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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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149.束の間の休息


 用意された夕食を残さず平らげ、交代で風呂に入らせてもらったあと、オレたちは今後の動きを再確認した。

 行動開始は明朝七時ちょうど。それまでにコーネリア校長の探してきた助っ人が拠点にやって来るのだが、これはメルシオネ教官が迎えに行ってくれるとのこと。

 助っ人をアンドルー邸に迎えたら、ここから三手に分かれる。

 まずは作戦の要、終末ノ獣および千年王国の奴らを倒す攻撃部隊。これはオレたち……つまりダインチームとメルシオネ教官が担う。

 第二に、アーテミーに留まって眷属ほか脅威を迎撃、街に残る住民を守る防衛部隊。こちらはバランチームが引き受けてくれた……渋々。

 そして最後は、蒼の遺跡で魔術式を起動し、終末ノ獣を弱らせる起動部隊。これは念のため、水魔法の素養がある者を付けたいということでスキアさんが担当してくれることになった。彼女が助っ人と住民たちを引き連れ蒼の遺跡へ向かってくれるわけだ。

 以上が三部隊の詳細となる。どれが欠けてもいけない、万全だとしても上手く運ぶかなど分からない、まさにギリギリの作戦。

 不安はもちろんあるけれど、オレたちがやってやるしかないのだ。

 このエイヴスを終わりから救い出すためには。


「……ふう」


 時計の針が天辺を過ぎた頃。

 オレはアンドルー邸の庭から、赤黒い夜空を見上げていた。

 まだ眷属を倒し切れたとはいえないため、明朝の作戦開始まで見張りを立てることになり、オレのチームとバランチームが交代で警備をすることになっていた。

 オレたちは前半、十一時から翌三時までの見張り番だ。


「――悪夢の中の光景、か」


 空の色を見つめていると、つくづく感じる。

 これはオレが長年見続けている悪夢にそっくりだと。

 まるであれが予知夢のようにも思えるのだが、別にオレはイオナのような預言者でも何でもない。

 ……少なくともそうだとオレ自身は認識している。


「そっちはどんなもんですか」


 背後から声を掛けられた。

 振り返らずとも分かる。これはイオナの声だ。


「今のところは特に。ヤな空の色してるなって考えてただけさ」

「ホントにねえ……世界の終わりって感じがして私も怖くなるよ」


 彼女はごく自然に、オレの隣にやって来て話し始める。

 オレの方も、それを当たり前のように受け入れていた。以前ならこうはいかなかった気がする。


「……悪い、イオナ。オレはディオンの奴がイレギュラーの死体を街へ運んで来たのを見てたのに、それを伝えられてなかった」

「はは……気にしたって仕方ないよ。それがどんな結果をもたらすのか、あの時点で分かる人はいなかったもん」

「まあ、な。唯一事前に知っていたアンドルーさんの父親……ドーンズさんも、贔屓目に見てたとはいえ好意的に捉えてたし……」


 ドーンズさんは供物に関して、捧げものとして申し分ないものと評していた。

 これは勝手な想像だが、ヒトとエルフが大きな困難を乗り越えた証になるとか言われたんじゃないだろうか。

 とりあえず耳障りの良いことを言っておけば、あの人はディオンの考えを否定しなさそうだなとは思う。


「そういや、ドーンズさんはどうなったのやら……手痛い裏切りにあったわけだけど」

「うん。ちらっと使用人さんが話してるのを聞いたけど、かなりショックを受けてるみたい。裏切られたのを完全に信じることも出来なくて、何か訳があるんじゃないかってうわ言みたいに呟いたりもしてるみたいで」

「……そっか。長年頼りにしてきた顧問の裏切りだし、傷が深いのは仕方ないよな……」


 自身が政を担ってきたときから、息子に跡を継がせてからも信頼し続け、五十年の歳月を共にしてきたのだ。

 その長い月日の全てが、この裏切りへの布石でしか無かったという事実はさぞかし辛いだろう。


「ところで、イオナはルマンちゃんが天使かもしれないって気付いてたのか?」

「流石の私もそこまで鋭くはないよ。セラフィス教会も、天使が何のために在るのかまではきちんと掴めていなかったし……今回のことで情報が更新されて、またお偉方で会議するんじゃないかな」

「あんまり内情が分からん組織だけど、忙しそうではあるよなあ」

「学園が実働部隊なら、教会はブレーンというか。女神イオナの教えを広めつつ、世界全体の危機に目を光らせてる感じ」

「世界の秘密ってヤツを一番握ってそうなトコだよな」

「そりゃあ、女神の預言を管理してるトコですからね」


 一般には当たり障りのない女神の言葉を広め、その裏では人知れず世界の危機に対応している。

 人々の心の安寧を維持するという意味では、それが上手いやり方なんだろう。


「ま、ルマンちゃんがあからさまに終末のことを仄めかしてたから、只者じゃないと思ったのは確か。結果的にアタリだったけど、そりゃ天使だもの、追っかけても捕まりっこないよねえ……」

「ひょっとしたら、終末ノ獣よりも強いかもしれねえもんな……」


 味方であることを期待するなと忠告するために誇示したあの力。

 一瞬だけだったが、それでも十分に恐ろしさは実感出来た。

 全員が束になったところで彼女にはきっと敵わない……と。


「あと驚いたのは、あの子が夜明けって言葉を使ったことかな。……やっぱり、預言に関係してるんだと思う。イレギュラーの増加と異世界を襲う終末は」

「ああ、オレも思った。だからイオナは今、正しい道を歩いてるんだろう」

「……そうだね。だといいな」


 イオナは力なく微笑む。

 これが正しい道……だとしたら、進むべき道はあまりにも過酷だ。


「……なあ、イオナ」

「うん?」

「何度か話したことあるだろ、オレが昔からずっと悪夢に悩まされてきたってこと」

「言ってたね。繰り返し同じ悪夢を見る……それがイマジネートにも反映されてるんだっけ」

「その悪夢と、今の終末の光景がよく似ててさ。……女神イオナの預言じゃないけど、何だかこれを予知してたみたいに思えてきちまって」

「終末の予知夢……かあ」


 イオナは口元に指を当て、考える仕草をする。


「それは聞いたことが無いけど、ダインにも何か特殊な力があるのかも? ふふ、だったら私たち……お揃いだね?」

「嬉しくねえお揃いなんだが……。せめてこう、明るい未来が予見されてたりしないもんかねえ」

「ね。それならもっと希望を持てるんだけど」


 終末の時――降り注ぐ星に荒れ狂う海、鳴動する大地。

 それらのめくるめく光景の後……天から射し込む一筋の光でもあったなら、まさに希望の象徴だったのに。


「オレの悪夢の謎は深まるばかりだけど……それもこうして戦っていくうち、分かるかもしれないな」

「うん。この道を一緒に進んでいけばきっと、分かるよ」


 それは、どこか断定的な台詞にも思えた。

 もちろん、ただポジティブな返事をくれただけなんだろうけれど。

 考え過ぎは良くないと思いつつ、色々と探りたくはなる。

 イオナは結局、世界の秘密にどこまで近付いているのか……と。


「イオナ――」

「あーっ、お喋りしてる!」


 そのとき、オレたちを咎める声が飛んで来た。

 振り返ると、ルカが膨れっ面でオレたちを指差している。


「そこ、サボらない。まったく、隙あらばダインのところに来るんだから……」

「あはは、ゴメンゴメン。でもルカちゃんはどうしてこっちに?」

「うっ……じゅ、巡回だよもちろん」


 イオナの問いに、何故か言葉を詰まらせたルカ。

 彼女もちょっとはサボりたくなったか? 今のところは眷属の姿も無く、平和そのものだしな。


「とにかく、まだ三時間近くあるし、気は抜かないよーに」

「分かったよ。ちなみにエスカーは?」

「さあ? あいつにはサボるなって言っても意味なさそうだからさ」

「まあ……否定は出来ないよねえ」


 イオナはそう言って苦笑する。オレもあいつがサボってないとは断言出来そうもない。

 どこかに寝転がって、一応周囲の警戒はしてくれている気はするけれど。


「フェイはあっちでしっかり警備してくれてるから、見習わないと」

「フェイちゃんが頑張ってるなら、私も手薄なところを見に行くかあ……邪魔してごめんね、ダイン」

「いや、おかげで気が休まったよ。サンキュ、イオナ」


 ルカが怒りだす前に、イオナは小走りで去っていく。

 それを見送ってから、ルカは溜め息を吐いてオレに向き直った。


「ええと……じゃあ、引き続き頑張ろっか」

「ああ。そっちも気を付けてな、ルカ」

「もちろん!」


 オレが励ましの声を掛けると、ルカは途端に嬉しそうな顔をして駆けていく。

 ……労い一つでそこまで嬉しそうにされると、ちょっと戸惑う。こちらも嬉しくはなるけども。


「……さて、と」


 ルカが言っていたように、見張りの交代まではあと三時間。

 長い夜にはなるけれど、もう少し頑張るとしますか。


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