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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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145.用意されていた方法


 蒼の遺跡……昨日調査に赴いたので、あの場所のことはハッキリと覚えている。

 周囲のマナが水属性に染まり、その名の通り仄青く光る古びた遺跡。

 今でこそ街の北部に位置する赫の祭壇で豊饒祈願の儀式が行われているものの、かつてはそこが儀式を行う場所だったという。

 そう、ヒトもエルフも分け隔てなく……。


「蒼の遺跡……そこが何やて? 今日のために用意された場所……?」

「そう。燃え盛る炎の災禍を退けるため、遥か昔に造られ、長い時間をかけて育まれてきたもの」

「確かに、あそこはまだエルフ族がヒトと袂を分かつより前に建てられたものとは聞いたが……」


 遺跡は、豊饒を願い祈りを捧げるためにあったもののはずだ。

 その文化が今日まで連綿と受け継がれ、祭となっているのだから。

 いつか世界が炎に包まれるかもしれないと予想し、その対策のために遺跡を建てたというのは突拍子が無さ過ぎる。

 そんなことが分かるなら、それこそ本当に預言者みたいなものじゃないか……。


「私は天使としてこの世界に生じた。だから、この世界の終末について理解しているのは当然」

「いや、ルマンちゃんが知っていたとしてもさ――」


 ――待て。


 もしかして、そういうことなのか?

 メルシオネ教官が推測したように、彼女が見た目通りの年齢ではないとして。

 それどころか、途方もなく長い歳月をその姿のまま生きてきたとして……。

 彼女が、蒼の遺跡の建造に関わっていたとしたら。

 他ならぬ彼女自身が、遺跡の建造された目的だったとしたら――。


「きみは――この世界の人にとって、神様のようなものだったのか」

「……当たり」

「え? ど、どういうことなの、ダイン?」


 目をぱちくりさせるルカ。オレもまだ整理はついていないが、なるべく分かりやすいように説明する。


「オレたち、ルマンちゃんの名前を他で聞いたことがあるだろ? テルさんが言ってたじゃねえか……豊饒の神様はラマンかルマンって名前だって。それを素直に受け取ると、人々はこの子……ルマンちゃんに対して祈りを捧げていたってことになる」

「あ、そうか……儀式の前にそんな話したよね。あの時は神様にあやかって付けた名前かと思ってたけど、本物だったってことかあ……」

「ああ。そんで、ルマンちゃん自身が当時の人々の前に姿を現して、こういう風に祈りなさいと指示したとすれば……蒼の遺跡が、なるべくしてああなったんだと言えるわけさ」


 そこで、メルシオネ教官がなるほどと呟く。


「マナの変質……人々の祈りが周囲のマナに作用して、遺跡の周囲が水属性で満たされる。原理については予想していましたが、実のところそれは意図的に行われていたんですね」

「ん……話が早くて助かるな。その昔、神様扱いされていたわたしは、祈りによって豊饒をもたらすことを人々に伝え、蒼の遺跡を造らせた。豊かに作物が育つよう、強くイメージしなさいって。恵みの雨が世界を満たすのを想像しなさいって……」


 エイヴスに生きる人々にとっては純粋に豊饒祈願のため。

 そして、ルマンちゃんにとっては水属性のマナを蓄えるため。

 双方の思惑の下に蒼の遺跡は造られ、祈りの文化は始まったのだ。

 ヒトとエルフの交流に、亀裂が入るその日までは。


「終末ノ獣が火属性だと分かっていたから、対抗するためには強大な水属性のマナを蓄えないといけなかった……そのために始めたことだったんですね?」

「俺には難しくて分からん! とにかくその遺跡が溜め込んだ水属性のマナが、戦う手段になるってことなんだな!」


 エレンちゃんや他のみんなは何となく構図が見えてきたようだったが、テッドくんだけは考えるのを止めていた。

 まあ、平たく言ってしまえば彼の言葉が最も知りたい部分なわけだけれど。


「すまない……私も水魔法を得意とする人間だ、火属性の相手には水属性でという理屈は当然分かる。実際、街に蠢く眷属たちには良く効いていたしな」


 しかし、とスキアさんは続ける。


「ルマンちゃんが説明しているのは、あくまでリソースの部分だ。その蒼の遺跡とやらが蓄えている水属性のマナを、どういう風に使って終末ノ獣を攻撃するというんだ?」


 オレはあまり魔法が得手ではないけれど、それでもスキアさんの言わんとしていることは分かる。

 蒼の遺跡に膨大な水属性のマナがどんと置かれていたとして、それを獣にぶつけるためには何らかの手段が必要なのだ。

 例えばだが、水魔法の使い手を百人用意してどんどん放っていくとか……現実味はないが。


「大丈夫。その魔術式もちゃんと準備してくれてるから」

「……魔術式、だって?」


 その言葉には、流石のスキアさんも絶句した。

 というか、この場にいる全員が驚いたか、若しくは理解出来なかった。

 魔術式とは何だ? 言葉の感じから推測すると、魔法を行使するための図式か何かのようだが……。


「……そんな馬鹿な。魔術式とは魔法の基本的な構成から抜け出し、新たな魔法を創り出すものです。そして、それが出来たとされるのは歴史上、魔術卿と呼ばれたスレイマン=ヘリングただ一人のはず……」


 メルシオネ教官がオレたちにも分かるよう、説明を交えて話してくれる。

 ……要するに、魔術式とは魔法の設計書みたいなものか。

 キャスパー教官の講義でも教わったが、独自に魔法を創り出せたのはスレイマン=ヘリングという魔法使いのみ。

 ただ、この世には無数のワールドスクリプトが存在するのだ。

 ロウディシアが認識していない、凄腕の魔術師が他にいたという可能性はある。


「やっぱりあのおじさん、今も偉い人として伝わってるんだね」

「……え?」

「合ってるよ。魔術式を準備してくれたのは、()()()()()()()()()()


 ……何だって?

 あっけらかんと衝撃の発言をするものだから、二の句が継げなくなってしまう。

 歴史の講義で出てくるような人物、その本人がこのエイヴスにいて、ルマンちゃんとあの遺跡の仕組みを築き上げただって……?


「……冗談だろ? スレイマン=ヘリングはロウディシアの歴史に出てくる人物なんだぞ」


 信じられるはずがないと、バランが吐き捨てたのだが、


『……いや、そうとも言い切れん』


 そう否定の言葉を述べたのはコーネリア校長だった。


「どういうことだ……?」

『お前たちはまだ習っていないことだが、イマジネーターという存在がまだいなかった時代にもワールドスクリプトへの転移を自力で行える者たちが何人かいたのさ』

「そ、そんな人が……?」


 エレンちゃんを始め、大半が校長の話に驚く。

 エスカーなんかはポーカーフェイスなので内心を伺い知れないが、少なくともスキアさんにはその知識があったらしい。

 上級生は講義の中で聞いている……という感じか。


『そういう人物は『放浪者』と定義されててな、みな例外なく並外れた能力を有していた。その力ゆえ、異世界に干渉出来たと言われてる』

「じゃあ、スレイマンって人はその昔エイヴスにやって来ていて……いずれ訪れる終末に備えてくれてたってこと?」

「終末についてはわたしが教えた。彼の能力が役に立つと判断したの。それはやっぱり間違いじゃなかった」


 ルマンちゃんの方から、スレイマンにアプローチをかけたのか。

 そして稀代の魔法使いは終末という現象に危機感を抱き、或いは興味を持ち、協力してくれることになった……。


「スレイマン=ヘリングの魔術式……そんなものが遺跡に仕込まれているのなら、蓄えたマナを獣にぶつけるという手法も不可能ではないかもしれないな……」


 スキアさんも、その情報でルマンちゃんの話を肯定的に捉え始めた。

 資源と、それを用いる手段の両方が揃っているのなら、確かに理論上は出来ないこともなさそうだ。

 上手くいく確率については未知数だとしても。


「……でもさ」


 そこで、ルカが疑問を投げかける。


「終末ノ獣に対して、そんな風に明確な対抗策が用意されてたんだったら、獣を目覚めさせようとしてた千年王国が黙ってないんじゃないの?」

「あ……それもそうだよな」

「ディオン殿は五十年前にあの遺跡を放棄し、新たな祭壇を街に造ったそうだが……当時から蒼の遺跡が障害になると分かっていたら、そのときにでも破壊してそうなものでござる」

「そうね……壊そうとしても壊せなかったのかしら」


 入念に準備された建造物だとすれば、破壊に対する防御策が施されていてもおかしくはない。

 もしくは蓄えられたマナそのものが防壁のように機能することもあり得るだろう。

 壊せなかったからこそ、ディオンは蒼の遺跡を放置して街の中へ新たな祭壇を造るしかなかった、とか。


「ううん、遺跡自体はあの人が壊そうと思えば壊せたはずだよ。あの人は、それをしなかっただけ」

「しなかった……?」


 納得しかけていたところを、ルマンちゃんはすぐに否定してくる。

 じゃあ、ディオンはあえて遺跡を残していたってことなのか……?


「どうしてでしょう。終末ノ獣への策があるなら、彼は真っ先にそれを潰しておきそうなものですが」

「それがあの人との()()だったから」

「協定……だって?」


 また予想外の言葉が飛び出し、驚かされるオレたち。

 その気持ちをよそに、ルマンちゃんは変わらず淡々と、こう告げるのだった。


「終末ノ獣をエイヴスに産み落とす……そこに至るまでの計画について、私とディオンさんは協定を結んでいたの」


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