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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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107.原生林の深くへ

 クレイス原生林の中を進んでいくオレたち。イレギュラー退治のときも含めるともう三度ここへ来ているし、心なしか景色に見覚えのあるところが増えてきた。

 ただ、どこを見ても大木、また大木というあまり代わり映えしない眺めだし、気のせいかもしれないが。


「んー……こっち!」


 目印となるマナの痕跡を捕らえ、ルカがそちらを指差し進む。

 他のメンツは彼女の示すままに付いて行くしかない。頼みの綱だ。


「恐らく、革新派の拠点は森の北側にあるんでしょうね」

「エイヴスの地理を考えると、大雑把にはそうなるかと」


 テルさんの予想に、メルシオネ教官は同意する。

 この大陸の全容までは掴めていないが、エイヴスは小島といっても過言ではない程度の面積と思われる。

 その島の中でアーテミーは南東に位置しており、アンパッサの里は西側。とすると、革新派が潜伏している場所はそれ以北の可能性が高いわけだ。


「アンパッサあたりまではまだ、人の通行で地面が踏み固められて道のようになっているところはありますが……北は本当に道なき道って感じになってるんですよ。なので気を付けないといけません」

「ひえー、迷ったりせんか心配やわ……」


 エステルちゃんが辺りをキョロキョロ見回しながら呟く。

 今のうちにせめて一つでも目印を見つけておきたい、なんて考えているのだろうか。


「そうそう、ここから少し東へ逸れると、ダインくんたちにお話しした蒼の遺跡があるんです。位置関係としては、ちょうどアーテミーとアンパッサの中間くらいになるかな……」

「へえ……もっと街寄りにあるかと思ってましたけど、中間なんですね。確かに利便性も良くは無さそうだ」


 テルさんが教えてくれるのに、オレはそう感想を述べ、隣にいたイオナは、


「どうして街と里の間にあったんだろ?」


 と疑問を投げかけた。


「まだヒトとエルフの関係性が悪化するよりも前からあった祭壇らしいんですが、過去の記録から推察すると、当時のエルフも同じ神様を信仰していたようなんですよ。豊饒の神様ですし、そりゃあエルフの人たちも祈りたいでしょう」


 なるほど、それもそうだ。

 作物が沢山採れてほしいと思うのはアーテミーの人たちだけなはずがない。

 エルフ族だって、如何に自然と寄り添って生きているとはいえ、豊作は望みたいことだろうから。


「ちなみに、神様の名前って聞いていませんでしたけど……何て言うんです?」


 ……もしかしてイオナ、神様の名前が『イオナ』かどうかが気になっているのか?

 よくよく考えてみると、異世界における信仰ってどんなものかまるで未知数だ。

 もしもここで女神イオナです、なんて答えられたら、どうして一緒なんだと驚いてしまうところだが……。


「ええと、今じゃほとんどの人が知らないみたいで。文献を読み込んでるアンドルーさんが言うには、ラマンかルマンっていう名前の神様なんだとか。はは、お祭りで豊作を祈るんだから、名前は知っておいた方がいいんでしょうけどね」


 ロウディシアと同じく女神イオナを信仰している、なんてことは無かったようだ。

 何故だかそれを聞いてオレはホッとした。……本の中の世界と信仰が同じってのは、何かが変だもんな。

 しかし、名前も忘れられてるだなんて不憫と言うか……信仰、形骸化している感があるよなあ。

 あくまで部外者の感想なので、それを良しとしてきたならそれもまた文化、としか言いようがないけれど。


「……皆、気を付けて」


 先頭を歩いていたルカが、腕を水平に伸ばしてオレたちを制止する。

 今、マナの流れを最も敏感に察知しているのがルカだ。

 そんな彼女が気を付けてというのなら。


「魔物だな」

「うん。数はそんなにいなさそうだけど」


 ルカが言い終わらないうちに、茂みがガサガサ音を立てるのが聞こえてきた。


「魔物はマナを求めるもの。ディオンさんの痕跡に釣られたのでしょう」

「まあ、こればっかりは仕方ないねえ……」


 メルシオネ教官の説明に、エスカーが緩々と首を振りながら呟く。

 やがて枝葉の擦れる音が一段と大きくなると、左右から獣型の魔物が現れ出た。

 こいつらは、イレギュラー退治のときにも遭遇したダークウルフだ。数は三匹、前回のことを思えば大した敵ではないだろう。

 革新派のアジトへ乗り込めば戦闘は必至だろうし、ここで肩慣らしをしておくのも悪くはない。

 一丁やってやりますかとイマジネートを発動――させようとしたところで。


「皆、ここは拙者たちに任せてくれぬか」


 そう切り出して前に進み出たのはサラル。そしてテッド、エレンちゃん、エステルちゃんも後に続く。


「ご迷惑ばかりかけたので……露払いくらいは」

「あと、ちょっと体鈍ってるんもあってなあ。動かしたいんよ」

「そうそう、やっぱ運動しないとさ!」


 ……多分、後半の台詞が正直な気持ちなんだろうな。

 丸一日捕えられていて、彼らも鬱憤が溜まったことだろうから。


「ふふ、そういうことならお任せしましょうか」


 メルシオネ教官も彼らの気持ちを察し、この場は任せることを決める。

 教官がそうするなら、オレたちも大人しくしているべきだな。

 バランチーム――リーダーは不在だが――のお手並み拝見といこう。


「よっし、行くぞお!」


 言うが早いか、まず動いたのはテッドくん。

 自慢の斧を具象化させ、ウルフの群れに突っ込んでいく。

 結構危なっかしいのだが、あの突撃に作戦などはなさそうだ。

 とにかく敵を叩き割る。そんな勢いを感じさせる突っ込み方だった。


「もう、テッドくんたら……」


 エレンちゃんもそんな風に呟きながら、能力を発動させて支援に入る。

 テッドくんの側面から攻めようとするウルフを一匹、透明な壁で上手く弾き返した。


「ていやっ!」


 ともすれば自身が振り回されそうな大きさの斧を、テッドくんは全力で振り下ろす。

 その威力は抜群で、正面にいたウルフは避けること叶わず、縦の一閃でバッサリと両断された。


「よっしゃ――っと!?」


 一匹を倒して喜んでいるところに、別のウルフが飛び掛かってきていた。

 あわや噛みつかれる――という瞬間、


「――ペイント:グリーン!」


 エステルちゃんの能力で風の弾丸が生じ、間一髪のところでウルフを吹き飛ばした。


「危ない、危ない。気ぃつけてや、テッド」

「ゴメンゴメン! ふー、助かった」


 テッドくんはエステルちゃんに感謝しつつ、体勢を整える。

 吹き飛んだウルフもくるりと回って脚から着地し、再びテッドくんを狙った。


「――パワーゲイン」


 テッドくんの体にほんのりと赤いオーラが浮かぶ。どうやらエレンちゃんが補助魔法を使えるようだった。

 攻撃系はエステルちゃん、支援はエレンちゃんできちんと役割が分かれていて良いバランスだな。


「うおおーっ!」


 渾身の一振り。それをダークウルフは器用に刃へ噛みついて受け止める。

 防がれたか、と思ったのだがテッドくんはまるで意に介さず、何とウルフが先端に嚙みついたままの斧を地面に振り下ろした。

 その衝撃に枝葉と土埃が舞い上がり、轟音が響く。

 視界が晴れた後には、やり遂げた表情で立ち上がるテッドくんと、頭部が真っ二つになったウルフの死骸が。


「流石でござるな。では拙者も――」


 テッドくんの雄姿を見届けたサラルが呟き、最後の一匹に狙いを定める。

 その構えは静。暴走するようなテッドくんの戦い方とは対照的だ。


『グルル……』


 ウルフの方も少し様子見をしていたものの、耐えきれなくなったようでサラルに向かって駆け出す。

 恐らく群れのリーダーだったのか、体格もスピードも他より上だ。


「……ふう」


 サラルは向かってくるウルフを前に、ゆっくりと息を吐きながら目を閉じた。

 危険なようにも思えるが、あえて視界を閉ざすことによって感覚を研ぎ澄ませている――のだろうか。

 イザヤ流。オレは昨夜その技の一つを学んだとはいえ、まだ入口に立っただけのようなもの。

 その真髄はきっと奥深く、理解に至るのはとても困難な道のりに違いない。


「――居待いまち


 ウルフが鋭い爪でサラルを引き裂こうとした、刹那。

 サラルは僅かに体を後退させ、まさに紙一重で攻撃を躱し――そのまま目にも止まらぬ速さで刀を振り抜いた。

 美しい、と形容したくなるような、最速かつ最小のカウンター……これが居待という名の闘技。


「御免」


 するりと刀身を鞘に納める間に、ウルフの体は切断面から緩やかにズレていき……上半分からぐしゃりと地面に崩れ落ちた。

 ……最初から最後まで、何と言うか……様になっていたな。


「っしゃ、これで全滅だな!」


 最後の一匹が倒れたのを見て、テッドくんは力強くガッツポーズをした。

 そこへ全員が集まっていき、お疲れ様と互いを労い合う。

 こうしてみると、チームワークは上々に見える。この上でリーダーもきちんと連携出来ればいいんだろうけどなあ。


「ふふ、お見事でした。皆さん、低級の魔物なら難なく倒せるレベルの強さですね」

「ありがとうございます。まだまだ実戦に恐怖はありますけど……」


 エレンちゃんはそう言い、けれど緩々と首を振って、


「……強くなって、沢山の人を護れるようになりたいですから」


 と、自身の目指す先を語るのだった。

 やはり誰かを、何かを護るのがイマジネーターらしい夢だよな、とオレも思う。

 彼女の場合、聖職者としての教えなんかも影響していそうだが。


「ま、ともかく魔物は倒せたわけやし。さっさと進もうや」

「そうしましょう。いやあ、頼もしい限りですね」


 テルさんは心の底からそう思っているように笑顔で言う。

 事実、この世界に無い力を持つ戦闘員がこれだけいるのだから、ほとんど子どもばかりといっても頼りにはしてくれているんだろう。


「じゃ、追跡続けるよー」


 ルカがオレたちに告げて、またマナの痕跡を追っていく。

 そうして一同は、原生林の更に奥深くへと入り込んでいくのだった。

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