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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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143.教会からの情報

 アンドルー邸を出た教官は、一度拠点へ戻ることをオレたちに告げる。


「テスタマイザーに連絡が?」


 エスカーが確認すると、


「実は会議中、テスタマイザーの通信を入れっぱなしにしていました。学園とも内容を共有したかったので。そしてあのタイミングで、校長から我々にだけ伝えたいことがあるとメッセージを貰ったのです」

「俺たちにだけとなると、異世界の人たちには伝えられないような内容のことなんでしょうね」


 そういうことなのでしょう、とメルシオネ教官は同意する。


「アンドルーさんの仰っていたように、今は緊急事態です。何か情報があるならすぐにでも確認しなければ」

「ええ、そうですね……」


 コーネリア校長からのメッセージ、か。

 この状況を打開する起死回生の手段は果たして存在し得るのかどうか。

 焼けた街を横目に階段を下り、オレたちは拠点に到着する。

 景観には注意しつつも頑丈な造りになっているので、拠点は何の被害も受けていないようだ。

 そのことにだけは少し安堵し、オレは教官に続き建物内に入った。


「さて――」


 ゲートのある部屋まで来たところで、メルシオネ教官はテスタマイザーを取り出す。

 通信を開始すると、ほどなくしてコーネリア校長の声がこちらへ届いた。


『大事な話の途中、すまなかったな。すぐこっちに戻って来てくれて助かるぜ』

「いえ、あの場で悩んでいたところで進展はありませんでしたから。しかし校長、伝えたいこととは一体……?」


 メルシオネ教官の問いかけに、コーネリア校長はそれがな、と前置きをして、


『あの怪物――終末ノ獣に関して、セラフィス教会から話があるんだと。なんで俺はただの取り次ぎさ』

「……なるほど、教会ですか」


 セラフィス教会。

 女神イオナの預言の件だってそうだが、イマジネーターになってからというもの、教会は秘匿された情報を数多く有しているような気がしてならない。

 イレギュラーなんてつい先日までオレたちには未知の存在だったのに……そして今も謎めいたものであることには変わらないのに。

 教会は、それに関しての情報をオレたちに提供しようとしている。

 この状況ではもちろんありがたいのだが、教会って本当のところどういう組織なのだろう? そんな疑問が浮かんできてしまう。

 ただ女神イオナを信仰し、その教えを布教するだけの組織ではなさそうだ……。


『つーわけで、教会の司祭と通信を繋がせてもらうぞ。ちょっと待ってくれ……』


 コーネリア校長がテスタマイザーを操作する音が微かに聞こえ、少ししてから隣に映像がもう一つ追加される。


『……あ、あー。聞こえますか、アトモス学園の皆さん?』


 表示されたのは黒髪をした青年男性の姿。歳はオレたちよりやや上かというくらい。

 彼がセラフィス教会の司祭か。生真面目そうな好青年という印象を受けた。


「あれっ? あ、アディさん?」


 驚きの声を上げたのはエレンちゃんだ。……あれ、そう言えばアディってついさっき出てきた名前のような。


『……エレンちゃん? そうか、巻き込まれたチームというのは君が所属するところだったんだね』


 やはり二人は知り合いらしい。予想はしていたが、アディさんというのは教会の司祭だったわけだ。


「ええと、アディさんは私の先輩なんです。私はまだ助祭なんですけど、アディさんは一つ上の司祭で、色々教えてくださって」

『君がイマジネーターになると聞いたときは驚いたよ……いや、そんな話は後だね。紹介があった通り、僕はアディ=メイルと言う者です。今そちら……エイヴスに出現している終末ノ獣について、教会より伝えられる限りの情報をお話させてもらいますね』


 言葉遣いを正し、アディさんは説明を始める。


『終末ノ獣は特定条件下において、イレギュラーの変質したマナが一定量世界に還元されてしまった場合に発生するものと推測されてきました。今回の出現によって、その推測が正しかったことが証明された形です』


 教会でもこれまで確証は無かったが、ディオンが明確にその手順を踏んで終末ノ獣を呼び出したため、裏付けが出来たということか。

 ……情報の代価があまりに高すぎる。


『終末ノ獣はその膨大なエネルギーによって周囲の環境を変化させ、世界を生物が活動出来ないレベルに至らしめてしまう。そして世界は滅び、いわゆる『終局』判定を受けるような終わりを迎えてしまうのですね』

「確かに、空も紅くなった上に分厚い雲がバーっと覆っちまったし、火山がドカンと出てきて島ごと燃えちまったし……メチャクチャなことになってるよな」


 テッドくんが擬音多めの感想を述べる。

 ある意味ストレートに情報は入ってくるけれど。


『一連の事象はつまるところ終末ノ獣により引き起こされる。なので獣が発生してしまった以上、解決するとすればそれを倒す……或いは封じるほかありません。後者の場合は問題を先送りしているだけではありますが』

「問題の根を完全に断つには、やはりあの獣を倒すしかないと」

『……そうなります』


 アディさんがそう断言するのに、メルシオネ教官は憂鬱そうに息を吐く。

 流石の教官も、あれほどの敵に立ち向かうのは無謀だと理解している。

 その上で、倒すしかないと言われてしまうと気が重くなるのは当然だ。


『一つ、皆さんにとってプラスになる情報はあります。出現したばかりの終末ノ獣はまだ十分なマナを有しておらず、全力で活動可能になるためにはかなりの期間、マナを蓄えねばならないようなのです』

「かなりの期間というと、具体的には」

『恐らく、一日や二日ではなく、もっと長いスパン……一ヶ月ほどでしょうか。しかし、そうしてマナを満たしてしまうと、もはや成す術もない状態に陥ってしまうわけですが』


 一ヶ月という猶予は長いようにも感じられる。

 けれど、一ヶ月で世界が滅びる……その恐ろしい不可逆性を考えると、決して悠長になど出来ない期間だった。

 ……それに。


『終末ノ獣は出現時、大陸全土を燃やすほどの炎を吐き、そして自身の眷属とも呼べる生命体を産み落としたと聞きました。それで恐らく、獣のマナは一度空っぽになっているはずです。ここから少しずつマナを蓄え、より強大になっていくと考えると……今しか討伐のチャンスは無い、そう言ってしまってもいいでしょう』

「……結局、早急に討伐しなければならないわけですね」


 マナを蓄えるほど終末ノ獣が力を取り戻すというなら、一番討伐出来る可能性が高いのは今この時なのだろう。

 だが、その可能性すら奇跡に近いものじゃないかと思えてしまう。


『こちらからお伝え出来る情報はこれくらいです。大してお役に立てず、申し訳ありませんが……』

「え――ホントにそれだけなの……?」


 心底驚いたようにルカが呟く。

 失礼に聞こえる台詞なものの、正直なところオレたち全員が思ったことでもあった。

 教会のもたらした情報は状況説明に終始していて、解決の糸口になりそうなものがない。


『……その、僕も上から伝えられていることがこれだけでして。どうも他の役職の方々は忙しくされているらしく、僕に説明役が回ってきた次第なんです』

「じゃあ、アディさんも初めて聞いたことばっかりなんだ?」

『そうなんだ、エレンちゃん。本当に参ったよ……』


 嫌な仕事を押し付けられた、という風にアディさんはがっくりと項垂れる。

 ……忙しいとはいえ、エイヴスがこの窮状にも拘らず、上の人間が出てこないのはまずくないか?

 どちらかと言うと、この期に及んでもここまでしか情報は出さないのだとオレたちに示しているようにも感じられる……考え過ぎだろうか。


「しかし……せめて何かしら方策を示してほしいところ。確かなことでなくとも、こちらの利となり得る情報はないのでござるか?」

『……そうですね。終末ノ獣は火を操っていること、産み落とされた眷属も同様で、かつ水魔法が効いたことから、終末ノ獣自体にも水属性の攻撃は有用と思われます……分かり切ったことかもしれませんが』

「うむ……」


 そりゃそうだろう、としか言えない回答だ。

 問題は、眷属と本体じゃ強さが違い過ぎること。それこそ稀代の魔法使い――スレイマン=ヘリングだったか? そのクラスの人物でもなければ通用しない気がする。


『……内緒ですが、僕もこれだけの情報で戦えというのは酷だと感じてます。大司教クラスか、或いは枢機卿か……どなたの判断なのかは分かりかねますが、勿体ぶらないでいいじゃないか、と』


 それがアディさんの本心なようだ。

 自分が板挟みにあっている以上、そう思うのも仕方ないことだよな。


「アディさんも苦労しとるんやなあ……」

『エステルさんでしたか、苦労しているのは圧倒的にそちらでしょうから、僕のことは気にしないでください。お伝え出来ることはほとんどありませんでしたけれど……皆さんの戦いが勝利で終わるよう、祈っています』

「……ありがとうございます、アディさん」


 もう聞き出せることはないと諦め、メルシオネ教官はお礼を伝える。

 アディさんは申し訳なさそうにペコリとお辞儀してから、通信を切断した。


『あー……すまねえな。セラフィス教会が直接連絡してくるなら、もう少しマシな話をしてくれると思ってたんだが』

「いえ、校長が謝ることでは。……しかし、万事休すですね」


 腕を組み、眉間に皺を寄せながら零すメルシオネ教官。

 コーネリア校長も乱暴に頭を掻きながら、どうしたもんかなと呟く。

 ……誰にも方策が打ち出せず光明の見えない、まさに八方塞がりの状況。

 先送りにすることも許されない中、ここから逆転の手段がもたらされることなんて、あるのだろうか――。


「――ここに、いたんだね」


 ふいに、声が聞こえた。

 つい最近耳にしたはずの、少女の声。


「え……」


 驚き、振り返るオレ達の前に。

 あの不思議な少女――自らをルマンと名乗った少女が、妖しい笑みを湛えながら立っていた。

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