しちゃった」

「ガハハ、これでおあいこということだわな」


 ハルバは豪快に笑う。

 おあいこ――互いの話だけならそれで許せるかもしれないが、生憎もっと大きな問題のために自分たちは敵対している。

 その上で、ルカは決してこの男を、千年王国を許せないと思っている。


「悪いけど……ボクは絶対にお前を倒す。この世界を護るために……いつか千年王国を潰すために」

「随分嫌われておるもんだな。まあ、お前さんたちにしたらそうだろうが……潰すときたか」


 大きく出たもんだなと、ハルバはまた笑う。


「しかし……ふむ。ルカという名前、どこかで聞いたような覚えもある……」

「余所見してる場合じゃないよ」


 ハルバが思案している間に、ルカは側面へ回り込んで蹴りを見舞う。

 かなりの速度だったが、ハルバは片腕だけでそれを防いでしまった。


「良い蹴り込みだが、鋼の硬さには勝てんな」

「あっ……!」


 ハルバはもう片方の手でルカの足を掴むと、力の限り振り回し彼女を放り投げた。

 五メートルほどは飛ばされた後、ルカは何とか受け身を取って着地する。

 ただ、戦いの場は火山の斜面であり、下手を打っていたら転げ落ちていたことだろう。冷や汗が滲む。


「まだまだ……!」


 ルカは怯まず、もう一度攻勢をかけた。

 全速力で接近し、拳と脚の連打をハルバに浴びせていく。

 しかし、堅固な鎧はその全てをほぼ無力化してしまう。


「ふんッ!」


 そして、ハルバの巨腕が唸った。

 ただでさえ屈強な体格の男、その筋力に加えて鋼の手甲が殴打の威力を更に引き上げる。

 強力な一撃はルカの腹部を捉え、彼女は体をくの字に折り曲げられて吹き飛んだ。


「か、は……っ」


 ゴロゴロと地面を転がり、突き出た岩にぶつかって辛うじて止まる。

 能力で咄嗟に腹部を強化したものの、あまりの威力にルカは口から血を吐いた。


「身体能力の強化がお前さんのイマジネート、というわけか。分かり易くて良い能力だが、些か相性が悪かったかもしれんな」


 言いながら、ゆっくりと歩み寄ってくるハルバ。

 ルカは口元の血を拭い、うずくまりながらも彼を睨みつける。


「……女を痛めつけるのは心苦しいが、これも真剣勝負。恨まんでくれよ」

「まだ、勝負は付いてないんだけど……?」


 震える体を何とか起こし、ルカは拳を構えて再び戦闘態勢に入る。

 その目に勝利への執念が宿っているのを感じ、ハルバも考えを改めた。


「そうだな。せっかくの戦いだ、もっと楽しませてくれんと困る」

「その軽口……すぐに叩けなくしてやるから」


 一度後退して距離を取り、ルカは相手の能力を見定める。

 先ほどから注視していて何となく見えてきたことだが、恐らくハルバのイマジネートは見せかけほど便利なシロモノではなさそうだった。


「……はぁっ!」


 意を決し、ルカは三度ハルバへ特攻する。

 真正面から突っ込み、勢いのまま殴りかかる――と見せかけ。


「ぬっ!」


 拳をあえて眼前で空振りさせると、そのままくるりと身を捻らせて回し蹴りを放った。

 防御の意識を前方に向けていたハルバは、横っ腹への衝撃に驚く。

 鎧はやはり硬く、一撃ではヒビすらも入らなかったが……それでもやはり、ルカの予想は当たっているようだった。

 ルカは続けざま、屈みこんで足払いを仕掛ける。

 僅かに体勢を崩したハルバの顎へ渾身のアッパー……と思わせ、先ほど攻撃を当てた横っ腹付近へ膝蹴りを喰らわせる。


「ぐ……っ!」


 二撃目で、鎧に僅かではあるものの亀裂が入った。

 まずいと判断したのか、そこでハルバは一度距離を置く。


「お前さん、もしや……」

「……ボクは能力でマナの流れが見えるんだ。絶賛修行中だけどさ。それで気付いたけどハルバさん、見た目の豪快さの割に器用なことやってるんだね」

「……ほう、そこに気付くとは」


 ハルバはヒビ割れた鎧にそっと手を当てると、魔力によって破損を修復する。

 イマジネートで創られた装甲ゆえ、使用者であるハルバの魔力が尽きない限りは再生可能なようだ。


「何もしなくてもモチロン硬いんだろうけど、ハルバさんはボクが攻撃をしてくる部位に魔力を寄せることで強度を高めてたんだ」

「だからこそ、攻撃に虚実を混ぜることで弱い部分を狙った……というわけだな」


 ハルバの方から語ってくれたので、ルカはそうだと頷く。


「ガハハ、気に入った。最初は心配しとったが、中々骨のある戦士のようだ。俺も遠慮なく全力でいかせてもらうぞ」

「どうぞ。ボクもそれを全力でブチのめさせてもらうから」


 ルカとハルバは、互いに拳を構えて見つめ合う。

 はらりと小石が斜面を崩れ落ちる音がして――二人は同時に飛び出し、拳を交差させた。

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