126.各々の報告
オレたちがアーテミーへ帰還したのは、午後一時過ぎのことだった。
そのときにはまだ里の復旧作業へ向かったチームは戻って来ておらず、合流出来たのは二時になろうかというあたりだった。
「はあー……今日もお腹ペコペコで帰還だよ」
「ルカちゃん、みんなもお疲れ様。一緒にお昼食べようね」
「え、待っててくれたの?」
互いの報告もあるだろうと、先に着いたオレたちは昼食を少し待ち、全員揃ってから食べることにしていた。
バランは嫌そうだったが、そこは多数決だ。あいつにも我慢してもらって、アンドルー邸で待機していたのである。
「申し訳ないでござるな……中々区切りがつけられぬゆえ、長引いてしまった」
「仕方ないさ。復旧作業なんて一日二日で終わるものじゃないんだし、区切りなんかつかないだろ」
「もう大変大変。俺ももっとデカイ体でひょいひょい物を運べたら良かったんだけどなあ!」
作業面ではそれで良いのかもしれないが、ゴツいテッドくんはちょっと想像が出来ないぞ。
多分、童顔とアンバランス過ぎて違和感が凄いような。
「皆さん、十分に尽力していただきましたよ。里の人たちも感謝していました」
同行していたディオンさんが、彼らの活躍ぶりについて語る。
テルさんも後ろで満足げに頷いていたし、ルカたちはきちんと役割を果たせたようだ。
「そちらの調査については、如何でしたか」
「はい、その報告もさせていただきます。ひとまず昼食を用意してくださっているので、食堂へ向かいましょう」
「そうですね。ここで立ち話もよろしくない」
そうしてオレたちは食堂へ場所を移し、腰を落ち着けた。
アンドルーさんも先に席へ着いていて、それぞれの働きを労ってくれる。
どうかこの昼食で体力と気力を養ってほしいと言ってくれたので、なら遠慮なくとオレたちは腹いっぱいになるまで料理を堪能するのだった。
「……ふう、中々の美味だったね」
腕組みをしながら、何故か偉そうに言うエスカー。
「ちゃんと働いてたの?」
「失礼な。引き受けた以上は働いたとも」
「って言ってるけど、どうなのフェイちゃん」
「ふふ……しっかり働いてくれてたわよ、エスカーくん。人を的確に動かすのが上手いというか」
「そうですね……私なんか結構オドオドしちゃってたんですけど、どこにサポートしに行くといいよとかアドバイスしてくれて」
へえ、エスカーってそういう才能もあるのか。
普段から人を見る目はある――というか探る癖があるなと思わされてはいたが、こういう部分でプラスに発揮されるわけだ。
里で一緒に働いていたメンバーからの評価は結構上がったように感じる。元は低めだっただろうし、良かったなエスカー。
「そこ、見直されて良かったとか思わなくていいからね」
「ちぇっ、考えてることすぐ読まれるな」
「隠す気無さそうな顔だったけど?」
「それはそう」
こいつめ、とエスカーが睨んでくる。
ちょっと怒らせたのは悪いが、場は和んだだろう。悪く思わないでくれ。
「復旧作業の話になったんで、手短にまとめさせてもらいますね。今日の作業でひとまず瓦礫の撤去は完了しました。それから街へ来るのが怖くて里に留まっている怪我人も数名いたんですが、そちらは回復魔法や治療薬で処置しています。いやあ、これだけ順調なのはひとえに皆さんのおかげですよ」
テルさんは報告をそう締めくくると、里で頑張った面々に笑顔を向ける。
自分がやったことではないが、仲間が称賛されているのはとても誇らしいものだ。
「マレー族長も大変助かると仰っていました。……そう言えばディオンさん、族長と何か話されてましたかね?」
「ええ、明日の祭について少し。それについてはロウディシアの方々には関係しませんし、後で大丈夫です。それから族長、メルシオネさんたちのことも話していましたね。なんでも、蒼の遺跡へ立ち寄ったとか」
「千年王国を調査するついでに、まだ見ていない場所も一応確認しておきたかったのです。もしや、許可が必要でしたか?」
「いえいえ、特に必要ありませんよ。歴史的な建造物に興味を持たれたのなら、エイヴスの人間として嬉しいです。ご期待に添えたかは分かりませんが」
「とても神秘的でしたし、族長のお話は興味深く拝聴しました。立ち寄って正解でしたよ」
それは良かった、とディオンさんは頷く。
……祭壇が新設され、蒼の遺跡が放棄されたのは五十年ほど前。ちょうどディオンさんが二代目顧問魔術師に就任した辺りのことだったはずだ。
祭壇の移転がディオンさんの判断なら……彼は古い遺跡を、どのように思っているのだろうな。
あの遺跡の過去を知っているのなら、再び人とエルフの交流の象徴として活用法を考えてくれるかもしれない。
是非ともそうしてほしいところだ。
「復旧作業は明日以降も引き続き行います。あちらの要請次第ではありますが、長期的に人員の派遣をすることになりそうですね。丈夫な住宅を建ててあげたいところですが、そういう現代的なのは嫌いそうだなあ……」
復旧に関して、どこまでアーテミーが力と技術を貸すか。その線引きも重要になるだろう。
互いの文化を理解し、尊重すべきところは尊重し合う。繊細な問題だが、決して疎かにしてはならない部分だ。
「……と、こちらの報告は以上です。メルシオネさん、そちらの報告をどうぞ」
「ええ、分かりました」
テルさんに促され、軽い咳払いを一つしてからメルシオネ教官は話し始める。
千年王国の拠点で発見した手掛かりについて。
「――というわけで、私たちは千年王国の手に掛かったのが里のエルフ族だけではなさそうだという結論に至りました」
「……何という……」
これにはアンドルーさんも驚きを隠せないようだった。
自分たちの与り知らぬところで住民が拐かされ、そして化物を造り出すための贄となっていたのだから、無理もない。
「アンドルーさんはここ最近で行方不明になった住民を把握していたりは?」
「年に一人か二人ほどは、森へ入ったまま帰らなくなったという報告がある。そうした者については野獣や魔物に襲われ命を落としたのだと見做していたが……まさか、そこにあの組織が関わっている可能性があるとは」
行方不明者は年に一人か二人ほど、か。
一度に多くの人を連れ去ったら怪しまれるのは必定だし、王国も相応の時間は掛けねばならなかったことだろう。
……今更ながら、奴らはいつからエイヴスにいて、計画を進め始めたのか。
あの建物を見る限りでは、それほど昔ではない感じもするが……判断材料が少ない。
「貴重な情報、助かるよ。今日も彼らに尋問を行うが、アーテミーの住民に対し害を為したかどうかについても問い質してみるとしよう」
「……あの、アンドルーさん」
そこでイオナがおずおずと手を挙げる。
「どうしたかな、イオナさん」
「被害者について訊ねるのなら、合わせて聞いてほしいことがあるんです」
「……それは?」
「これまでに一体、何人が実験の犠牲になってしまったのか……」
研究施設にいたときも、イオナは犠牲者の数を気にしていた。
もちろん、犠牲者なんて少ない方が……いない方がいいに決まっているし、組織の魔の手がアーテミーにまで及んでいたことに悲嘆していたのは確かだろう。
ただ、この質問はそういう感傷的な理由だけで出たものではない感じがした。
イオナは、イレギュラーと化した人の数を気にしている……?
「分かった、こちらとしても被害の実態把握は重要だ。答え次第では身元の特定も可能かもしれないし、聞いておこう。現状、黙秘に近い形なのであまり期待は出来ないが……」
「正直な悪の組織なんていないでしょうし、そこは仕方ないですよね……」
まあ、千年王国という組織名を明かしただけでもこちらとしては驚きだ。
明かしても構わないと思うくらいには、捕まっている現状でもあちらは余裕ということなのかもしれない。
「私たちの方も、報告出来ることはこれくらいですね。機械装置に明るい者がいれば、もう少し成果があったかもしれませんが」
「それは悔やむべきことではないさ。本国との行き来が阻害されている現状、ここにいる者たちで出来ることをしてくれているだけで大変ありがたい」
「そう言っていただけるなら、助かります」
アンドルーさんの労いに、メルシオネ教官はぺこりと頭を下げた。
これで両方面の報告は完了し、この場はお開きとなる。
後は任されていることもないので、ロウディシアの面々は自由時間だ。
一度報告を入れてから好きに過ごそうとのことで、オレたちは教官とともに拠点へ戻るのだった。




