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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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153.発動する術式

 アンナ=パニエが古代文字を解読し発動させた、スレイマン=ヘリングの魔術式。

 天使ルマンが還元した魔力に、住民たちの切なる祈りが転じさせたマナも加わって、それは巨大な魔力の奔流を生み出す。

 蒼き煌めき――遺跡から煌々と上っていく水属性のマナは、空に張り付いた黒と赤のコントラストと対を成すようで、とても印象的だった。

 もちろん、この蒼い光は美しいだけのものではない。

 空高く放たれたマナは、世界を滅ぼそうとする終末ノ獣に対抗するため用意された兵器なのである。

 蒼光が、やがて分厚い黒雲を突き破る。

 光の突き抜けた部分から円状に雲が吹き飛び、赤く染まった空を露わにさせた。

 そして……人々の祈りが届いたかのように、降り落ちる。

 天より降る恵み――水属性のマナは雨となり、地上へと注ぐ。

 雨はエイヴス全土に降り注ぎ、獣の吐いた炎を鎮めていった。


「――あれが……」


 その様子を、邸宅の窓からアンドルー=クラウスも眺めていた。

 アーテミーの長として……エイヴスをまとめていく者として。街に残り、戦う術を持たぬ住民たちを保護しながら。

 せめて心だけはと、彼もまた遺跡から離れた邸宅で祈りを捧げていたのである。


「……どうやら、上手くいったようだな」


 アンドルーの隣で同じく様子を見守っていたマレー=ミディアが、安堵の表情でそう呟く。

 その言葉に、アンドルーは頷きで返した。


「ディオン=マナリー……恐ろしい男です」

「そうだな。よもや五十年をこの街の顧問として生きたというのに、全てが偽りだったとは」

「父もショックが大きいようで、倒れてしまうほどでしたから。……五十年、とても長い時間だ」


 しかし、とアンドルーは目を細める。


「あの魔術式は百年という時を越えて発動された。一度は違えた絆を、再び撚り戻して」

「……ふ。面白い比喩だな」

「お気に召さなかったでしょうか?」

「いいや、相応しい言葉だと思っておるよ」


 マレーは笑みを零し、もう一度窓の外を見やった。

 ……その窓を雨粒が一つ、また一つと叩いていく。

 アーテミーを包みこむような恵みの雨。

 過去から現在へ送られた祈りは今、確かに世界を救うために機能していた。


 地脈が隆起し、エイヴスの中央に突如として出現した巨大な火山。

 終末ノ獣の存在が活性化させる火のマナにより、一時はそこへ近づくことすら困難だった。

 しかし、多分に水のマナを含んだ雨がその力をも鎮め、熱気の障壁は見事に打ち消される。

 これにより、攻撃部隊の火山地帯への侵入がようやく可能となった。

 相反するマナの放出を敏感に感じ取ったのだろう、獣はエネルギー蓄積のため寝床としていた火口……そのマグマの中からゆっくりと姿を浮き上がらせる。

 赤き双眸が空を睨み、雲の晴れた先にある一点を見定めた。

 蒼の遺跡より放たれた光は今、天空に巨大な魔法陣を描いていた。

 その魔法陣が水を拡散させ、雨として地上へと降り注がせている。

 しかし、魔法陣の権能は決してそれだけではない。

 終末ノ獣へ手痛い一撃を浴びせるのに、もっと強力な一手はきちんと用意されていた。

 上空に留まり続ける巨大な水属性マナを警戒し、それを消滅させるべく終末ノ獣は攻撃準備に入る。

 口を大きく開き、火属性マナの凝縮された火球を凄まじい勢いで吐き出した。

 まるで小さな太陽のような火球が、魔法陣目掛けて飛んでいく。

 このまま衝突する――と思われた次の瞬間。

 魔法陣が一層眩く光り輝くと、途方もない量の水を一挙に放出したのである。

 それは、例えるなら龍を模ったような水の流れ。

 大きくうねりながら地上へ降臨しようとする、水龍のようでもあった。


『***……ッ!!』


 終末ノ獣は現れたる水の龍を前に、怒りの咆哮を轟かせる。

 自らを阻むもの、害そうとするものへ向け、最大限の敵意を向ける。

 そしてぶつかり合う火炎と水流――鳴り響く轟音と、拡散する蒸気。

 人々が立つ大地の遥か上空にて発生した爆発は、家々を震動させるほどの衝撃波を発生させた。


 ――互角? いや……。


 アンドルーは確かに見た。

 爆散する水蒸気の中に、蒼き光を。

 エイヴスの民が束ねた、力強き光を。


「……そうとも、エイヴスの歴史は――」


 白煙の中から、水龍が姿を現す。

 火球を打ち砕いた龍は、一直線に終末ノ獣へ向かっていく。


「――こんなところで終わりはしない」


 水龍が、終末ノ獣を喰らう。

 再び激しい爆発と……獣の方向が響き渡った。

 爆発の後、蒸気の中から墜落する一つの影。

 それは終末ノ獣が力を失い、地上へと落下していく姿なのだった――。





 アンドルー邸より少し北。

 出現した火山の裾野にて待機していた攻撃部隊の面々もまた、遺跡の魔術式が起こした一部始終を見届けていた。

 墜落した終末ノ獣は元いたマグマの中へと突っ込み、小規模な噴火のように赤々とした溶岩を周囲に撒き散らす。


「……あれで倒せてたりとか、する?」


 薄々は予想しつつも、問いかけたのはルカ。

 それに対しての返事は、テスタマイザーの通信越しにあった。


『もちろん、そんなわけはありません。終末ノ獣の生体エネルギーは未だハッキリと感じられます』


 答えたのはマルだ。早朝にも拘らず、彼女もまた対策チームの一員としてきちんと付いている。


『ただ、あの強力な水魔法によって、獣の力は半分以下にまで減少したようです。飛翔する力も無くなったので、急ぎ補給するためマグマへ突っ込んだというのが適当でしょう』

「そっかあ、まあそんな甘くはないよね」


 ルカは残念そうに呟き、火山の方を見やる。


「……って、溶岩飛んで来てない?」

「皆、私の後ろに――バリア!」


 向かってくる溶岩を防ぐため、フェイが魔法の防壁を展開する。

 幸い、溶岩の量はさほど多くなかったため、初級魔法でも十分に防ぎ切れた。


「助かりました、フェイさん」


 メルシオネ教官が感謝を示すと、フェイはこれくらい当然と謙遜する。


「それよりも――ここからが大事ですよね」


 フェイの言葉に全員が頷く。

 ここにいる攻撃部隊にとってはそう、今この時点からが本番だった。


「打倒、千年王国と終末ノ獣……ねえ。随分ハードな仕事なことで」

「荷が重いのは確かだけど、それでも。世界を守るのはイマジネーターのお仕事だから」


 エスカーが皮肉混じりに言うのに、イオナは真面目な回答を返す。

 なので、エスカーもそれ以上は何も口に出さなかった。


「さてと。遺跡の起動もカンペキだったし、こっちも行動開始だね」

「ええ、そうね。気を引き締めていかないと」

「何かこう、景気付けみたいなことした方がいいかな?」

「だったら、我らがリーダーに頼むのがいいんじゃない?」


 メンバー各々、そんなコメントを述べてから、ゆっくりと彼の方に視線を向ける。

 チームをまとめるリーダー役の少年の方を。


「……あー、分かった分かった。やればいいんだろ」


 諦めるようにそう呟くと、リーダーは火山を仰ぎ見ながら号令をかける。


「攻撃部隊、これより行動開始だ。この世界を護り抜くために、必ず勝って帰るぞ!」

「「おう!」」


 そして、ダイン=アグナスら対策チームの面々は、決戦の舞台へ足を踏み入れるのだった。

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