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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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141.焼けた街、戦いの傷

 以降の襲撃もなく、オレたちは無事アンドルー邸へ辿り着いた。

 邸宅へ入ると、使用人の男性が待機していて、オレたちを迎えてくれた。ルカとエスカーがある程度事情を伝えていたのだろう。

 聞けば、この邸宅も既にキャパオーバーとのこと。街で一番頑丈そうな建物だし、避難民が流れて来やすいのは確かだ。

 ここからは街の中で被害を受けていない、或いは少ない建物をピックアップし、避難所として利用させてもらおうということになったらしい。

 アンドルーさんは被害状況をまとめ、どこへ何人の住民を避難させられるか決定する作業を必死にやっているところだという。

 運び込まれたテルさんと一度は顔を合わせ、涙すら流したそうだが、街の長として自分のやるべきことを優先した。……強い人だ。


「お連れしてくださった方々についても、避難場所が決まり次第移動してもらうようにします。ここまでありがとうございました」


 使用人は深々と頭を下げてくれる。

 しかし、それを素直には受け取れない自分がいた。

 もっと被害を少なくすることは出来なかったのか。

 或いは、千年王国の計画自体を未然に阻止することは……。

 そんなの分かりっこなかったと開き直っても、決して咎められやしないだろうけど。


「テルさんのいる部屋へ行っても大丈夫ですか?」

「はい、もちろん。意識はまだ戻りませんが……」


 あれだけの大怪我だったのだ。テルさんが確実に目を覚ます保証も無い。

 それでも、見舞いだけはしておきたかった。

 どうか回復しますようにと、願いたかった。

 使用人に案内され、オレたちはテルさんが運ばれた部屋に向かう。

 ノックをして中に入ると、まずはルカとエスカーに目が合った。


「あ……お疲れ様、みんな」

「お疲れ。……怪我もないようで何より」


 これでオレたちまで負傷していたら、ルカに余計な心配をかけるものな。

 無傷で帰ってこれたのは良かった。


「容態は?」

「……うん。お医者さんにも診てもらったけど、予断を許さない状況だって」

「……そうか」


 ベッドの中で、か細い呼吸を繰り返すテルさん。

 その顔にまで痛々しい傷が幾つもあり……見ているのが辛くなる。


「テルという方は、その……仲良くしていたのか?」


 スキアさんが遠慮がちに訊ねてくる。

 それに答えたのはルカで、


「はい……任務のためこの街に来てから、エルフの里への道案内をしてもらったり、一緒に祭壇の掃除をしたり……ボクたちと気さくに接してくれてたんです。なのに」


 護れなかった、と彼女は零す。

 ……ルカもまた、後悔の只中にいる。


「今は祈ろう。テルさんが目を覚ましてくれるのを」

「……そう、だね」


 オレが諭すのに、ルカは頬に伝う涙を拭いながら答えた。


「――テルはここだな!」


 そのとき、部屋の扉が勢いよく開かれ、一人の男が入ってきた。

 藍色の髪をした、中年の男性……この人はもしかして。


「あなた、もう少し静かに……」


 少し遅れて、男性と同じ年くらいの女性も入ってきた。

 こちらも黒みの強い青の髪をしている。今の呼びかけからすると、男性の奥さんなのだろう。


「む……きみたちは」

「ええと、ロウディシアから来た者です。テルさんによくしてもらっていたので、お見舞いを」

「ロウディシアの少年らが息子を運んできたと使用人から聞いたが……きみたちのことだったのか」

「……そうです。出現した魔物の討伐に街を回っていたんですが、そこでテルさんを見つけて」


 オレが状況を説明すると、男性……テルさんの父親は溜め息を吐いてから、


「……この、馬鹿息子が」


 吐き捨てるようにそう呟いたのだった。


「なんだって――」


 突然の暴言に驚き、怒りのまま掴みかかろうとしたルカを、エスカーが制す。

 ルカはどうして止めるんだと訴えたが、エスカーは黙って見てなよとばかりに顎をくいと動かした。


「だから、危険な役割ばかり引き受けるなと言っていたんだ……! お前にもしものことがあったらといつも思っていた。そしてその不安が、現実になってしまうとは……!」

「あなた……」


 ……テルさんは以前、肉体労働ばかりすることを両親から怒られたと話していた。

 それは、顧問魔術師ディオンに本来の仕事を奪われたゆえの、プライドに由来するものだとオレたちは思っていたし、きっとテルさん自身も思っていたんだろうけど……両親の本心はそうではなかった。

 魔物退治などという危険な仕事を、それしか出来ないからと軽々しく引き受けてほしくない。

 もっと安全な仕事を見つけ、平穏無事に日々を過ごしてほしいと……両親はきっと願っていたのだ。

 彼らは、テルさんのことをとても大切に思っていた……。


「出よう。アタシたちは邪魔者のようだ」

「……うん」


 スキアさんの言葉に、ルカは大人しく頷いて、静かに部屋を立ち去る。

 オレたちも後に続き、部屋に残ったのはイースティン家だけになった。


「お父さんもお母さんも、テルさんのこと……凄く心配してたんだね」

「そうねえ……素直には伝えられなくても、ずっと大事に考えていたんだわ」


 イオナとフェイが言うのに、ルカはこくりと頷く。

 愛があるからこそ素直になれない……人の心の難しいところだ。


「よくあるボタンの掛け違いってやつだねえ。……ちゃんと直してほしいもんだ」

「……ありがと、エスカー」

「ま、ああいう家庭はまだ救いがあるからさ」


 エスカーはこともなげにそう答える。

 ……まるで、救いの無い家庭だってあると仄めかすようだが、勘繰り過ぎか。

 何にせよ、落ち着きを無くしたルカを上手くサポートしてくれてるのは助かるが。


「で、リーダー。街の状況は」

「ああ、メルシオネ教官もバランたちも粗方の眷属は倒したらしい。だから連絡をとって、アンドルー邸に一度集合することになった」

「了解。待ってればいいわけだ」


 そうだな、とオレは返して、


「全員が揃ってから……出来ればアンドルーさんも交えて現状の共有を図ろう。それで……これからのことも考えなくちゃな」


 目先の危機は退けたが、問題の根本は何一つ解決していない。

 終末ノ獣という強大過ぎる敵にどう立ち向かうか……とにかく一度、全員で知恵を絞らなくては。

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