131.祝祭に至る情景②――罪人
ディオンさんと別れたオレとルカは、街の端にある牢屋に到着する。
そこにメルシオネ教官がいるのは予想の範疇だったが、加えてもう一人いることまでは予想外だった。
「あれ……イオナか」
教官の隣には、イオナが付いていた。
オレの呼びかけに振り向くと、彼女は一瞬だけ顔を綻ばせる。
「ダイン! ――それに、ルカちゃんも」
「あ、イヤそうな顔した」
微妙な表情の変化に、ルカが敏感に反応する。
……でも、どっちかっていうとルカの方がイヤな顔してないか?
「どうしたの、こんなところで」
「それはこっちの台詞……というか、お互い目的は察するだろ」
「あはは、それもそうだね」
オレだけじゃなくイオナも、千年王国への尋問の成果が気になっていたようだ。
対策チームの現地メンバーの中で、彼女が一番重い理由を背負っているのだし、事態解決に真剣なのも当然のことか。
ルカにもあまり真面目なヤツだとネガティブに思ってほしくないんだが、イオナの事情は今のところ二人だけの秘密だしなあ。
「フフ、仕事熱心で教官としては嬉しいですよ。もっと遊びを重視してもいいのに、という気持ちもありますが」
「すいません。これが終わったら店を回るつもりなんで」
「分かりました。私はしばらくここに留まろうと考えていますが、皆さんは好きなタイミングで戻ってください」
そう告げてから、メルシオネ教官は入口の扉を開いた。
牢屋は構造的にはアンパッサの里と近似していて、入った先には牢屋番の詰める部屋があり、受付のように顔を出して来客と応対出来るようになっていた。
横手に廊下が伸びており、その左右に三つずつ鉄製の扉が取り付けられている。そして一番奥は地階へ下っていく階段となっていた。
地上階に六つ、地下に六つで合わせて十二の牢屋があるらしい。あまり犯罪者は多くないが、いつも二つか三つほどは埋まっているとのこと。
今回千年王国の四人組が捕まったことで初めて六つ以上の牢が埋まったんだと牢屋番の男性は語ってくれた。
「彼らの尋問、何か進展はありましたか?」
「いいや、あいつら口が堅いったらありゃしません。オマケにリーダーらしいあの男、黙ったままニヤニヤ笑ってるもんで気味悪いですぜ」
スキンヘッドで強面の牢屋番が、両手で体を押さえて身震いする真似をするものだから、ちょっとシュールで面白い。
ただ、何の進展もないというのは辛いところだな。
「ちなみに、今は?」
「その気障な男を尋問してる最中ですよ。行ってみたらどうです」
「ええ、一度見て行くとしますかね。確か、地下の一番奥でしたか」
「その通りで。ノックしてから入ってくださいな」
メルシオネ教官は頷くと、オレたちに目配せしてから廊下を進んでいく。
オレたちは牢屋番の男性にぺこりと会釈をしてから、教官の後に続いた。
地下へ降りて、薄暗い廊下を真っ直ぐ進む。一番奥の右手側にある扉をコンコンとノックしてから、教官は扉を開いた。
「……おや、メルシオネさん」
中にはアンドルー邸に仕えている初老の男性が一人。そして、鉄格子を挟んだ向こう側にあの男がいた。
冷たい床に片脚を立てた状態で座り込み、冷ややかな目でこちらを見つめている。
「お疲れ様です。……相変わらずのようですね」
「はい……実のある会話は出来ておりませんよ」
男性は重たい溜め息を吐く。尋問する側が辟易してしまうとは、あの男も肝が据わっているというか何と言うか。
「……そっちのガキどもとは二日ぶりだな。よくもまあ、俺たちをこんな場所にぶち込んでくれたものだ」
「あれほどの事件を起こしたのですから、当然だと思いますが。……しかし、分かっていますよね? 貴方がたが心血を注いで造り上げたバケモノは、既に倒されてしまったというのは」
「……ふん、もう何度も聞いた」
男はつまらなさそうに言い捨てる。
「それなりに力を持っているのは見直したさ。……だが、それまでだ」
「怪物も倒され、牢屋に捕えられ。打つ手無しという状態なのに随分余裕なものです。お仲間がそろそろ助けに来る頃ですか?」
「……さて」
口車に乗ったりはしてこない。
軽口は叩くが、重要なことは決して言うまいと気を付けているようだ。
なるほど、こいつは手強いな。……しかし、黙秘することが翻ってまだ何か裏があることを示唆しているようには思えた。
「ねえ、教えてくれない? 貴方たち……千年王国はどれくらいの人をイレギュラーに変えてしまったの? 沢山の人の命を奪っておいて、まだ数を増やそうとしていたの?」
「お説教か? 生憎、その質問に答えるつもりはない」
「……きっと、こうして捕まえてないと増やすつもりだったんでしょうね」
答えることを拒否され、イオナは皮肉混じりに返して溜め息を吐くしかなかった。
「ちゃんと話になったのも久々ですよ……ほとんど口を開きませんでしたからね。あの男も自分を捕えた皆さんに対して鬱憤が溜まっていたのでしょう」
「ですかね。結局、大して収穫は得られていませんが」
メルシオネ教官は苦笑する。
「……こんな感じですし、皆さんはそろそろ戻られてはどうです? 面白いものでもありませんし」
「その方が賢明そうですね。じゃあ、オレたちは遠慮なく祭を見て回ってきますよ」
「ぜひ、そうしてください」
教官にそう促され、オレたちはこの陰鬱な牢からお暇しようとする。
するとそのとき……牢の中の男が、再びニヤリと笑った。
「――せいぜい祭を楽しんでおくことだな」
負け惜しみのように聞こえるその捨て台詞。
しかし、この男が口にすると含みがあるようにも感じられた。
「……お前たちの好きにはさせないさ」
その余裕が何を示しているのかはまだ分からないが。
いつまでも笑みを浮かべたままではいさせないぞと、オレは男を睨みつけてから牢を去るのだった。




