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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
巡礼の支度 想造育成機関_アトモス学園
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9.戦いの後

「……ん……」


 目が覚めると、そこには知らない天井があった。

 ……白く清潔な天井。そこにはレールが取り付けられカーテンが吊るされている。

 どうやらここは医務室らしい。頭はまだ重かったけれど、オレ自身特に外傷は負っていないようだった。


「あら、目が覚めた?」


 声で気付いたのか、カーテンを開いて女性がこちらに近づいてきた。

 年齢からしても生徒じゃなく、職員の人だろう。

 つまり、医務室を任されているお医者さんか。


「はい……気を失ってたんですね、オレ」

「ええ。イオナちゃんと一緒にこの医務室に運ばれたんですよ。……私はリアム、アトモス学園の医療担当です。初日に新入生のお世話をするとは思わなかったけど、どうぞよろしく」

「あー……すみません」


 なるべく穏便に終わらせたかったけれど、もうどうにもなるまい。

 誰かに運ばれたのだから、オレとイオナちゃんの経緯は教官たちの知るところとなっているだろう。

 ……しかし、リアムさんの表情が和やかなのは少し救いに思える。

 もちろん、この人は生徒の評価に関わっていないから気にしていないだけなのかもしれないけれど。

 年齢は二十代前半か、若しくは後半にさしかかるくらいか。

 肩あたりまで伸びるコバルトグリーンの髪はふわりと自然にカールしていて、彼女が話す度微かに揺れている。

 銀縁の眼鏡を掛けているものの印象としては柔和な顔つきで、ふと目線を下へ向けると、その……結構豊かな胸をしていた。


「あ、今先生の胸見てたんじゃない?」

「うおっ」


 いつの間にか背後にイオナちゃんがいた。……何かニヤニヤしてるんだが。


「あのな……」

「ごめん、ごめん。私のときは見てなかったから、ちょっとね?」

「何だそりゃ」


 そもそもあの時は緊急事態で、彼女の容姿をまじまじと見る時間もなかったのだ。比べられても困る。

 改めて彼女を見ると、まあ……どちらかと言えば魅力のある体つきをしているとは思うけれど。


「ゴホン。それより、イオナちゃんはもう大丈夫なのか?」

「イオナで構わないよ。結構派手に飛ばされちゃったけど、幸い骨は折れてなかったみたい。治癒魔法をかけてもらって、もう元通り」

「そっか。それは何より」


 オレも治癒魔法をかけてもらったりしたのだろうか。

 とにかく、二人とも大事に至らなかったのは良かった。


「イオナちゃんから話は聞きました。魔物の襲撃で避難指示が出てたのに、彼女の後を追って来たんですってね。それで彼女の代わりに魔物まで倒しちゃったと」

「いや、自分の意思というより気付いたらそうなってたっていうか……はあ。魔物は他の人に任せて逃げてれば良かったかなあ」

「でも、格好良かったよ。ダインの能力」

「はいはい、ありがとな」


 少し照れ臭かったので、オレはあえて素っ気なく返す。

 そしてそんな心境は容易に見透かされてしまっているのだろう、イオナはくすくすと笑った。


「黒い霧を、操る? っていうのも不思議な力だけどね。心象世界がどう影響したんだろう」

「ああ、それは……」


 掻い摘んでだが、オレは自分が頻繁に見る悪夢のことを説明する。

 このことを話すと大抵は子どもかと馬鹿にされるものだけれど……イオナは最後まで真面目に聞いてくれた。


「へえ……難しい問題だね。同じ夢を、それも悪夢を見るなんて辛そう」

「もう慣れちまったけどな」


 それを強がりだと思ったのか、イオナは悲しげな顔をして、いつか治ればいいのにねと呟いた。


「……ところで、最終的に魔物はどうなったんです?」


 リアムさんに訊ねると、彼女は軽く頷いて、


「もう学園内の全個体を討伐し終えたみたいです。ダインくんが目覚める一時間ほど前だったかな、放送があって」

「一時間……って、オレあれからどれくらい眠ってたんだ……」


 医務室の壁面を見回してみると、掛け時計があった。時刻は午後一時を示している。

 入学式が行われたのは午前十時だから……二時間くらいは眠っていたことになるのか?


「仕方ないよ、初めてのイマジネートだったんだから。普段魔法を使うことすらないんだし、魔力の消費は激しかったはず。それに……」


 イオナは表情を曇らせる。……次に何を言うかは察せられたが。


「どうも心象世界が強力なもの過ぎて、暴走しちゃったみたいだし」


 やっぱり、あれは能力の暴走だったらしい。ああいう事態はたまに発生するものなのか聞いてみると、


「ううん……滅多にないとは思う。ただ、逆に考えれば凄い力を持ってるってことにはなるからさ」

「良い方に考えればそうだろうけど、なあ」


 万が一、毎度暴走するような能力だったらオレの手に負えない。宝の持ち腐れというか、そのせいでイマジネーターとしてやっていけなくなる可能性だってある。


「ま、能力の方に振り回されないよう、自分が強くなるしかないんじゃないかな」

「簡単に言うけどな。……ふう、それしかないのか」


 それは割とハードモードな気がする。


「しかし、もう昼ね……今日予定されてたことはどうなったんだろ」

「うん。私たちがここで休んでる間に、一通りのことは終わっちゃったみたい。施設案内に、お昼ご飯も」

「ああ……言われてみれば腹が減ってきた」


 なら、オレとイオナだけが案内を受けられなかったってことなのか。

 イオナはどうも学園のことを知っている風だし大丈夫なのかもしれないが、オレは右も左も分からない正真正銘の新入生、なんだよなあ。


「助けてくれたお礼とお詫びに、後で施設案内はしてあげるから。……でもその前に、一つだけ付き合ってほしいことがあって……」

「ん?」


 そこでイオナは言葉を切り、申し訳なさそうな困り眉になった。

 出来れば聞きたくないのだが……。


「私たち、コーネリア校長から呼び出しを受けちゃってるから……お願い、一緒に来て!」


 ……お願いって言うけどそれ、オレに拒否権ないだろ。


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