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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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10.呼び出し

 リアムさんにお礼と別れを告げて、オレたちは医務室を後にした。

 イオナによれば、ここはさっきオレたちが戦っていたA棟らしい。後から改めて案内はしてくれるようだが、このA棟は講義室や資料室など、主に生徒が勉学のため利用する部屋で構成されているとのこと。

 だからこそ、入学式で通常の講義がない今日は人気が無かったのだな。


「ダインくん!」


 廊下を歩き始めたところで、背後から声が飛んできた。今の声は……。


「ああ、ルカくん」


 入学式の席でばったり会ったルカくんだった。

 自由時間になっているようだし、オレのことを気にかけて来てくれたんだろうか。


「良かったあ……怪我とかしてない? 大丈夫?」

「奇跡的に無事だよ。心配させてすまねえな」

「ホントだよ! 突然走ってっちゃうんだから……」


 そこまで言って、ルカはオレの隣にいたイオナに視線を向ける。


「ええと、この子が列を外れてったっていう?」


 オレがこくりと頷き、イオナは苦笑いしてから自己紹介をする。


「はじめまして、私はイオナ=ピルグリム。あなたはダインのご友人?」

「そうだよ。ボクの名前はルカ=アクトン。……イオナって凄い名前だなあ」

「友人というか、正確には旧友だけどな。まだほんの小さい頃に接点があって、今日偶然ここで再会したっていう」

「でも嬉しい偶然だったでしょ?」

「まあ、知ってる子がいたのはホッとしたよ」


 そこで何故かルカくんは自慢げにニンマリする。まるで自分の方が仲良しなんだぞと誇示するような。

 実際、数少ない知り合いとの繋がりは手放したくない、という心情なのかもしれないな。オレもそこは同感だが。


「で、どうしてイオナさんは指示違反したのさ。おかげでこのお人よしさんが追いかけてっちゃったわけだし」

「お人よしさんって……」

「ふふ、ごめんね。その……どうしても私、お手洗いに行きたくって。演習場の近くにはないから」

「ん……?」


 特待生でブースターを持ってたからって話をちゃんとするものかと思っていたが、ルカくん相手には言わないつもりか?

 疑問に思い、イオナの方に視線を向けると、彼女は悪戯っぽくウインクしてみせた。……分からん。


「そ、そうだったの? んー、そういうのは仕方ないけどさ……結局違反にはなっちゃうよね。メルシオネ教官も二人がいないって連絡とってたっぽいし」

「うん。だから今からコーネリア校長のところに行かなきゃならないんだ」

「ウソ!? それ、停学とか……た、退学なんかならないよね?」

「そう願っててくれ、ルカくん」

「そんなあ……」


 ルカくんはまるで自分のことのように悲しんでくれる。……そうだな、オレもそんなあって嘆きたいところだよ。

 流石に退学まではいかないと思いたいけど……下手したら数日は謹慎、なんて言い渡されるかもしれないよなあ。


「はあ。校長先生に呼び出されてるなら遅くなってもまずいだろうし、ボクはそろそろ行こうかな。夕食は一緒に食べられるといいけど」

「寮で食べるのよね。そこまで遅くはならないと思うから、心配しないで」

「イオナさんのことは心配してないよ! それから……」


 ルカは語気を強めて念押ししたあと、


「ボクもダインって呼ばせて貰うから!」


 何故か捨て台詞のようにそう宣言して、ルカくん――オレもルカでいいか――は去っていったのだった。


「……ふふ、面白い子だね?」

「なんか、そうみたいだな……。一緒にいて楽しそうなヤツではありそうだけど」


 何故かオレの方が恥ずかしくなってきて、誤魔化すように頭をポリポリと掻く。

 さて……少しハプニングは発生したものの、とりあえず目指すべきは校長室だよな。


「校長室はA棟なのか?」

「いや、教職員用の設備が揃ってるB棟があるんだ。職員室とか会議室とかね」

「ふむ……」


 A棟は生徒主体、B棟は教職員主体の構成になっているわけか。まあ、後で細かく案内してもらおう。

 今のところは大人しく、イオナについて行くことにする。

 A棟の玄関ホールまで出てくると、イオナとオレが戦った痕跡がまだ生々しく残っているのが分かった。

 魔物の死骸は片付けられているものの、床にはまだ薄っすらと血痕が付着しているし、イオナが吹き飛ばされた壁は僅かにヒビが入っている。

 よくもまあ、あの衝撃で骨折せずに済んだものだと改めて感心した。

 ……見た感じ、破損個所は壁くらいか。最後に発動させた地震や、もしかしたらそれ以上のものが何か悪さをしていないか不安だったが、それは杞憂だったようだ。

 ホッと一安心し、オレはA棟を抜け出た。

 

「……何か、視線を感じるな」

「ううん……少しばかり有名になっちゃったのかもね」


 あっけらかんとイオナが言うので、オレは今日何度目かの溜め息を吐く。

 演習場でメルシオネ教官が、オレたちがいないと連絡していたようだし。新入生とか、もしかすると上級生にまで噂が広まってるかもしれない。

 初日に指示を守らなかったヤツらがいるらしいぞ、なんて。


「随分楽天的だよなあ、イオナは」

「ふふ、そうかも。良いことだけを考えていられれば、悪い気分にはならないからさ」

「言うは易し、だろ」


 イオナはまた、そうかもと答えた。……けれど、そのときの表情には少しばかり陰りがあったような気がして。

 ……ただ能天気なだけ、というわけではないのかもしれないな。あまりプライベートには踏み込みたくないが。


 適当にお喋りを続けながら、オレたちはキャンパス内をしばらく歩き、B棟へ辿り着いた。

 こちらはA棟よりも一回り小さい。あちらが四階建てで、こちらは三階建てか。教職員の数は生徒より当然少ないので、これくらいのスケールで十分なのだろう。


「校長室は?」

「三階だね。エレベーター使っちゃう?」

「怒られに行くときに、そういうの使うのはどうも抵抗あるんだが……」


 エレベーターは教員しか使ってはいけない、という古臭いルールは無いだろうが、こういうのは気持ちの問題だ。

 後ろめたさを感じないためにも、ここは階段を上りたい。


「マジメだなあ」

「不真面目よりはマシだろ」

「それはそう」


 自分のこととは思ってないな、こいつ。

 階段を上って三階へ上がり、廊下を進んで幾つかの扉を通り過ぎる。

 そして、やたらとゴテゴテした装飾の一際豪華そうな扉の前で、イオナは立ち止まった。


「よし、到着! ここが校長室です」

「目の前で大きな声出さない方がいいんじゃないか?」

「う。……まあ、それじゃ入ろうか」


 調子は狂うが、かえって緊張も薄れてきた。そのことには感謝してもいいが、緊張感が無いって怒られたらそれはそれで嫌だな。

 まあ、さっきも思ったことだが……こうなりゃヤケ、だ。

 オレが頷くと、イオナは扉をノックする。

 向こう側からどうぞという声が聞こえて、オレたちは校長室の中へ入った。


「ああ、やっと来たか……首を長くして待ってたぞ。イオナ=ピルグリム、それにダイン=アグナス」


 室内の最奥……テーブルの向こう側の豪奢な造りをした椅子に、コーネリア校長はどっしりと座り、オレたちに不敵な笑みを浮かべていた。

 その笑みが意味するところは何なのか。さあ、鬼が出るか蛇が出るか、だ。




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