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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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147.ただ、審判の時まで

「ううん……ルマンちゃんのおかげで、とりあえず取るべき方法は決まったということ、かな?」


 手放しに喜んでいいものか分かりかね、エレンちゃんは曖昧に呟く。


「コーネリア校長が仰っていたように、我々では他に方法を見出せませんからね。彼女の示す道を進むしかないのでしょう」

「おかげ、というのはどうかと思うがな。結局のところコイツが終末ノ獣を呼んでいるという事実は変わらないんだぞ」


 バランは最後までルマンちゃんに対して敵意を剥き出しにしていた。

 エレンちゃんやエステルちゃんなどは、こんな小さな女の子にきつく当たらなくても、とバランを宥めようとしている。

 ……ただ、オレもルマンちゃんに感謝するだけなのは少し違うと思っていた。


「バランの言うことも一理ある。ルマンちゃんはオレたちに道を示したとは言うが、結局のところ試練自体はこの子がもたらしたようなものだ」

「……ダイン」

「ディオンがああいう演出で終末ノ獣を産み出すことを、この子は了承していたはず。結果として獣は街を蹂躙し、多くの死傷者を出すことになった……テルさんが今も目を覚まさないのだって、そのせいだ」

「……それは、そうだよね。眷属に襲われて、テルさんは……」


 オレの言葉に、ルカは拳をぐっと握り込む。

 辛いことを思い出させてしまったが、これだけは言っておきたかったのだ。


「試練として終末をもたらすだけなら、もっといいやり方があったんじゃねえか……オレはそう思う。千年王国は、この世界を完全に滅ぼすつもりなんだ。そんな奴らに協力する必要までは無かったんじゃねえのかって……」


 終末ノ獣という災厄を乗り越えるのが人類への試練であり、その舞台を用意するのが天使の仕事というなら。

 人が万全で戦えるような舞台を整えてほしかったと、オレは思う。

 ……でも。


「……はあ」


 少しでも分かってくれればと投じたオレの言葉に、ルマンちゃんは溜め息を吐く。

 そして……見せたことのない冷たい目を、こちらへ向けた。


「あなたは勘違いしてる。もう一度言うけれど、わたしは敵でもなければ味方でもない。ただ大いなる審判の時まで、人に道を進ませるだけに動く機構」


 子どものような外見をしているにも拘らず。

 彼女は幼子に言い聞かせるように、オレへ向かって語り掛ける。


「そこに、慈悲や手心なんてものは存在しない。ただ忠実に、定められた時に、世界へ終末を提示するだけなの――だから」


 直後……総毛立つような感覚がオレたちを襲った。

 全身がズンと重くなり、指一本すら動かせず。

 呼吸さえも苦しくて、ジワリと汗が滲んでくるのが分かる。

 これは――彼女が発した魔力によるプレッシャー、なのか……!?


「わたしに何かを求めるなんて無意味……分かった?」


 ――恐ろしい子だ。


 ここに至って、初めて理解したのかもしれない。

 天使は本当に、人とは異なる上位の存在なのだと。

 ほんの一瞬だけ放たれた凄まじい魔力の奔流。

 ともすればそれは、あの終末ノ獣すら易々と倒せてしまいそうなほどの圧を持っていた――。


「……分かったようで何より。まあ、ごめんね。線引きはきちんとしておきたい性格なんだ」


 オレたちが立ち竦んでいることを見てとり、彼女はすぐに態度を軟化させる。

 ……けれども、力を発揮した彼女があれだけ恐ろしいことを実感してしまうと、強張った体は中々元に戻らない。


「バケモノが……」


 悔しげに、ルマンちゃんへ向けてバランがそう吐き捨てる。

 ……その言葉を、今度はエレンちゃんたちも否定することはなかった。


「……じゃあ、わたしは待ってるから。準備が出来たら蒼の遺跡に来て。……またね」


 最後にそう言い残すと、ルマンちゃんの体が淡い光に包まれる。

 そして次の瞬間、霧散するようにその姿は消えてしまったのだった。


「……消えちゃった……」


 さっきまでルマンちゃんがいた場所を見つめながら、エレンちゃんが呟く。

 それから何秒かして、みな緊張の糸が切れたかのように体を動かし始めるのだった。


「天使――ですか」


 受け入れ難い真実を、それでも何とか受け入れなければとメルシオネ教官は苦悩しているようだ。

 駄目押しにあのような力を見せつけられたら、もう天使なんて冗談だろうとは言えない。


「イレギュラーだけでも厄介だったのに、千年王国やら終末ノ獣やら、おまけに天使まで現れたと来たもんだ……頭がパンクしそうになる」

「そうね……どんどん予想外の方向へ事態が進んでて、私たちがここにいるべきなのかも分からなくなってきたわ」


 オレが本音を吐露するのに、フェイもそう同調してくれる。

 他の面々も、本来はもっとベテランの、そして多くの者が関与して動くべきなのでは、というのは痛感しているようだった。


『お前たちだけに対処させるのは申し訳ないと思っている。一応、各方面に働きかけてはいるんだがな。教会はあんな具合だし、請負人ギルドは学園からの依頼に対して消極的だ。星定議会も動きは鈍いし、戦える人員がそういるわけでもない。急ぎ対応出来るのは、どうしても現地にいるお前たちになっちまう』

「こういうとき、違う組織同士で連携がちゃんと取れればいいんだろうけどねえ。上手くいかないもんだ」


 エスカーが皮肉るように言う。

 まあ実際、分野は異なっていても異世界の危機だ。連携して素早く方策を検討したりはしてほしいものだが。

 その辺り、学園と他の組織との隔たりを感じたりもしてしまうな。


「……で、これからどうする? ルマンちゃんの指示通りに動くことになるのかな」

「ええ、そうなるでしょう。そして彼女がの語った通り、蒼の遺跡が武器として通用したなら……その後は総力戦です」


 ルカの問いに、メルシオネ教官はそう答える。


「しかし、古代文字のことがありますから、一旦は待機ですね。校長が助っ人に声をかけてくれている間に、アンドルーさんへ報告を入れておきましょう」

『そうしてくれ。俺は今から連絡をとってみるさ……吉報を待っててくれよ』


 コーネリア校長との通信はそこで切れた。助っ人が誰かを聞きそびれたが、知らない人かもしれないし、気にしても仕方ないか。

 

「では、アンドルー邸へ戻りましょうか……やれやれ、今の話を説明するのは骨が折れそうだ」


 メルシオネ教官は溜め息を吐き、項垂れる。

 苦労人の背中を感じながら、オレたちは教官の後ろについて拠点を発つのだった。

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