155.それぞれの戦い――フェイ
千年王国の構成員である四人組と、アトモス学園に所属する四人のイマジネーター。
対峙する二つの勢力……暫し睨み合いが続いた後、均衡を破ったのはやはりシニカリストの男だった。
「ハハッ、同じ人数で戦おうとは見上げた根性だな。ならばもっと面白い趣向にしてやろう……俺の獲物はお前だッ!」
そう告げるや否や、男は再び急接近し、エスカーに攻撃を仕掛けた。
エスカーは寸でのところでそれを防ぐも、大きく後方へ吹き飛んでいく。
男の狙いはエスカーと一対一の状況を作ることのようで、そのまま愉快そうに笑いながら、吹き飛んだ彼の後を追っていった。
「ふふん、良いアイデアだねえ。じゃあアタシは……」
攻撃魔法を操る高飛車な女が狙いを定めたのは――イオナだ。
「その顔を歪ませるのが愉しみで仕方がなくってねえ……そらッ!」
女が刺々しい杖を振るうと、大きな火球が発生する。
イオナもまたその攻撃を受け、エスカーとは別方向へ飛ばされていった。
「ふむ。では俺も順当に選ばせてもらうとしようじゃないかい」
大柄な男は、フェイとルカを交互に見比べた後、
「お前さんを選べば、ちょうど男女別になっていいだろう。ひょろっちくて心配だがなあ」
「……ムカ」
選ばれたのはルカだったが、どうやら男はルカの性別を間違えているらしい。
ルカは膨れっ面になったものの、あえて訂正をすることは無かった。
「では、行くぞ――」
男の得物は手甲。というより、イマジネートによって鋼の鎧のようなものが装着されている。
派手に拳を振り被ってから――全力の打ち込み。
ひょろっちいと言われたことへの意趣返しか、ルカはそれを真正面から受けて後方へ飛んだ。
「ほう、案外見込みがある。楽しませてもらいたいもんだ」
豪快に笑うと、男もまたルカの後を追っていった。
……そして、最後に残ったのはフェイと緑髪をした補助魔法使いの女。
「あらま、皆せっかちなこと。でも、私もあなたに興味があったしオッケーなんだけどね」
「……あら、そうなの。でも私は早くあなたを倒してしまいたいわ」
フェイは素っ気なく返すも、相手の女は意に介さない。
くすくすと一しきり笑ってから、ゆっくりと自身の武具を構える。
一見ブースターそのもののように思えるが、つまり彼女の武具は本のようだった。
「今更だけど、まずは自己紹介といきましょう? 私の名前はセフィ……風のセフィと呼ばれているわ」
「ふう……私はフェイよ。満足したなら、始めましょう」
冷淡な眼差しをセフィと名乗る女に向けたまま、フェイはイマジネートを発動させた。
彼女が最初から能力を顕現させることはこれまで無かったが、今は一対一の戦いだ。出さずにいるのはデメリットにしかならない。
持てる力の全てで当たらなければ、勝利をもぎ取ることは難しいと彼女は理解していた。
「一つだけのアンバランスな翼……どうして、中々綺麗なものね」
「どうもありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
「私もそんな力が欲しかったのに。羨ましくなっちゃう」
セフィは片側の口角を吊り上げ、ふわりと本を浮かび上がらせる。
そして手を横ざまに振ると、ページがパラパラと勢いよく捲れていった。
「さあ、風よ吹き荒れなさい……目の前の敵を斬り刻みなさい!」
刹那、フェイは危険を察知する。
風の流れが明確に変わり、フェイに向かってくるのが分かった。
女の宣言通りなら、これは単なる強風ではない。標的の体を斬り裂く魔力の風……!
「――バリア!」
すぐさま防壁を構築するフェイ。
その魔法壁が出来上がった直後に、命を刈り取る風が襲った。
衝撃がフェイの体に伝わる。ギャリギャリと耳障りな音を立てながら、風はぶつかり過ぎていく。
あと少しで壁が壊れてしまう――というスレスレのところで、何とか恐ろしい風は止んだ。
「なるほど、基礎的な魔法の素養はあるようね……けれど」
セフィは再び魔力を練り、能力発動の準備に入る。
「補助メインの貴方が、どこまで一人で戦えるのかしら?」
「くっ……!」
三日前、組織のアジトで戦った際に互いの戦闘スタイルはある程度見せ合う格好になっていた。
フェイもセフィも基本は補助魔法による後方支援型。しかし、セフィにはイマジネートという隠し玉があったのだ。
彼女の固有能力は完全な攻撃型。ゆえに、自身がフェイよりも優位であると考えるのは自然なことだった。
「魔法だけで言うなら、私も得意なのは補助よ。でも――ミスティゲイン!」
セフィは自らに魔力を向上させる補助魔法を付与する。
「風のイマジネートのおかげで、こうして一人でも十分に戦えるわ」
次に放たれた凶風は、先ほどのものよりも威力が増していた。
フェイも応じて自身にオーラゲインを付与してからバリアを発動させる。
相手の攻撃力とこちらの防御力は拮抗していて、ギリギリノーダメージで切り抜けることは可能だ。
ただ、それだと何の進展もないどころか、戦闘経験や魔力値の上限という面で、セフィが有利になるのは容易に想像出来た。
「……あっ……!?」
一つの攻撃を防いだところで油断してしまっていたフェイ。
そこへ、背後から凄まじい風の暴力が殴り掛かってきた。
無防備な柔肌を、鋭い風の刃が幾度も斬り裂いていく。
全身を焼かれるような痛みに、フェイは苦痛の悲鳴を上げた。
「……う、くぅ……!」
「フフ……良い声で鳴くのね。それでこそ、痛めつけ甲斐があるというもの」
「……それは嬉しくない、誉め言葉だわ……」
フェイは弱々しく笑むと、魔力を練る。
これは補助魔法ではなく、自身の能力を発動するための魔力。
「――ふう……」
翼から羽が数枚だけ舞い落ちると、ふわりと上昇しながら仄かな光を生じさせる。
フェイの体も同じ光に包まれて、刻まれた無数の傷は跡形もなく治っていった。
「その力。私たちが見てきたイマジネートの中でも特異な回帰能力……ディオン様はそこにとても興味を抱いていらっしゃるの」
「……そう言えば、里でイレギュラーと戦った後に色々言われたわね。なるほど、あれだけは本心だったということ」
「ええ。是非とも持ち帰って研究したい、というくらいにね?」
フェイは背筋の凍るような恐怖を感じた。
もしもここで自分たちが敗北し、彼女の言うように実験材料として持ち帰られてしまったとしたら……。
ひょっとすると、この場で死ぬよりも辛い末路を迎えるかもしれない。
想像しただけでも悍ましくなり、フェイは慌ててその考えを頭の中から追いやった。
「なおさら、負けるわけにはいかないわね」
「その強がりがいつまで続くか、見ものだわ」
二人の視線が再び交錯する。
どちらの瞳にも、必ず相手を討ち倒すという強き意志が宿っていた。




