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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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156.それぞれの戦い――フェイ②

「――フラッド!」


 フェイが得意とする水魔法を発動させる。

 放たれた鉄砲水。勢いは凄まじいものの、動きが単調ゆえにセフィは難なくそれを躱してしまう。


「フフ、それが全力なら悲しいものね」

「――サンダー!」


 続けざまに撃ち込んだ雷魔法も、軽く後退しただけでセフィは回避する。

 これが戦闘経験の差か、魔法の効果や進路、タイミングを彼女は理解しているようだった。


「若さというものかしら……この単純さも、素敵なことではあるけれど。戦場では命取りね」


 言うと、セフィはほんの僅かな時間で魔力を練り、


「――フラッド」


 意趣返しとばかりに、フェイと同じ水魔法を撃ってきた。

 相手が躱したのなら、自分だって応じてみせよう。

 フェイはそう考え、片脚で地面を蹴り込み素早く左へ動いたのだが。


「――なっ……」


 思わず驚愕の声を上げる。

 何故なら、鉄砲水が彼女の後を追うようにぐにゃりと進路を曲げてきたからだ。

 避けたとばかり思っていたフェイはそれ以上の防御策をとれず、重い水流にそのまま激突される。


「やぁ……ッ!」


 近くの岩に叩きつけられ、地面に崩れ落ちるフェイ。

 全身がズキズキと痛み、起き上がるだけでも涙が出るほどの辛さだった。

 ……幸い、骨は折れていない。彼女は再び自身の能力で負傷を回帰させる。

 魔力の消耗は大きいものの、治癒魔法を使うよりも早く、拘束されないのが片翼の天使のメリットだった。


 ――こんなに痛いのは、いつ以来かしら。


 打ち付けられる痛みが、彼女の記憶を呼び起こす。

 さして古くはない、けれど自ら心の奥底に沈めていた冷たい記憶。


「……ええ。こんな所で終われない」


 そう自分に言い聞かせ、フェイは闘志を奮い立たせた。

 目の前の敵と自分の間に、果たしてどれほどの差があるのか。

 魔力、知識、経験。全てにおいてセフィという女の方が上回っているようにも思える。

 加えて、この場で初めて見せつけられたイマジネート……鋭き風の刃。

 その攻撃に慣れるのもすぐには難しい上に、魔法を組み合わせた搦め手も使われ翻弄されるばかりだ。


 ――でもね。


 こちらにだってまだ、見せていない手はある。

 自身がそれを使いこなせるかどうかは分からないけれども。


「――フラッド」


 魔力を練り上げ、フェイはまた水魔法の行使を宣言する。

 ……しかし、構えた彼女の掌から鉄砲水は飛び出さない。


「あら、まさかもう魔力切れなのかしら? ……いや……?」


 セフィはすぐに気付く。魔法が発動される代わりに、フェイの周囲に青い光が漂うのを。

 青……つまりは水属性のマナ。それが出現したということは即ち。


「――クラッグス!」

「おっと……!」


 思考を中断し、セフィは回避に専念する。

 後方へ飛び退いた直後、彼女がいた地面が隆起して岩の槍が飛び出した。


「――はッ!?」


 セフィの推理が形になるのと、その答が提示されたのは同時だった。

 岩の槍を撃ち抜くようにして、鉄砲水が彼女に衝突する。

 通常の威力にプラスして、土魔法の岩もぶつかってくるために、セフィが受けたダメージはかなりのものだった。


「……ぐう……ッ!」


 してやられたと顔を歪ませ、セフィは膝を突いた状態でフェイを睨みつける。

 対してフェイはどことなく安堵したような表情を見せていた。

 ……ほとんど後方支援に徹していた彼女。

 実戦でこれほど攻撃的な運用をするのは初めてで、不安が大きかったのだ。

 

「良かった……上手くいって」

「……魔法を、ストックした……?」


 セフィの問いに、フェイはあっさり頷く。

 どうせ一度で見抜かれるカラクリだと分かっていたので、隠す必要もないと判断したのだった。


「私の限定スキルは『貯蔵』……魔法を一つ貯めておくことが出来るというものだったのだけど、今までは使いどころが無かったのよ」


 支援をしているだけならば、都度必要なものを仲間に付与すればいいので事前にストックをしておくまでもなかった。

 だが、自分ひとりで戦うとなれば話は別だ。魔法を貯めておくことで、戦略の幅が確実に広がる。

 今しがた、岩の壁で視界を遮りつつ貯蔵しておいた水魔法を放ったように。


「限定スキル……そちらの工房も素晴らしいものね。全く、面倒な技術だわ」


 セフィが憎らしげにそう語るということは、彼女らが持つブースターの類似品だと限定スキルは存在しないようだ。

 尤も、イマジネートという根本部分を完全に再現しているのだから、千年王国の技術も十分恐ろしいものだが。


「千年王国……もっと色々と教えてほしいところだけれど、仮にもう一度捕まえても吐くつもりはないんでしょうね」

「その可能性が万に一つも無いとして……私たちは王国に忠誠を誓っているもの。貴方たちの利になることは何一つ話したりしないわ」

「ええ、そうでしょうとも」


 だから、ただ全力で勝てばいい。

 後のことまで考える必要は、今はないだろう。

 フェイは見つめる。立ちはだかる相手を。

 乗り越えて行かねばならない壁を。


「分かったなら、安心して実験体になりなさい? ――はッ!」


 セフィがもう一度風を生み出す。

 彼女が魔力を込めて腕を振るう度、風の勢いは増していくようだ。

 ページどころか、浮かんでいる本そのものがくるくると回転し、風は次第に激しい竜巻へ変化する――。


「荒れ狂う風で呑み込んであげる」

「くっ……!」


 迫る竜巻。セフィが豪語するように、それはフェイを易々と呑み込んでしまえる巨大さだった。

 ただの魔法ではなくイマジネートによる技であり、進路を操れる可能性も十分考えられる。

 避けるだけではやり過ごせない不安がある上、まず回避出来るかどうかも分からない。

 フェイがとれる選択肢は一つだけだった。


「――バリア……!」


 防壁を張り、竜巻を待ち構える。

 矮小に見える守りでも、耐え忍ぶことでチャンスを掴めると信じて。


「アハハ……さっきと変わらない防御魔法で耐えられると思っているのかしら? お願いだから死なないでちょうだいね……貴方はディオン様の大事な研究材料なんだから」


 セフィが高笑いする中、竜巻は容赦なくフェイを襲う。

 彼女が構築したバリアごと、全てを呑み込んでいく。

 土埃が舞い、フェイの姿は完全に消えて見えなくなった。

 セフィは勝利を確信し、口元を綻ばせる。

 だが、その瞬間――。


「……え……!?」


 前進していく竜巻と入れ替わるようにして、セフィの方へ向かってくるものが見えた。

 それは――波濤。始めは小さな波だったものが少しずつ高さを増し、セフィを押し流さんとやって来る……!


「どうして……防御魔法に集中しているはず!」


 普通、バリアなどの防御魔法を発動しながら別の魔法を詠唱することなど出来ない。

 それを可能にする限定スキルはあるかもしれないが、フェイは自身のスキルを『貯蔵』だと語ったし、そこに矛盾はなさそうに見えた。

 ゆえにセフィは混乱する。どうしてフェイがカウンターのように攻撃魔法を放てるのか――。


「……馬鹿、な……!」


 竜巻が過ぎ、土埃が消えた後に現れた光景。

 そこには、未だバリアを張り続けるフェイの姿。

 セフィは己の眼が信じられずに放心し、迫りくる大波への対処が遅れてしまう。

 真正面から波を受けて溺れる彼女へ、フェイは容赦なく追撃を放つ。


「――サンダー!」

「ぎゃあァ……ッ!」


 波の中に撃ち落とされた雷は、セフィの全身を駆け巡る。

 激痛に身悶えするも、水中の彼女はどこへも逃げることが叶わない。

 ……更に。


「――ァあッ!?」


 魔法の行使が宣言されていないにも拘らず、二撃目の雷が降り注いだ。

 訳も分からないまま、セフィは感電の苦しみに苛まれ続け、そして――。


「……――音よりも疾く、強く、大地へ駆け抜け敵を討つ。貫け――ライトニング!」

「ぎぃいやあああぁ――ッ!!」


 一際強力な雷が、トドメとばかりにセフィを貫く。

 押し寄せる痛みはとうとう限界を迎え、彼女の意識はそこで途絶えたのだった。





 ……霞む視界。

 目が覚めたとき、セフィの視界に映っていたのは自身を倒した相手だった。

 憎きアトモス学園の戦士……この状況が腹立たしくて堪らないものの、彼女は指一本すら動かせない。

 痺れも痛みもまだ残っている。フェイも驚いた顔をしているし、覚醒したのは偶然なのかもしれなかった。


「……侮ってたわ……貴方の、能力」

「……あれで終わってくれて良かった。看破されてしまったら、きっと私が負けていたでしょうね」


 片翼の天使。

 これまで彼女は自身の能力を傷の回復手段に用いてきた。

 しかし、その力の本質は『回帰』……物や事象を元の状態に戻すことである。

 つまり、発動された魔法に回帰能力を使った場合、《《魔法が発動される前に戻す》》ことになるのだ。


「皮肉にも、ヒントをくれたのはディオンさんだったわ。時間を巻き戻すようなこの力、色々応用が利きそうだと評してくれたのが考えるきっかけになったのよ」


 フェイは防御魔法のバリアに対して回帰を繰り返し実行した。

 イマジネートは無論、魔法とは別扱いのため、彼女はバリアを復元しつつ水魔法を詠唱することが出来たのだ。

 二度続けて落ちた雷魔法サンダーも、同様に回帰能力によるものだった。


「魔力の消耗が激しくて、使い処は考えなくちゃいけないけれど……私でも十分に戦える。その証明になったわ、ありがとう」

「……フン……ムカつく、子だこと……」


 敗者らしい捨て台詞を最後に、セフィは再び意識を手放した。

 それをしっかりと確認してから、フェイは静かに立ち上がって火山の方へ歩き出す。


 ――そう、私は戦い続けなくちゃいけない。いつの日か、この片翼の恩に報いるためにも。


 仄かに光る羽を一枚手に取り、それが消えていくのを見つめながら……フェイは人知れず、決意を新たにするのだった。

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