8.門を開く者
闇の帳が消え去って、元の世界が現れる。
気付けばオレの両手からブースターは消失していた。その代わりに。
「ダインくん、それって……」
「……なるほどな」
例えるなら、オレは闇を纏っていた。
あの扉から溢れ出ていた靄……それが濃度を増しオレの周囲に纏わりついている。
そしてどうやらこの黒い霧を、オレは自分の意思で操ることが出来るようだった。
――門を開く者、か。
自然と頭の中に現れた名前だが、どうやらそれがオレの能力名ということらしい。
「さて……」
一体この力で、どこまでのことを成せるのか。
まずは手っ取り早い運用法――この霧を直接敵にぶつけてみることにする。
「行け……!」
念じれば、ほとんどタイムラグもなく霧が飛んでいく。僅か一秒かそこらでガーゴイルの所まで辿り着いた霧は、ヤツに纏わりついて離れない。
しかし、単なる霧の状態ではダメージを与えられる代物じゃないらしい。あくまで霧は『ベース』であり、そこから変化を加えてやらなければならないのだ。
ならばとオレは、鋭い刃を追加でイメージする。
その想起に反応して、霧はすぐさま黒光りする刃を創り出した。
『オオォオ……ッ!』
霧から変化した刃は、見せかけだけではなくしっかりとガーゴイルの腕を斬り裂いた。
伸ばしていた右の腕がそのままスッパリと切断され、ゴトリと地面に墜落する。
ヤツの悲鳴とともに、緑の鮮血が迸った。
「強度も中々じゃねえか」
ならば、武器としてもっとそれらしい形状を基本にしておくのはアリかもしれない。
さあ、想造しろ。手に馴染む形を。
「……こんな感じで、どうだ!」
闇がオレの手元に収束し、そして剣の形を創り上げる。
黒く煌めく長大な両手剣――それを振るうオレは、さながら暗黒の剣士といったところか。
固定された剣はそれなりの質量で、ずしりと重みもある。
ただ、これも自分の意思である程度の操作が可能のようだ。
つまり、こういう使い方も出来よう。
「ふっ」
今だけ剣を軽くして、オレは軽やかに駆ける。
そしてガーゴイルの手前に霧を固めた足場をいくつか発生させて、頭上をとった。
勢いのままくるりと回転し、剣の切っ先をヤツの方へ向ける。
後は剣の重みを最大まで増加させてやれば――。
『グガアァアッ!!』
黒き剣は、スッパリとガーゴイルの体を両断した。
強靭な肉体も、まるでバターを斬るかのように。
断末魔の叫びを上げた後、ガーゴイルは左右に分離し崩れ落ちる。
そしてもう、再び起き上がることは無かった。
「……倒した、のか……」
実感はあまり無い。というか、事ここに至っても頭の整理が追いつかないのだ。
こんな展開になるなんて予想もしてなかったのだから、仕方ないことだろう?
……それでも、ああ。初めて使ったイマジネーターの力で。
オレはこの、危険な魔物を無傷で倒すことが出来たんだな……。
「ダインくん、凄いよ……!」
イオナちゃんが驚いた様子で、俺を見つめていた。
……そうだったな、今はこの子を救出するのが最優先だ。
覚醒させた能力に、称賛の言葉を貰えるのは確かに嬉しいが……彼女の苦しみを引き延ばすのはよろしくない。
魔物の気配はもうないし、医務室でも近くにあるならそこへ彼女を運ぶべきだな。
「というか、この能力を解除するのが先か……」
「あ……えっとね。まだブースターとの間に魔力の繋がりを感じてると思うんだけど、それを切るの。感覚的な説明だけど、分かるかな……」
「何とかしてみる」
戦闘による興奮状態からか気付かなかったが、結構体力を消費してしまっている。
息が上がっているし、視界も何だかぼんやりとしてきた……早く解除しないとまずそうだ。
「あれ、闇が――」
呆然とした表情でイオナちゃんが呟く。
……霞む視界の中、オレもそのことを何とか理解はしている。
霧が、際限無く増え続けているということを。
「く、そ……!」
頭が重い。
せっかくこんなに格好良く、魔物を倒せたっていうのに。
まさか自分の能力を、制御することすら出来ないってのか……。
「ダインくん、しっかりして!」
イオナの声が、何だか遠のいて聞こえる。
……それに、揺れ? 世界がぐらぐらと揺らいでいるような。
――嘘だろ。
もしも、オレの悪夢が全てイマジネーターとしての力になったとしたら。
この霧だけじゃなく、大地の鳴動すらも発現されることになって。
他にも、起きてはならないような事象すら、あの悪夢には。
「駄目だ……それ、だけは……」
この力が暴走しないようにと、オレはただそれだけを念じ続け。
「ダインくん――」
イオナちゃんの悲痛な声。
オレはそんな彼女に手を伸ばそうとし――そのまま意識は闇の中へ沈んでいった。
*
「…………の……がやはり…………。……易的に…………補強………おいたよ……」
夢うつつの中で、誰かの声が聞こえていた。
とても微かなもので、その内容を知ることは叶わなかったけれど。
「……は時間………………だ。結局………には、…………」
どこか、その声は。
懐かしい誰かの声に、よく似ていたんだ。




