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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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132.祝祭に至る情景③――遊戯

「せっかくだから、私もついて行っていい?」

「だーめ!」


 牢を出るなり、イオナが同行を申し出るのにルカが抗議の声を上げた。

 団体行動になるほど街の警備が薄くなるのはそうだとして、別に断固集まるなってほどでもないと思うが。


「別にいいじゃねえか、せっかく賑やかなイベントなんだし、二人じゃなくても」

「それはそうかもだけどお……」


 聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟くルカ。

 皆で盛り上がるのが好きそうなのに、なぜ今は不満がっているのか……意見を求めるようにイオナに視線を向けたのだが、彼女は彼女でご満悦の表情をしていた。……変な二人だな。


「ここで揉めてても仕方ないし、さっさと行くとしようぜ」

「はーい……」


 結局ルカの方が折れ、オレたちは三人で出店のある中心部に向かうことになった。

 イオナに一人で楽しんでくれと追い返すのも酷だし、普通ならこうすると思うけどなあ。


「あ――なんか良い匂いがする」


 ちょっと心配していたのも束の間、ルカは遠くから漂ってくる食べ物の匂いに吸い寄せられていく。

 そのまま新鮮なイカの姿焼きを出している店に辿り着くと、


「おじさん、これで一つちょうだい!」


 さっきの不機嫌が嘘のように晴れやかな顔をして、店主の男性に無料券を一枚差し出すのだった。


「はは、あんたらアンパッサの里に出た化物を倒してくれた人たちだろ? 感謝の印ってことでタダにしといてやるよ」

「ホント! おじさんありがとう!」


 思わぬ好意に、ルカは更に目を輝かせた。

 しかも、男性はオレたちにまでイカの姿焼きを提供してくれる。……太っ腹な人で嬉しい限りだ。


「ありがとうございます……あちち、でも美味しい」


 イオナも受け取るなりイカをすぐ口に運ぶ。

 まあ、こんな良い匂いを前にしたら我慢する方が難しいよな……ということでオレも一かじり。


「良い食べっぷりだねえ。今日は年に一度のお祭りだ、異国の人にも楽しんでもらって、本国でも宣伝してほしいもんだよ」

「あはは……商売上手ですねー」


 イオナはやられましたとばかりに笑う。

 異国というか、本当は世界そのものが違うのだけれど……帰ったらアトモス学園の同級生にでも宣伝しておいてやろうかな。

 来年はエイヴスの祭に行ってみなよ、と。

 店のおじさんに感謝を述べつつ、オレたちはぶらぶらと街内を歩いていく。

 出店が並ぶ道すがら、カップルらしき男女や家族連れ、或いは里のエルフなど色々な人とすれ違った。

 そして、一際賑やかな店の前で、見知った顔を見つける。


「テルさんだ」


 前方を指差したルカが名前を呼ぶ。

 あちらもオレたちに気付いたようで、子どもに囲まれたまま照れ臭そうに笑った。

 ……今日も今日とて、子どもたちの人気者のようだ。


「どうも皆さん。お祭り、楽しめてますか?」

「ええ、そりゃもう。テルさんは大変そうですね」

「いえいえ、好きでやってることですから。……分かった分かった、ちょっと待っててね」


 どうやらミニゲームが出来るお店で、子どもたちからその腕前を見せるよう急かされているらしい。

 オレたちもどんな遊びなのか気になったので、拝見させてもらうことにした。


「よおーし……」


 テルさんの手には小さなボールが三つ。

 店のカウンターの向こうには無数に穴が空いた箱がどんと置かれていて、それぞれの穴の付近が色分けされていた。

 子どもたちが説明してくれるところによると、ボールを投げて小さい穴に入るほど高得点なんだとか。

 得点が高いほど貰える景品が豪華になる、とのことだった。


「……えい!」


 狙いを定めたテルさんの一投。

 投じられたボールは綺麗な弧を描き、一番小さい穴に見事入る――かと思われたが、僅かに外れ別方向へ跳ねていってしまった。


「むう……難しいですね」

「頑張れテル兄ちゃん!」


 坊主頭の男の子がテルさんを応援する。

 本当の兄弟なわけではないが、兄ちゃんと呼ばれるくらい慕われているのだ。


「次は必ず……はっ!」


 同じところを狙って投げ込まれたボール。

 緊張の一瞬――重力に従って落ちていくボールは、今度こそ小さな穴の中へと吸い込まれていった。


「……よしッ!」


 テルさんは思わずガッツポーツをして喜ぶ。

 見守っていた子どもたちも喜びを爆発させて、一斉にテルさんの元へ駆け寄っていった。


「すっげー! 流石はテルさん!」

「皆入んなかったんだよー!」


 子どもからすれば難易度が高い、というわけでもなさそうだ。

 店主のしてやられたなという顔を見れば分かる。


「あちゃあ……これは入らんだろうってんで、一発で最高賞にしてたんですが……テルさんにゃ敵いませんや」

「本気になっちゃってすいません。子どもたちに見られてると、やってやらなきゃって気持ちになっちゃって」

「そこで決めてくるんですから、大したもんです」


 全く以てその通りだ。

 大抵の人は――もちろんオレだって――決めなきゃいけないと思うほど失敗してしまうものだし。


「ほい、景品のお菓子詰め合わせです。持ってってくださいな」

「ありがとうございます! ……さ、戦利品もゲットしたところで、あっち行って食べよっか」

「はーい!」


 子どもたちは、この豪華な景品が欲しくてテルさんに望みを託していたようだ。

 とても子供らしい、純粋無垢な期待である。そりゃテルさんも頑張らなきゃって思うよな。


「というわけで、俺は子どもたちと空き地に行きますんで、皆さんは引き続きお祭りを楽しんでください」

「はーい、楽しませてもらいます!」


 ルカが元気よく答えるのに笑い、それから子どもたちに半ば引っ張られるようにしてテルさんは去っていった。

 住民の子たちと一緒になって楽しんでくれるお役人、か。……セント・ロウディシアではお目に掛かれない光景な気がする。


「こういう文化も、いいものだね」


 オレと同じことを考えたのかもしれない。イオナはそんな風に呟く。

 だからオレも、そうだなと頷いておいた。


「……よおし、ボクも一丁やってみようかな!」


 テルさんに触発されたのか、ルカもやる気になって店主にチケットを渡す。

 運動神経はいいけれど、はてさてこういうゲームでも発揮出来るもんかな?


「頑張って、ルカちゃん」

「最高賞、期待してるぜ」

「もうっ、言われると緊張するってば」


 ブンブンと手を振り、止めてほしいと怒るルカ。

 一応謝っておいて、オレとイオナは彼女の挑戦を見守った。


「行くぞお――」


 掛け声とともに、空中へふわりとボールが投じられた。

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