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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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113.討伐目標・イレギュラー②

「……やあぁっ!」


 イレギュラーの攻撃を上手く躱し、ルカは即座にカウンターを叩き込む。

 動きが分かりやすいので、彼女もタイミングが掴めてきたようだ。

 強烈な右ストレート――ディオンさんの攻撃で焼けた部分にヒットした一撃は、外皮を破砕し血を噴き出させることに成功する。

 防御力の落ちた場所だとしても、拳であれほどの傷を付けるとは。戦いの中で成長している、ということか。


「……うーん、今のはそこそこ流せたかな?」


 ルカの呟きが聞こえる。

 流せたってマナのことだろうか。ってことはあいつ、やっぱりテルさんの浸透掌をモノにしようとしているみたいだぞ。


「フフ、良い試みですね……では私も、少しは見せ場を作らなくては」


 そう微笑してみせたメルシオネ教官は、イオナの魔法によって爛れた部位めがけて斬撃を放った。


「――五重刃ペンタ・ラミナ!」


 これまで見せた技よりも、分裂する刃の数が二つ多い。

 しかも、刃の一つ一つが対人戦で見せたものより大きめだ。出力次第で数、サイズともに幅を持たせられるのは便利だな。もちろん、増加するほど魔力を消費するのだろうが。


『****……ッ!!』


 無数の刃がイレギュラーの肉体を抉った。痛覚があるのか知る由もないが、あれだけの傷だ。かなり痛がっているように見える。

 そのすぐ後、


「……メルシオネ教官、危ない!」


 ルカの眼が何かを捉える。

 それは教官のいる場所へと集束していくマナに違いなく。


「ふっ」


 教官が飛び退いたのとほぼ同時くらいのタイミングで、その場所に無数の爆発が生じた。

 無属性のブラストと同程度の魔法か――イレギュラーが魔法を使うと準備動作が無いに等しく、反応が遅れてしまいそうだ。

 マナの流れを読むこと……特殊スキルでなくとも、経験を積めばある程度は出来るようになるものだろうか。なってほしいものだが。


「……貫け――ライトニング!」


 イレギュラーの動きが止まった瞬間を狙い、ディオンさんの魔法が炸裂する。

 空から落ち、貫くは強力な雷。一瞬で降り落ちたランク三の雷魔法は非常に高火力で、イレギュラーはしばらくの間ビクビクと痙攣し、身動きがとれなくなる。


「――ヴォルカン!」

「――スワール!」


 それを逃さず、イオナとフェイがそれぞれ魔法を撃つ。

 火と風の魔法がピタリと同じタイミングで放たれると、風の力で火が勢いを増して飛んでいく。あんな相乗効果も生まれたりするのか。

 炎が再びイレギュラーの身を焼き、また一つ大きなダメージが与えられる。いいぞ、かなり優勢になってきた。


「やれやれ、効くもんかな――氷弓」


 ここで、これまで様子見していたらしいエスカーも動いた。

 時間を掛けて準備していたため、手に持っている弓以外にも二本、宙に弓が浮いていた。

 あいつの能力も、使用者の手を離れて操作することが出来るのか……便利だ。


「はッ」


 手に持っている弓から矢を放つと、両サイドの二つも同時に矢が発射される。

 そして氷で出来た三本の矢が美しい軌跡を描いて飛び――イレギュラーの右脚付近の傷口にグサリと突き刺さった。

 その出血具合を見て、


「うん、まあまあだねえ」


 満足気にそう呟く。……やれやれ、こんなときでもマイペースだな。


『***……!』


 ぐらりと体の傾いだイレギュラー。しかし、倒れてはくれない。

 地面を染める出血の量はそれなりに多く見えるが、なにぶんスケールが違うのだ。

 まだまだ致命傷、というにはほど遠いのか。


「……おおっ?」


 イレギュラーは片膝を突くような恰好になったが、その動きに合わせて横ざまに腕を振るってきた。

 他のメンツはかなり後ろに位置取っていたので問題なかったが、オレは少し前で備えていたので慌てて後ろに下がる。

 敵も自身が不利になりつつあることで焦ってきたのか、強引にでも攻撃に転じようとしているようだ。


「……何だ? また手を伸ばして……」


 倒壊した建物はさっき投げつけてきたもの以外にはもう無い。

 だが、奴が投擲武器として使えそうなものは確かにまだあった。


 ――木か!


 奴はその太い腕でむんずと木を掴み、力任せに引き抜く。

 メキメキと音を立て、長さ五、六メートルはあろうかという木は土を撒き散らしながら持ち上がった。


「まずいな、それを使われ始めると……!」


 瓦礫はそれほど数があるわけではなかったが、木なら数えきれないほど存在する。ここは原生林の只中なのだから。

 つまり、イレギュラーが木での投擲を繰り返し始めたら、とても厄介なことになってしまう。


「早めに決着をつけたいところですね……!」


 メルシオネ教官も、これ以上の長期戦は危険と判断したらしい。

 攻めの機会を探るものの、得物があれだけ大きいと近づき辛そうだ。


「――刺突刃ペル・フォラル

 

 それでも死角に潜り込んだ教官は、また新しい能力で攻撃を仕掛ける。

 細剣を敵に当たる位置より手前で突き出したのだが、その刺突を魔力が拡大し何倍にも引き伸ばしたのだ。

 武器の攻撃範囲を拡大させるというのは、闘技であってもイマジネートの力であっても定番なんだろうな。

 教官の一撃によって、イレギュラーの左脚にはぽっかりと穴が開く。

 そこから多量の血が噴出し、大地を青黒く染めた。


『****……ッ!!』


 これで両脚に深い傷を負ったイレギュラー。いよいよまともに立つことが出来なくなり、両膝を突いて片手も地面に下ろした。

 ただ、先ほど引っこ抜いた木はまだ後生大事に持っている。そしてまさに、振り被って投げつけようとしていた。


「させないぞっ!」


 そこで走り出したのはルカだ。

 敵の動きが鈍重なため、その体を伝って木を持っている左手まで一気に上り詰める。


「……はあっ!」


 そして、イレギュラーではなく木に対して拳を突き出す。

 すると木は内部から爆発するかのように弾け、文字通り殴った箇所が木っ端微塵に砕け散ったのだった。

 浸透掌、この短期間で中々いいところまで習得出来てるんじゃないか、あいつ。


「よし――ぎゃっ!」


 喜んだのも束の間、得物を破壊されたことに怒ったイレギュラーが反対の手を振るってルカを叩き飛ばした。

 彼女はモロに直撃を受け、こちらへ飛んでくる。


「――っと!」

「痛ってて……あ、ありがと。ダイン」


 ちょうど直線上にいたので、オレは上手い具合にルカをキャッチ出来た。

 打撲の状態はどうかと心配になったものの、身体能力が強化されているからかそれほどダメージはないようだった。

 こんな華奢に見えるのに、大した防御力なことだ……って、まじまじ見てると怒られるな。


「ダイン、前!」

「え――?」


 ルカに注意されてハッと気付く。

 イレギュラーは既に次の攻撃準備に入っていた。

 再び手近な木に手を伸ばし、それを強引に引っこ抜く。

 音と振動とともに根が剥がされ、木は空中へと持ち上がる――。


「くそっ、やっぱり繰り返しになるか……!」

「みんな魔法を唱えてくれてるけど、攻めきれるかな……!?」


 ルカの言うように、後方ではイオナたちが今も魔法を詠唱している。

 そのうちフェイがまず詠唱を完了させ、


「――ブラスト!」


 無属性魔法を撃ったのだが、イレギュラーは手に持っていた木を盾にしてそれを防いだのだった。


「やっぱ、それなりに知能があるんだよな……!」


 続いてイオナも、


「――ヴォルカン!」


 火魔法を発動させたが、これも同様に防がれた。代わりに木はごうごうと燃え、イレギュラーはそれを取り落とす。


「また次に手を伸ばす、か……」

「どこかで攻め勝たなくちゃいけないんだけど……!」


 オレの腕の中で、ルカは悔しがる。

 攻めたいのは山々だが、相手の一撃を貰ってしまったら致命打になりやすいし、どうしても気軽にとはいかない。

 敵にそんなつもりはないのだろうが、結果的に長期戦コースに持ち込まれてしまっている……。


「――ヒール」


 攻撃魔法を撃ち終えたフェイが、隙を見てルカに回復魔法をかけてくれていた。

 フェイに感謝を告げたルカは、


「カウンターでも喰らわせられればなあ……」


 そう呟きながらゆっくりと立ち上がった。


「……カウンターか」


 実際、敵は一つ一つの動作に時間がかかるので、攻撃直後の隙は間違いなく大きい。

 むしろ攻撃を誘って、すぐ後に全力の攻撃をぶつけられれば大ダメージは期待出来そうだが。


 ――待てよ。


 敵の意識はもうほとんどこちらへ向いているようだ。

 高威力の魔法を連発していることと、さっき木を破壊したルカがこちらに来ていることあたりが理由か。

 とにかくヘイトは今、こちら側にある。

 ならカウンターは取りやすいんじゃないか……?


「けど、木は面倒だな……」


 ただでさえ敵の体格ゆえリーチが長いのに、武器になるものを持たれているとなお驚異だ。

 敵の意識を更にこちらへ向けつつ、なるべくその攻撃方法を限定出来るなら……。


「いいプランでも浮かんだ?」


 考え込んでいるのが見えてか、エスカーが軽薄そうな感じで飛んできた。


「あのな。……浮かんでないわけじゃないけどさ」

「ま、役に立てるなら引き受けるよ」

「はあ。どっちかって言うとおまえは囮っぽいが……まあいいか」


 囮役を誰にしようか検討していたので、今回比較的大人しくしているエスカーは考慮外だったものの、もう一手として活躍してもらうのは悪くない。

 結局、囮は前線で頑張っているルカと教官になるのが適切か。

 エスカーにはついでに、伝令役として動いてもらおう。


「別に難しい作戦じゃない。要は――」


 簡単に内容を説明すると、エスカーは大体そんなとこだと思ったよと余計な一言を口にしてから去っていく。

 ……まあ、勝ち筋としてはそれが順当だろうさ。

 後は実際に上手くいくかどうか、それに掛かっているだけだ。

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