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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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111.命の成れの果て

「凶悪な魔物を創り出した、だって……!?」


 そんな悍ましい技術をこいつらは有し、あまつさえ行っていたというのか。

 自分たちの生まれでない場所で、且つその場所を支配するために……。


「なあ、だったらこの音と揺れ……」


 テッドくんが不安げな顔で、誰にともなく問いかける。


「はい、彼らの造った魔物は既に放たれ、里を襲いに向かっているのです……!」

「ま、まずいですよそれ!」


 テルさんが声を上ずらせる。

 アンパッサの里が魔物に襲撃されようとしているなどと聞けば、焦るのは当然のことだ。

 オレも体から嫌な汗が出てくるのを感じていた。


「ハハハ、俺たちに構っている暇などあるまい? 急げば間に合うかもしれんぞ……アレを倒せればの話だがな」


 だから、この男はこんなにも自信に満ちた表情のままでいたのか。

 戦いに負け、捕まってしまっているにも拘らず。


「急いで里に向かわないと……!」

「ただ、バランくんやディオンさんのこともありますし、拘束した彼らの処置も考えなければならないかと」

「……ですね。すみませんが、里の方は任せても? 俺なんかより、皆さんの方が戦闘能力は高いので」

「それは謙遜でしょうけど……分かりました。アンドルーさんへの報告も、テルさんにしてもらう方が良さそうですし」


 短い時間での話し合いの結果、里に向かうのはオレたちとメルシオネ教官、街へ戻るのはテルさんとバランたちという別れ方になった。

 ちょうどさっきの戦闘と同じ具合だ。

 ディオンさんは体力を消耗していることもあるし、テルさんたちに付いて行くと思ったのだが、


「私も里へ向かわせてください。これでも魔術師と呼ばれる身……戦闘の補助くらいは出来ますし、先の失態を取り返したいですから」

「我々はありがたいですが、テルさんは構いませんか?」

「ディオンさんが行きたいということなら、あえて止めたりはしませんよ。アンドルーさんにはちゃんと報告しておきます」

「ありがとうございます、テルくん」


 というわけで、ディオンさんはオレたちと里へ来てくれることとなった。

 後のことはテルさんたちに任せ、オレたちはすぐに施設を飛び出す。

 ここまで届く音と振動なのだから、現地ではよほど大きな衝撃が起きているはず。

 既に魔物が暴れ、家が破壊されていたり、住民に被害が出ているかもしれない。

 一刻も早く駆けつけ、討伐しなければ。


「……先ほどの話の続きなのですが」


 原生林の中を走り抜けながら、ディオンさんが口を開く。


「彼らはこの国ではあり得ない技術力を有していました。まるでロウディシア……貴方がたの技術に近しいものを」

「……ええ」

「だからこそ一度確認しておきたい。貴方がたは、彼らのことを何かご存知なのではありませんか?」


 なるほど、ディオンさんの疑問は尤もだ。

 特に彼は革新派のリーダーの息子であり、生まれたときから既にエイヴスから離れて大海を彷徨っていたわけで。

 革新派が新天地を見つけられなかった過去から、異国などそんなに幾つもあるものではないという考えを持っているのだろう。

 ゆえに、あの謎の男たちもまたロウディシアの人間なのではないか……そう疑るのも、無理からぬ話なのだ。


「残念ながら、我々も彼らが何者なのかはさっぱり分かりません。技術力という点では実際、ロウディシアと同等かそれ以上の水準だと驚かされました。ただ、あんな研究をしている組織など聞いたこともない……」

「そうですか……彼らは、何者なのでしょうね」

「異国、という推測は的外れでないように思えますが……」


 メルシオネ教官も当然、迂闊なことは言えない。

 自分たちもまた、あくまで異国から来訪した存在という体になっているのだから。

 ロウディシアの方針でワールドスクリプト内の世界に真実を伝えないとしている以上、異世界について漏らすわけにはいかないのだ。


 ――オレたちと同レベルの技術を持つ集団、か。


 もしかしたら、ロウディシアで秘密裡に活動している悪の組織みたいなものが、存在するのだろうか。

 そんな組織を仮定すれば、まあ辻褄は合うのだけれど……。


「もうすぐ、アンパッサの里ですね……!」


 ディオンさんの声に、オレは考え事を中断する。

 今は目の前の問題……里を襲う魔物に集中しなくては駄目だ。


「……煙!」


 ルカが慌てて前方の空を指差す。

 言われて視線を向けると、木々の合間から黒煙が立ち上っているのが見て取れた。

 音や振動が届いた時点で望みはほぼ無かったが、やはり被害が出るのは防げなかったか……!


「あそこ、里の人たちじゃないかしら!」


 フェイの言うように、里の入口から逃げ出しているエルフたちの姿が確認出来た。

 もうすぐそこだと、オレたちは全速力で駆ける。


「皆さん、ご無事ですか!?」


 近くまでやって来たエルフの男性に、ディオンさんが声を掛けた。


「ああ、あんたはディオンさんか! 私や家内は逃げて来られたが、まだ里を出られていない者もいるんだよ……!」

「何があったんです」

「私らにも分からん! ただ、見たこともない魔物が突然里で暴れ始めたんだ……!」


 男性が嘆くように声を上げた途端、里の方から大きな衝撃音が響いた。

 その音に驚き、男性は話を切り上げ逃げていってしまう。


「あっ……」

「逃げられた人のことは構わず今は里の中へ行きましょう、ディオンさん!」

「――そうですね……!」


 メルシオネ教官の一言で、ディオンさんは気持ちを切り替える。

 逃げた人は助かったということ。まだ逃げられていない人をこそ、救い出さねばならない。

 オレたちは入口を抜け、里の中へ入る。

 その間にも、何人かのエルフとすれ違った。

 無事な人もいたが、体のどこかに傷を負っている人もいて、状況が深刻なことを嫌でも知らしめられる。

 この元凶である魔物は、里のどこにいる――?


「うわっ!」


 再び、音が轟く。

 今度は強い振動も同時に感じた。

 もう発生源は近い……もう少し奥の方からだ。


「あ――」


 前方にはまだ、平屋建ての家が一棟建っていた。

 しかし、その家よりも大きな何かが……蠢いていた。

 ソレは、緩慢な動きで家の方へ近づくと。

 巨大な拳を振り下ろし、一撃で家を全壊させてしまったのだった。


「な、何だよそれ……滅茶苦茶だろ……!」


 オレたちがこれまで相手にしてきた魔物とはまるで比べ物にならない。

 もしかしたらこいつは上級――いや、悪魔級にすら届くレベルの魔物なんじゃないのか?

 そう怖気づいてしまうほど、眼前に姿を現したその魔物は凶悪そのものの雰囲気を放っていて。

 そして――。


「……そんな……!」


 メルシオネ教官の表情が驚愕に凍り付く。

 教官は、魔物の大きさに驚いているのではない。恐らくこの人なら、同レベルを相手にした経験もあるだろうから。

 問題は――最重要の問題は、そいつが正しくは魔物ではない別モノだということ……!


「これは……()()()()()()です!」

「ウソ、何で!?」


 アンパッサの里を襲っているこの巨大な異形は、イレギュラーに相違なかった。

 初めてエイヴスへ遠征に来た際戦ったのと同様の見た目……禍々しい気を纏い、ニンゲンの形を真似たような、けれど歪な姿をしている。

 大きさは二回りほども違ったが、誤認するはずもない。こいつがイレギュラーだというのは、誰の目にも明らかだった。


「あいつらが、イレギュラーをけしかけたってことだよね……!?」

「だろうけど、それってさ……」


 ルカが問いかけるのに、エスカーは眉をひそめながら、


「あいつらがそれを造ったってことだよね」

「……まさか」


 ……イレギュラーという存在について、学園でジャンヌさんはこう語っていた。

 あれらは全て、元は何らかの正常な生命体だったものだ、と。

 そして謎の四人組が、古典派のエルフも含めて様々な生命を弄び、そして造り変えたものがアレだという事実。

 つまり、あの男たちがイレギュラーを造り出した……!?


「そんなこと、有り得るのかよ!?」

「さあ……でも、目の前にいるのは確実にイレギュラーだよね?」

「それは、そうだけど……!」


 信じられない、というより信じたくなかった。

 人間が、こんなバケモノに造り変えられてしまうだなんて。


『*******ッ!!』


 ひとしきり暴れ、破壊衝動を滾らせているイレギュラーは、新たな対象を見つけて咆哮を響かせる。

 その対象とはもちろん、オレたちだ。


「く……っ!」


 気持ちの整理は落ち着かないが、そんなことは言ってられない。

 イレギュラー問題の解決もオレたちの大切な任務なのだし、ここで絶対にこいつを倒さなければ。


「皆さん、戦闘準備を! 総力を挙げてイレギュラーを討伐します!」

「はい!」


 メルシオネ教官の号令に、オレたちは声を張り上げて返事をする。

 そして各々の能力を発動させ、戦闘態勢に入った。


「……行きますよ!」


 それを合図に、戦いの火蓋が切られる。

 この異形を倒す。たとえそれが、元は人間だったものだとしても――。

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