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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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157.それぞれの戦い――イオナ

 フェイが風のセフィと対峙していたのと同じ頃、イオナもまた構成員の一人と戦っていた。

 敵の女が操るのは炎。奇しくもエイヴスを苛んだのと同じ属性である。


「そら、喰らいなッ!」


 燃えるような赤い髪の女は吼えながら豪快に杖を振るう。

 その杖は彼女の性格を表すかのように、鋭い棘が無数に突き出ていた。


「むう……!」


 イオナに向けて放たれるのは、直径一メートルほどにもなろうかという火球。

 女が杖を振るう度にそれは生成され、イオナに襲い掛かった。

 攻撃そのものは単調だが、女の魔力値が高いのか休みなく炎が飛んでくる。

 むしろ、あえて避けられるレベルの攻撃を繰り返すことで、イオナの反応を愉しんでいるようにさえ見えた。

 ……いや、きっとそうなのだろう。


「フフ、自己紹介がまだだったねえ。アタシはフロメア、この力が示す通り、炎のフロメアと呼ばれている女さ!」

「一応礼儀として答えておくね。私はイオナ……ご存知の通り、アトモス学園のイマジネーターだよ」


 イオナという名前を聞いたところで、フロメアと名乗った女の手がピタリと止まる。


「お仲間からそう呼ばれているのは聞いたが……アンタ、ホントにイオナって名前なのかい」

「ええ、それが?」

「……ハハ! 誤魔化せると思わないでほしいもんだね。まさか、本物の預言者サマと対面出来るとは!」


 フロメアは愉快そうに笑う。

 それをあくまで冷淡に、イオナは見つめていた。


「桃色の髪にイオナって名前。一般人なら珍しいでやり過ごせるかもしれないが、生憎アタシらは特別な人間でねえ。預言者イオナ=ピリグリムのことはよおく理解してるんだよ」

「……そう」

「つれないねえ。アンタがこの世界で重要な存在だというのを知ってる、数少ない人間だってのにさ」


 確かに、預言者イオナの存在は一般に浸透していない。

 世の混乱を招かないためにも、イオナ自身の安全のためにも、セラフィス教会は情報を制限する方針を守っている。

 それがイオナを苦しめることも間々あるけれど、仕方のないことだと彼女は受け入れていた。

 その上で、自身の運命を切り拓くためにイマジネーターとなったのだ。


「たとえ私が預言者でも、それを知らない人ばかりでも、別に構わない。だってここにいる私は、ただのイマジネーターのイオナなんだもの」

「甘いねえ。世界がそれを許さないだろうに」

「なら、私が世界を許さないよ」


 夜明けを迎え、預言を終わらせる。

 世界を変えてやるという絶対の意志で、イオナは戦っている。


「大した啖呵だ。けど、アンタはまだまだヒヨッコだよ……こうしてアタシに翻弄されてるくらいなんだからさァ!」


 そう叫ぶと、フロメアは杖を地面に突き立てた。

 直後、地面からマグマが噴出し、赤熱する岩塊とともにイオナへ飛来した。

 攻撃範囲はかなり広いものの、イオナはそれを冷静に受ける。


「――アクア」


 ランク一の水魔法。威力こそ低いが、相対する属性の魔法を的確に撃ち込むことで溶岩を叩き落とす。

 最下級の魔法だからこそ、連射も可能だ。

 それでも相殺しきれない部分はあったが、後は簡単に左右へ動くだけで全て避け切れた。


「上手い上手い、お次はこれだよ!」


 間髪入れずに、フロメアは追撃を入れてくる。

 杖を左右に振るうと、その動きに合わせて二つの火球が発生し、イオナを挟み撃ちにした。


「――クラッグス!」


 両手を横に突き出し、土魔法を行使する。

 左右の地面から岩の壁が突き出して、イオナを守る防壁となった。


「おや……!」


 火球が岩壁にぶつかるのと同時に、イオナは前方に走り出す。

 ちょうどそのタイミングで岩は破壊され、火球同士がぶつかって爆発を生じた。

 クラッグスが完全な防壁として機能しないのは察していたので、彼女は回避しつつ攻撃態勢へ転じたのだ。


「――ブライトレイ」


 イオナのイマジネート能力が発動する。

 彼女の持つ杖から細い光線が放たれ、フロメア目掛け伸びていく。


「くっ……危ないわねッ!」


 フロメアはギリギリで光線を躱したものの、その速度に冷や汗を滲ませる。

 ただの魔法なら知識や経験の多いフロメアたちの方が対処し易いだろうが、イマジネートとなればやはり話は違った。


「ちぇっ、一発でやられてくれたら良かったのに」

「……このガキ……!」


 あくまで落ち着き払っているイオナに、次第にフロメアの方が腹を立て始める。

 相手を見下しているからこそ、慌てる素振り一つ見せないのが苛立つのだ。

 そして、イオナはフロメアが高慢な性格だとすぐに分かったからこそ、こういう態度を向けていた。


「フン……遊びは終いにするかね。アンタを持って帰れば、オットー様も喜ぶに違いない」

「オットー……それが貴方たち王国のリーダー?」

「馬鹿が、教えてやるわけないだろう?」

「そっちが先に口滑らしたのに」


 イオナの返しに、フロメアは舌打ちをして彼女を睨みつける。


「――ヴォルカン!」


 ここへきて、初めてフロメアが魔法を行使した。

 立っていた地中から噴き出す火柱に、イオナは慌てて後退する。

 しかしそこへ、


「燃えちまいなッ!」


 頭上から火球が墜落してきた――魔法とイマジネートは同時に行使可能なのだ。


「――バリア!」


 咄嗟に防御魔法を張ったものの、完全に火球を防ぎ切ることは出来なかった。


「……きゃあっ!」


 バリアと火球のどちらもが粉砕され、細かな火の玉が幾つもイオナに降り注ぐ。

 幸い大きなダメージにはならなかったが、肌の露出していた部分は火傷を負ってヒリヒリと痛んだ。


「そうさ、その悲鳴が聞きたかったんだよ! いい子だねえ」

「――ヒール!」


 フロメアに何も言い返すことなく、イオナは回復魔法で傷を癒す。

 初級魔法でもすぐに治癒するレベルで助かったと、彼女は安堵しつつ。


「……はあ。まだまだ始まったばかりなのに、苦戦してたら先が思いやられるなあ」


 自分の情けなさが少しばかり嫌になる。

 けれど、これも大事な経験なのには違いないと言い聞かせて。


「……乗り越えなくちゃね。世界のためにも……何より私たち、預言者と子羊のためにもさ」


 イオナは眼前に立ち塞がる敵を見据え、力強く大地を踏みしめる。


 ――さあ、ここからが勝負だ。


 巡礼の旅路を進んでいくために、彼女はただひたすらに、前を向いて闘う。

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