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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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138.アーテミー防衛戦②

『は~い、あたしもオペレートで参戦してるよ!』


 スキアさんの端末から、元気な声が飛び出してくる。

 この声は間違いなく、妹のアクアさんだ。

 スティング姉妹の二人は、落ち着きのあるスキアさんが現場に出て、陽気なアクアさんの方がオペレーターなんだな……少し意外だ。


「スキアさん、アクアさん!」

「凄い援軍だ……助かったあ……!」


 ルカがホッと胸を撫で下ろす。

 一人だけの援軍だとしても、実力ある先輩が駆けつけてくれたのは大きな安心感をくれた。


「すまない、その……簡単にしか事情を聞いていなくてな、イレギュラーが猛威を振るっているということでいいか?」

「は、はい。ボス個体はあの火山に逃げてったんですけど、幼体みたいなのが大量に発生してて……」

「今のがそうか。この状況、確かに新入生には荷が重そうだ」


 オレたちの事情を校長がどこまで話しているのかは分からないが、少なくともスキアさんはイレギュラーのことをある程度理解しているらしい。

 彼女は二つ上……三年目のイマジネーターなので、きっと対峙経験もあるのだろう。そういう人選なのかもしれない。


「……倒し切れてはいない、か」


 敵の方を見やり、スキアさんは呟く。

 魔法の水流が引き去った後、眷属たちは身に纏う炎をすっかり消されて弱々しく動き回っていた。

 倒せていないのはそうだが、一つの魔法でこれだけのイレギュラーをまとめて弱らせられたのだから十分過ぎる。

 後はオレたちがトドメを刺せばいいだけだ。


「よし、蹴散らすぞ!」

「おー!」


 オレたちは散開し、弱り切った眷属を一体ずつ、確実に仕留めていく。

 剣での一薙ぎ、氷刃での一突き、拳での一撃……。

 スキアさんが到着してからものの数分で、十体ほどいた眷属は全て片付いたのだった。


「助かりました、スキアさん」

「気にするな……これも上級生の役回りだ。とはいえ、このような状況はアタシも初めてだが」

「ですよね……とにかく今は、街の被害を抑えて回るしかないんでしょうけど」


 燃え盛るアーテミーの街。

 被害を拡大させないためには、眷属を倒しつつ火事を鎮静化させていくのが肝要だろう。


「この辺りの鎮静化は引き受けよう。君たちはまず、そこに倒れているご老人を安全な場所へ運んでくれ」

「……分かりました!」


 スキアさん一人に任せていいのかという気持ちもあったが、彼女とて考えた上で提案してくれている。

 ここはその言葉に甘え、急いで族長を安全な所へ連れて行ってから戻ってこよう。


「どこが安全だろ……!」


 イオナがキョロキョロと辺りを見回す。正直言って、どこもかしこも燃えている惨状だ。

 たとえある程度の被害が出ていても、火の手が来ていない、或いは収まっている場所などがあればいいが……。


「ねえ、アンドルーさんの家は無事じゃない!?」


 ルカが上層を指し示す。……確かに、アンドルー邸は二階部分が一部破損しているものの炎上はしていない。

 おまけに街で一番高い場所にある建物なので、他の建物などから延焼するような危険性も少なそうだった。


「よし、あそこに運ぼう!」


 オレは即決して、意識の無いマレー族長を背負う。

 そしてスキアさんに待っててくださいと一言告げてから、アンドルー邸に向かって駆け出した。


「多分、アンドルーさんが家を避難場所にしてるんじゃないかしら。焼けた跡はあるようだし……」


 フェイに言われてよく観察してみると、二階の破損部は焼け焦げた形跡がある。

 アンドルーさんのことだ、邸宅を解放して住民を避難させているという可能性は高そうだった。

 人を抱えて走るのは中々堪えたが、全力で駆け抜けて何とか邸宅に辿り着く。

 扉を開けると、邸内には果たして何人かの住民が逃げ延びてきていた。


「アンドルーさん!」


 オレが呼びかけると、奥からアンドルーさんが出てきてくれた。

 ちょうど使用人に命じて、負傷者の応急処置などにあたっていたようだ。


「君たちか……む、背負っているのはまさかマレー族長か?」

「ええ、街の外れで気を失っていて……とりあえずここまで運んできたんです」

「分かった、幸いベッドにはまだ空きがある。そこで休んでいてもらおう」


 アンドルーさんはそう言うと、オレたちをすぐにベッドのある部屋まで案内する。

 普段は使用人が寝泊まりしている場所らしい。怪我の程度が重い人が何人か、既にベッドで横になっていた。


「ついでですまないのだが、治癒魔法を使える者は負傷者の治療を手伝ってくれないか。我々では消毒と傷口を塞ぐ程度しか出来なくてね」

「私とフェイちゃんでやります! マレー族長も念のためやっておかなくちゃ」


 イオナが挙手し、フェイも頷く。

 魔法が主力の二人にしか、その役目は務まらないな。オレたちは先にスキアさんのところへ引き返すべきか……。


『ダインさん、そちらの邸宅に敵性反応が近づいています。恐らく人の気配……マナの集まりを感じ取っているのかと』

「眷属か……了解、すぐ対応する」


 マルからの通信に感謝し、テスタマイザーのマップ画面を確認する。

 索敵可能な範囲内に、計三体の反応があった。

 別々の方角からにじり寄って来ているので、彼女の言うようにマナを追ってくるのかもしれない。

 負傷者の治療をイオナとフェイに任せ、物理攻撃特化のオレとルカ、エスカーはイレギュラーの対処に繰り出す。


「前方に二体、後ろから一体かな。二体の方が先」

「切り口はエスカーの攻撃になっちまいそうだな。頼めるか?」

「善処するよ」


 ヤレヤレと肩を竦めるエスカー。ただ、頼られて悪い気持ちはしていないように見える。

 素直じゃないのはいつものことだ。


「じゃ、やりますか――氷刃」


 エスカーは敵の姿が見えるよりも先に氷の生成を始める。

 そして茂みの中から敵が出てきた途端、狙いを定めて刃を投じた。


『***!』


 見事な先制攻撃に眷属も回避行動をとれず、凍てつく氷の刃がまともにヒットする。

 冷却され、脆くなった外皮。そこをめがけてオレとルカが一気に攻め込む――。


「――黒月ッ」

「やあッ!」


 急所を確実に捕らえ、一撃の下に敵を消滅させる。

 これで二体。後は後方の一体だが……。


「――氷槍」


 知らぬ間にアンドルー邸の屋根に上っていたエスカーが、創り出した槍を手にして空中へ身を躍らせた。

 そのまま邸宅の向こう側へと消えていき、白い蒸気が立ち昇ったかと思うと、もう全てが片付いていたのだった。


「……やるなあ、あいつ」

「運動神経良すぎるし、戦い慣れしてるよねー。エスカーってホント謎だらけなヤツ」


 ルカはそう言って頬を膨らませる。

 彼女の戦闘スタイルも高い身体能力を活かしてのものなので、やはり対抗意識は常に持っているんだろう。


「終わったよ、お疲れさん」


 仕事を終えたエスカーは、家の横手から悠々と歩いてくる。

 こんな状況でいつもと変わらないというのも、場慣れ感があるというか何というか……どうなんだろうな?


「……うーん」

「どうした、ルカ?」


 急に考え込むルカに、オレは首を傾げる。すると、


「いや、ダインにもエスカーにも強力な技があるからさ。ボクもそういうのがあれば役立つんだけどなあって」


 言われてみれば、ルカには今のところ、技と明確に定義出来る攻撃はあまり無さそうだ。

 唯一それらしいと言えば、テルさんに見せてもらったアレくらいか。


「浸透掌……だっけ。あれは?」

「うん……確かにアレなら必殺技って感じだけど、まだ上手く打てないんだよね。多分、相当練習しないと……」

「一朝一夕の技術じゃないだろうしな」


 オレの言葉に、ルカは素直に頷く。


「やっぱりテルさんにちゃんとレクチャーしてもらわなきゃダメかなあ――」


 ルカがそう呟いたところで、テスタマイザーから通知音が鳴る。

 誰かから通信が入ったようだ。


『……聞こえるか、ダインくん』

「あ――スキアさん」


 オレたちのチームへ連絡をとるべく、代表のオレに直接連絡してきたらしい。

 学園を発つ前に番号を伝えられたのだろう。


『まだ怪我人の処置にあたっていたら申し訳ない。ただ……こちらでまずい状況に出くわしてしまった』

「まずい状況……?」

『街の子どもたちが退避している場所にやって来たのだが、負傷者が多い……重傷の者もいる。加えて敵の襲撃が立て続けでな……アタシは回復魔法が不得手なこともあるし、早めにこちらへ来てくれるとありがたい』


 スキアさんの声からは焦りが感じられた。流石にそれは、彼女一人には対処しきれない状況だよな……。

 マレー族長は運び終えたし、アンドルー邸への襲撃もひとまずやり過ごした。スキアさんのところへ戻っても大丈夫だろう。

 マップには、スキアさんの現在地が表示されている。ここからでも、五分ほどあれば駆けつけられる距離だ。


「よし、急ぎスキアさんのいる場所へ向かうぞ」

「了解」

「おっけー!」


 一緒に通信を聞いていたエスカーとルカは二つ返事で了解してくれる。

 それからすぐアンドルー邸へ引き返したオレは、フェイとイオナにもスキアさんから通信があったことを伝える。

 二人もちょうど負傷者の処置が落ち着いたところだったので出ても大丈夫と言ってくれ、オレたちは五人揃ってスキアさんが待つ地点へと急ぐのだった。


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