130.祝祭に至る情景①――供物
『通信機能は一足先に復旧したので、ここからはいつでも連絡を取り合えるということだけお伝えしておきますね』
アンドルー邸を出る直前になって、マルからそんな報告が来た。
何か異常があれば即座に情報共有出来るようになったのはありがたい。今日は分散して行動する時間も多そうだし。
「報告ありがとな、マル。今まで連絡取れなかった分、今日はよろしく頼む」
『自分の仕事はちゃんとこなしますよ、ご心配なさらず』
相変わらずクールな受け答えだ。だからと言って気持ちがこもっていないわけじゃない。
彼女も自らの役割に、真摯に向き合ってくれているのは伝わってくる。
「さてと、まずはどうすっかな……」
一応、リーダーとしてやっておこうということはある。
なのでメルシオネ教官についていきたいところなのだが――。
「ね、ダイン! 一緒にお店回ろうよ」
考え事をしていると、隣から声がかかる。
見ると、ルカがニコニコしながらこちらを見ていた。
「結構色んなお店が出てるらしいしさ、見るだけでも楽しそうじゃん」
「オレもなるべく多く回れたらとは思ってるけどな」
「けど?」
「楽しむ前に、一度様子を見に行きたいんだよ」
オレの言葉に、ルカはハテナと首を傾げる。
「千年王国のこと。祭を楽しんでほしいって気遣いか、アンドルーさんたち朝の報告では言わなかったからさ。一度こっちから聞いておこうと思って」
「ああ……そっか」
ルカはあまり乗り気ではないらしい。
そりゃ、遊びに誘ったのに仕事優先と返されてるようなもんだしな。
申し訳ない気持ちはあるのだが、少し時間を割いても確認しておきたいのだ。
「悪い。それが終わったら一緒に回るからさ」
「ホント? だったら許す」
お許しを得た。機嫌が悪くならないうちに、さっさと済ませるとするか。
そこまで収穫は期待していないし。
……ということで、オレは他のみんなとは少し遅れて、ルカとともにアンドルー邸を発った。
目指すは千年王国の四人組が拘留されている牢屋だ。
街で罪を犯した者も入る施設なので、その場所は必然的に街の端に置かれている。
なので階段を下って最下層まで行かないといけない。
「……お?」
ちょうどその道中、ディオンさんが階段を上がってくるのが見えた。
街の中央を貫く階段ではなく、端の方から上がってきている……それに、彼の後ろでは五人ほどのエルフの男性たちが何やら重たい荷物を運んでいた。
「手伝いましょうか?」
気になったオレは、ディオンさんのところまで近付いて声を掛ける。
ディオンさんの方もオレに気付いて、軽く会釈をくれた。
「ああ……どうもダインくん、ルカさん。お気持ちはありがたいですが、もう運び終えますから」
「ということは、それが捧げものですか」
「ええ。既に街で採れた作物などは祭壇前に保管されていて、これが最後です」
荷物は黒い布がかけられていて中が見えないものの、かなりの大きさがある。
五人がかりで必死に運んでいるのだから、やはり重さも相当のものなんだろうな。
「一番大事な、魔物の供物なんですね」
ディオンさんは頷く。
小動物一匹だったら……とか一瞬でも想像していたのが申し訳ないな、こりゃ。
「ディオンさん、行きましょうよ」
「ああ、失礼。……話し込んでしまうと皆さんが疲れてしまいますので、これで」
「あっ、すみません。準備、頑張ってください」
屈強な男性がぞろぞろいるといっても、荷物を持たせたままでいさせるのはよろしくない。
善意が裏目に出てしまわないうちに、退散するとしよう。
「ダインくんたちも、お祭りを楽しんでいってくださいね」
そう言い残して、ディオンさんは男たちとともに祭壇へ向かって上っていった。
……本当に、いつも忙しい人だ。
「ディオンさん、朝からアンパッサに行ってるって話だったけど、もう荷物運んだりしてるんだね」
「つっても、あんな大荷物アーテミーで見かけなかったから、道中の森にでも置いてたんじゃないかな」
「それでエルフの人たちと一緒に運んできたって感じかあ。ありそう」
可能な限り並行してやるくらいじゃないと、追いつかなさそうだしな。
頭の中で手順をあれこれ考えて、上手いこと進めてるんだろう。
「ううん、あともう一つ、もしかしたらって思うコトが無いこともないけど……」
「やたら迂遠だな。……それって?」
ルカはこくりと頷き、自らの考えを明かす。
「……アンパッサの里にあったものを持ってきた、とか」
――里にあったもの。
「お前……」
「いや、あくまで可能性としてだよ? それって供物としてどーなのってところもあるし。ただ……タイミング的にもあるのかなあって」
……ルカの説を、否定は出来ない。
三日前まで未調達だった供物が、昨日のうちには用意されていたのなら。その二日間に調達が完了したということだ。
しかし、あれほど大きな何かを討伐するような人の動きは、少なくともオレたちは把握していない。
ただ一つを除いては。
「筋は通ってるが……心情的に認められ得るのか、だな」
オレとしては、そうでない方がいいような。
浮かび上がってくる仮説は、何となく拒否感のあるもので。
隣に立つルカの顔を見ても、その気持ちはどうやら同じらしかった。




