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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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116.帰還と報告


「……到着!」


 あれから原生林を歩くこと四十分ほど。

 オレたちはやっとの思いでアーテミーに帰り着いた。

 気持ち的には何もかもをやり遂げた、という感じだったこともあり、街への長い道のりはこれまで以上に辛く思えたのだった。


「えへ……ルカちゃんじゃないけど、私もお腹ペコペコだなあ。早く美味しいご飯、食べたいね」


 お腹を押さえながらイオナが笑う。

 まあ、正午は確実に過ぎているし、下手をすれば二時近くにもなっていそうだ。

 全員等しく空腹なことだろう。


「この時間ですし、昼食は用意してくれているかと。帰り次第手配しますよ」

「ありがとうございます、ディオンさん」


 彼自身は報告など忙しそうなので、食事は後からになるんだろうな。少し申し訳ないが、気持ちには甘えよう。

 ヘトヘトの体で、オレたちはアンドルー邸に到着する。

 玄関口では、すぐテルさんがやって来てオレたちを迎えてくれた。


「お疲れ様でした! アンパッサの里から逃げて来たエルフの方から、化物のことは聞きましたが……無事に討伐していただけたみたいですね」

「ええ、何とか。そちらも例の四人組は問題なく?」

「はい、街の収容施設に捕えています。お仲間さんも元気は無かったですけど、特に怪我などはしていなかったですよ」

「それは何より」


 メルシオネ教官とテルさんはそんなやり取りをしてから、積もる話は腰を落ち着けてと一旦話を切り上げる。


「彼らに昼食を出していただけますか、テルくん」

「もちろん。ちょうど他の方々も食べているところですしね」


 ああ、サラルたちも今になって昼食をとっているのか。

 ということは、多少は元気になったバランも見られるかな。

 あいつの自業自得だったわけだが、それで弱ったままでいられるのも良い気持ちはしないし。


「ディオンさんはお疲れでしょうが……どうされます?」

「先に報告を。元はと言えば私の落ち度ですから」


 テルさんの気遣いに、それは無用だと首を振るディオンさん。


「では私もご一緒出来ますか。この一件について、本国に帰還後詳しく報告しなければいけませんからね」


 メルシオネ教官も食事は後にして、報告に同席する意向を示した。

 率先してそういう役割を引き受けてくれるのはありがたい。

 生徒を導く立場として、そうするのは普通なのかもしれないが。


「皆さんは食堂へどうぞ。すぐ食事を持ってきますので」


 テルさんに促されるまま、オレたちは教官やディオンさんと別れてそそくさと食堂へ向かった。


「あ……皆、お疲れ様でした」


 入ったところでまず労いの言葉をくれたのはエレンちゃん。それから、


「その様子、無事に乗り越えられたようでござるな」

「ま、きみらのチームだったら心配ないよな!」


 とサラルにテッドくんも言い、


「ほらほら、今日も美味しい昼ご飯用意してくれてるんやし、早よ座りよ!」


 エステルちゃんは口に料理を詰め込みながら喋っていた。気持ちは分かるが食べてから喋っていいんだぞ。

 ……そして、テーブルの一番奥に座っているのがもう一人。


「……戻ってきたか」


 不貞腐れたようにそっぽを向きながら呟く、バランだった。

 彼の前にある料理は既に大方片付いているし、食事をとって随分気力も回復した様子だ。

 そこのところはとりあえず安心、かね。


「戻ってきたか、ねえ」


 溜め息混じりに口にしたのはエスカーだ。

 皮肉の一つも言ってやりたい、という気分なんだろう。それも分かるけどな。


「あはは……ごめんなさい、エスカーくん。本当に苦労かけちゃって」

「なに、これも俺たちの任務だったし。ただ、一言本人から謝罪をいただきたい気持ちはあるけどさ」


 ちくりと棘のある物言いに、バランは憎らしげにエスカーを睨む。

 だが、自身に落ち度があるということは流石に理解しているのだろう、


「……悪かった。これでいいか」


 捻り出すように、そんな謝罪の言葉を述べるのだった。

 形だけでも謝罪が聞けて満足したのだろう、エスカーはニンマリとした表情で着席し、オレたちもやれやれと思いながら席に着く。

 オレとしては――というよりほぼ全員、空腹を満たす方が先決というものだ。


「しかし、バランだけあの謎の集団に捕まるってのはとんだ災難だったな。結局どういう経緯でああなったんだ?」


 美味しい料理の数々――グリル野菜のソースがけに魚のカルパッチョ、ローストビーフなど――を堪能しつつ、オレはバランに話を振ってみる。

 進んで話したくはないようで、口を開くのには時間がかかったが、


「通信が繋がらなくなったのが悪いんだ。誰か一人でも逃げ延びて、ロウディシアと連絡が取れれば……その一心で俺は」


 なるほど、自己保身だけで逃げたわけでもなかったか。その辺り、リーダーとしての自覚はちょっとだけあったようだ。

 もっと自覚があったなら、そもそも撤退してたんだろうけどさ。


「事実、里のエルフだけならそれで逃げられていた。だがまさか、あんなヤバい集団がいるとは……」

「ホンマ、あの集団何なんやろなあ。魔物を造る技術なんてのも信じられへんし」

「しかも、アイツらが造ってたのはイレギュラーだったんだ。里に到着して、暴れてるのがイレギュラーだと分かったときには驚いた」

「そ、そうだったんですか!? じゃあ、あの人たちが原因でダインくんたちが調査に来ることになったのかな……」

「うん……可能性は高そうだけどね。これで問題解決ってなってくれたら、それが一番いいんだけどなあ」


 イオナとしてはまだ引っ掛かる部分があるようだ。

 かく言うオレも全てが解決したとは考えていない。フードの男たちの底はまだ知れないし、リーダーらしき男のあの余裕。

 イレギュラーを倒したことで彼らの計画は水泡に帰したのか否か。ハッキリこうだとは断定出来ない状況だと思う。


「牢の中で、あの人たちが自白してくれるかどうかよねえ……」


 フェイの言うように、自分たちはこういう者で、こういう計画を企ててましたと洗いざらい明かしたならまあ、これで安心かと思えそうだが。


「……あいつら、一体何者なんだ……! あまりにも、おかし過ぎる」


 バランは声を荒げる。捕まっていた恐怖が蘇ったせいかと思ったが、どうやらそれだけではなさそうだ。


「何か、あいつらについて気になることでもあったのか?」


 オレの問いにバランが顔を向けたところで、


「失礼します。もう昼食はとりはじめていますね」


 メルシオネ教官が食堂に入ってきた。


「お疲れ様です、報告はもう終わったんですか?」

「ひとまずは。もう少ししたら例の集団の尋問を始めるようで、その際またご一緒させてもらうように伝えておきました」

「なるほど」

「後はエイヴスの政治的な話に移るようだったので、先に退室させてもらった次第です。さて、私も少しはいただいておきましょうかね」


 そこまで言うと、空いていた席――バランの隣の席に腰掛ける。

 そして、取り皿に幾らかの料理を少しずつ載せていった。


「顔色も随分良くなったようで……何よりです」


 教官がバランに話しかけると、彼は思い詰めた顔で、


「……教官。落ち着いたところですまないが、一つ言わせてほしいことがある」

「おや……もちろん、聞きますよ」

「今しがた、ダインに問われて言おうとしたことだが……」


 ということは、あの集団に関する何かか。

 バランは一体、何が気になっているというのだろう。


「あの四人組……特に軽薄な笑みをずっと浮かべている男に素性を聞かれ、状況的に答えざるを得なくなった。そこで俺は、異国ロウディシアから来たバラン=カーファだと名乗ったんだ」


 おかしなところはない。ここではロウディシアを異国としておくのがベターだ。

 ……しかし、バランが次に語った事実は、オレたちを驚かせるのに十分なほど予想外のことだった。


「すると、あの男はこう返してきたんだよ。……お前はあのヨーゼフ=カーファの息子なのかとな」

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