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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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108.革新派の潜伏地

 ……もうどれくらい奥へと潜ってきたのだろう。

 クレイス原生林を北上した深部。木々の密度はどんどんと増し、午前中だというのに陽の光はほとんど遮られてしまっている。

 樹海というのはまさにこういう場所を言うのかもしれない……などとオレは心の中で思った。


「疲れてきちゃったな……」


 アーテミーの街を出てからは、かれこれ一時間以上歩き続けている。アンパッサの里への分岐路はとうに越えており、先に広がるのは未知の地帯だ。

 今しがた疲れを口に上らせたエレンちゃんをはじめ、女性陣には多かれ少なかれ疲労の色が見え始めている様子。

 ただでさえ歩きにくい森の中なので、足に疲労が蓄積するのは致し方ないことだろうな。


「でも、マナの痕跡がかなり強まってる。もうちょっとかも」


 ルカがそう知らせるのに、他の皆は安堵の息を吐いたり、ようやくかと気怠げに呟いたりする。

 しかしまあ、ルカは能力を適宜発動させて移動しているわけだから、本当にお疲れさまだ。


「あ……! 皆さん、あれを」


 少し進んだところで、テルさんが抑え気味に声を上げ、前方を指差す。

 その指し示す先には、既にボロボロになった廃墟のようなものがあった。


「相当古い建物の跡……もしかして」

「革新派がかつて住んでいた集落……だと思いますけど」


 テルさんは口元に手を当て、


「変ですね……ここを拠点にしてるわけじゃないんでしょうか」


 確かに、ここが拠点というなら廃墟になっているのはおかしい。

 こちらは彼らが新天地を目指すより前の仮拠点で、帰還してからはまた別の場所で生活を始めたとかだろうか。

 けれど、ルカはマナを辿ってここまでやって来たのだ。

 少なくともディオンさんは、この廃墟の方に連れて来られているはず……。


「ひょっとして、罠だったり?」


 エスカーの言葉にテルさんはううむと唸り、


「ディオンさんが痕跡を残していたのに気付かれたのかも。相手もエルフ、魔力の感知は得意でしょうし……」

「その上で、拠点ではない方へ誘いこんで待ち伏せしている……可能性はありそうですね」


 メルシオネ教官もその仮説に同意する。

 もしも待ち伏せ説が正しいなら、ここから先には細心の注意を払って踏み込まねば危険だ。


「相手がいつ襲ってきても反撃出来るよう、常に警戒しながら進みましょう。ここで退くわけにもいきませんから」

「はい……しっかり気を付けます」


 ここから先は、メルシオネ教官が先導するかたちで奥へ向かうことになり、オレたちは教官の後に付いた。

 ルカの限定スキルは引き続き活用し、ディオンさんのマナを追跡し続ける。


「……この廃墟、いつの時代のものなんだろ」

「何年前、とかじゃなさそうだよな。何十年も前に放棄された感がある」


 建物を見やりながらイオナが言うのに、オレはそう意見を返す。


「旅に出る前に仮拠点を作ってた、かあ。……ううん、ディオンさんはそんな話してなかったけどね」

「あの人は旅に出た後で生まれたって言ってただろ。ここの存在は知らなかったのかもしれない」

「なのかな。まあ、知ってても言う必要まではないって思ったかもしれないか」


 何せ、既に再建不可能なほど風化した建物跡だ。

 知っていても、その存在について話さずとも構わないと判断するのは変ではないだろう。


「おや……?」


 そのとき、メルシオネ教官が怪訝そうに呟いた。

 何だろうと教官の見ている方へ視線を向けると、そこには。


「……え?」


 思わずオレも呆けた声を上げてしまった。

 廃墟が並び建っていた一帯の奥に、これまでとは明らかに異質なものが存在していたのだ。


「何だ、これ……」

「……何かの、施設?」


 そう、フェイが口にした施設という単語が適切なように感じられる。

 オレたちの目の前には、真新しいコンクリート造の建物が佇んでいたのだった。


「テルさん。革新派のエルフがこのような建物を造ると思えますか?」

「個人的には、ノーですね……何なんでしょう、これは」


 突如として現れた怪しい建造物に、全員が等しく困惑する。

 森の奥深く……大自然の只中にあるのはあまりに場違いなもの。


「正直なところ、アーテミーでもここまでの建物はそうありません。そもそも、こういった建材はロウディシアの方々と交流するようになってから用いるようになったはずですし……」

「森に潜んでいたはずの革新派エルフたちがそれを調達し、ここまで立派なものを建てるというのは……奇妙に思います」


 テルさんとメルシオネ教官がそれぞれ考えを述べる。

 奇妙……その言葉が全てだ。

 どうしてこんなところに、こんなものが。


「ルカさん、マナの痕跡は」

「は、はい。あの建物の中に続いてます」

「……やはり、そうなりますか」


 メルシオネ教官はやれやれと息を吐き、


「嫌な予感しかしませんが……行くしかなさそうだ」


 この建物が革新派のアジトなのか、或いは別の何かなのかは分からない。

 けれど、ディオンさんがこの中が連れ込まれているなら、オレたちは進むだけだ。

 ディオンさんを……そしてバランを救出するために。

 意を決し、オレたちは廃墟の中へ侵入する。

 慎重に、堅実に。敵の襲撃を念頭に入れながら、歩を進める。


「……内装を見ても、アーテミーと同等かそれ以上の技術で造られていそうです」

「あのような電灯、確かに街では見かけませんでしたね」


 細長い棒状のライトが天井に取り付けられ、建物内を照らしている。

 教官の言うように、あれはむしろロウディシアでよく見られるような代物だと思う。


「この廊下は中央を貫いていて、各部屋に繋がっている感じですね。左右に扉が幾つもありますし」

「ガチャって開いて襲って来たらやだなあ……」


 エレンちゃんがビクビクしながら言う。ただ、幸いどの扉も開く気配は無い。

 近くには人の気配が感じられない、というか。


「どうも、怪しいのはあそこのようです」

「ええ。オレもそう思います」


 微かな気配は、伸びた廊下の一番奥……突き当りにある扉の先から。

 ルカも、ディオンさんの痕跡がその向こうへ続いているのを感知しているようだった。


「……皆さん、準備はいいですか?」


 メルシオネ教官が確認し、オレたちは静かに頷く。

 この扉を開いた瞬間、敵から攻撃を受ける危険性が最も高い。

 最大限の警戒をして、踏み込む必要があった。

 教官の合図で以て、オレたちは一気に扉の向こうへ突入する算段をする。

 各々深呼吸をしたり腕を伸ばしたりと気持ちを整え、その瞬間を待った。


「……行きます」


 宣言とともに、メルシオネ教官は勢いよく扉を開け放つ。

 そしてオレたちは部屋へ雪崩れ込み、まとめて襲われないよう左右へ散開した。


「――来たか」


 広く、飾り気のない部屋。

 その奥から声がして、部屋全体に響き渡った。

 オレは正面を見据える。そこには、フード付きのローブを身に纏った男女が四人。

 そのうち中央の一人……恐らくはリーダー格がディオンさんを拘束し、反対の手に短刀を握り締めているのだった。

 

「そろそろだと思っていた」


 やはり待ち伏せされていたらしい。だが、急襲してこなかったのはどういう訳か。

 まさか、しなくても問題無いと余裕満々の考えでいたとかじゃないだろうな……?


「……貴方たちは革新派のエルフですね? 何故ディオンさんを連れ去ったんです」


 まず問いを投げかけたのはテルさんだった。

 しかし、ローブの男たちは彼の質問に答えようとしない。

 僅かだけ覗く口元に、気味の悪い笑みを張り付けているだけだ。

 まるでオレたちの気持ちを逆撫でするように。


「テルさん、彼らは――」


 男たちに代わって答えようとしたのは囚われのディオンさんだった。

 ただ、それ以上を言う前に首の後ろへ手刀を当てられ昏倒してしまう。


「くっ……卑怯な」

「ハハ……どうとでも言うがいい」


 奴らの目的は何なのだろう。

 ディオンさんを人質にとっている以上、それを交渉材料に何らかの要求をしてきそうな気はするが……。


「我々の目的は唯一つ」


 男はニヤリと下卑た笑みを浮かべ――そしてこう言い放つ。


「世界を支配することだ」

「何……!?」


 エイヴスを……支配する?

 まさか、そんな酔狂な野望を告げられるとは予想していなかったので、オレたちは一様に驚愕した。

 ヒトとエルフの共存を拒絶するとか、そういう方向性ではないのか。

 エイヴスを支配するだなんて、大きく出たものだ……いや、笑いごとではないのだが。


「そ――そんなこと、出来るわけがないでしょう! 無茶苦茶過ぎる」

「フ……無茶かどうかは、やってみなくては分かるまい?」


 あくまで余裕の表情を崩そうとしない男たち。

 正直オレも荒唐無稽としか思わないが、話のペースは彼らに持っていかれている感じがして嫌な気分になる。


「さて――」


 男がディオンさんを連れたまま、こちらへ近づいてこようとする。

 するとその直後、


「――氷刃」


 いつの間に準備していたのか、オレたちの背後に隠れるようにしていたエスカーが、氷の刃を飛ばし正確に男の短刀を弾いた。


「っと……!」


 その隙を逃さず、メルシオネ教官がディオンさんの奪還へ動く。

 ローブの男たちは攻撃体勢に入ったが、オレたちも遅れをとることなくイマジネートを発動させて牽制した。


「人質は返していただきます」


 素早く男の懐へ潜り込む教官。そのままディオンさんを掴むと男へ蹴りを見舞う。

 男もそれを受け止め拳を返すも、教官はひらりと身を躱す。

 ほんの数秒の間にそんな攻防が複数回続き、最終的に教官はディオンさんを抱えたままこちら側へ後退することに成功した。


「助かりましたよ、エスカーくん」

「なに、相手が隙だらけだったもんでね」


 エスカーは大したことないと笑う。

 隙があると確信しても、こういう場面で攻撃に転じるのはかなり勇気がいることだと思うけどな。


「……面白い技を使うじゃないか」


 男の表情は未だに笑顔だったが、その声は微かに震えている。

 今のは手痛い損失だったのに違いない。よくやった、エスカー。

 ……とにかくこれで均衡が崩れた。人質というアドバンテージが無くなった以上、相手のとる行動はきっと。


「生きて帰れると思うなよ!」


 ……そら来た、こういう展開になるに決まっているんだ。


「ここからは危険な戦いです。自分の身を一番に考えつつ、目の前の敵に対処を!」

「了解です!」


 メルシオネ教官の号令で、オレたちは戦闘態勢に入る。

 相手の力は不明だが、こちらの人数は倍以上。落ち着いて対応することを心掛ければ、制圧は十分可能だろう。


 ――イレギュラー退治に来たはずが、悪の組織と戦うことになるとはな。


 心の中にそんな感想を抱きつつ、オレは剣を握り――そして、戦いが始まった。


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