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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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104.明日のために研ぐ刃②

「……でも、お前の剣技はお世辞抜きで見事なもんだったと思うぜ。本気でやったら敵わなさそうだ」

「フ、世辞でも嬉しいぞ。この剣術にもイザヤ流という名が付いていてな。闘技として広く浸透しているでござるよ」

「へえ……イマジネーターになってから学ぶことだらけだ」

「ダイン殿も能力を剣として扱うことが多いのだろう。少し、イザヤ流の闘技を見ていかれるか?」

「え? 構わないなら教えてもらいたいけど……」


 そういうものってあまり人に教えないものじゃないのかな、とは思っていたけれど、そこまで縛りがあるものじゃないのかもしれない。

 さっき広く浸透しているとも言ってたしな。


「せっかく同じ学び舎にいるのだ。互いに見て学び、研鑽する。それが良いでござろう」

「……違いない」


 そう言うからには、オレもそのうち何かを返せればいいのだが。

 自分の能力は多分、独特過ぎるものだからなあ。


「イザヤ流の戦士――武士と呼ぶのだが、その者たちが主に使う武器がこの『刀』でござる。通常の剣とは違い片刃になっていてな、これは刀身に重みを持たせることで斬撃を強力なものに出来る利点があるのだとか」


 鞘から刀を抜きつつ、サラルは説明を始める。


「確かに、細身の割には重そうだし、何と言うか……綺麗だよな」

「うむ、見た目の美しさも刀の良いところだ」


 月夜に光る刀身。さっきもその軌跡に見惚れたが、幻想的にさえ思える煌めきだ。


「ゆえにであろう、この刀を用いたイザヤ流の闘技は、全て月に準えた名が付けられている。たとえば――」


 そこまで言うとサラルは刀を構え、静かにまぶたを閉じた。

 薄っすらと、魔力を練る気配がする。


「――ふっ」


 サラルが刀を振り下ろすと、その刃先から白き斬撃が迸る。

 彼の立っている場所から恐らく十メートルほどその斬撃は真っ直ぐ飛び、浜辺に寄る波を僅かに斬り裂いた。


「……魔力を込め、斬撃をそのまま離れた場所まで飛ばす闘技。これは『孤月こげつ』と呼ばれている」

「孤月ね……」


 どうやら物悲しく見える月、という意味があるらしい。

 なるほど、描く軌跡は三日月よりもう少し細めで、まだまだ満ち始めの寂しい月と言えるかもしれない。


「魔法とは区別される闘技であるが、やはり基本は魔力を利用するもの。マナを操るのが難しい者にとっては、闘技もまた難しいであろうな」

「オレは大丈夫……と思いたいけどなあ」


 イマジネートは問題なく出来ているし、魔法もキャスパー教官にまずまずと言われるくらいは扱える。

 ただ、それでも得手不得手はあるんだろうが。


「何であれ、肝要なのはイメージでござる。魔力を刃のように研ぎ澄ませ、得物よりも遠くまで一息に斬るイメージ……試してみるといい」

「ああ、やってみる」


 そう、イマジネーターというくらいだ。想像し、創造する力が何よりも肝心。

 能力を発動し、黒霧を剣へと変えたオレは、それを強く握り締める。

 研ぎ澄ませた刃。振り抜いた剣が、遠く先まで一刀両断する――その光景を思い描いて。


「――はあッ!」


 振り下ろす剣の先。

 黒き斬撃が静かに伸び……そして海へと届いた。

 さっきサラルが見せてくれたように、斬撃は確かに波を斬り裂き、それから消えたのだった。


「……見事だ」


 サラルが呟いたその一言は、心からの称賛に思えた。

 真剣そのものといった表情でこちらを……というより消えゆく斬撃を見つめていたから。


「よもや、理屈を伝えただけでこれほど完璧にやってのけるとは……驚いた」

「いや、はは。オレの能力は基本何にでも変化させられるっぽいし、見た目だけかもしれないけどさ」

「波を斬り裂いていたのだから、見掛け倒しというわけでもなかろう」


 ……まあ、あれはちゃんと斬撃そのものが延長されていたように見えた。

 ガワを取り繕っただけじゃなく、中身も伴っているのなら十分通用するか。


「黒き斬撃、か。それもまた美しいものでござるな」

「オレの能力じゃ何でも黒にしかならねえけどな。……サンキュ、サラル。この闘技、練習して実戦でも役立てていくとするよ」

「そうしてくれると本望だ。……して、ダイン殿」

「ん?」

「その技の名を何とする?」


 技の名って、孤月じゃないのかと首を傾げたのだが、


「ダイン殿の孤月はイマジネートの影響を濃く受けているのでな、独自の呼称を定義しても良いのではないかと思った次第だ」

「ううん……独自の呼称ねえ」


 実際、この斬撃の色はオレにしか出せないものかもしれない。

 だからそれはお前の技だと教えてくれた張本人から言われたら、考えた方がいいかなとは思うが。


「名前って大事なもんかね」

「名は非常に重要なもの。名を付け定義することで、技というもののイメージが固まる。それが安定した再現性を生むのでござるよ」


 サラルがその昔、村の守り手に教えてもらったところによれば、定義付けがされていることで闘技や魔法は安定して発動出来るのだとか。

 たとえば、ランク一の火属性魔法は『フレイ』という名を持ち『火の玉を飛ばして』相手を攻撃するもの。

 その名と型が決まっているからこそ誰しもイメージが出来る。ゆえに安定して再現も出来る、というわけだ。

 そして固定化された闘技や魔法は、不思議とその威力にも恩恵を受けているらしい。イメージの容易さが一種のバフになっている……ということなのか、原理は解明されていないが恩恵があるのは少なくとも事実のようだった。


「そういうことなら考えてもいいけど……ううむ」


 生憎、名付けのセンスに自信は無い。

 なのであまり期待されるのは恥ずかしいのだが……。


「――黒月こくげつ。元の孤月とそれほど変わらないし、特徴も表してるとは思う……どうだ?」


 恐る恐る、是非を投げかけるオレ。

 落ち着かない気持ちを知ってか知らずか、サラルは時間をかけて頷き、


「……うむ。良い名だと思うぞ」


 と、上々のコメントをくれたのだった。


「その闘技――黒月が活躍することを祈っているよ、ダイン殿」

「ああ。鈍らないよう、オレも自主練に励まないとな」


 そう言うと、サラルは快活に笑った。

 さっき見せた憂いがまるで嘘のように。


「明日は無事、バランを助けてロウディシアに戻りたいもんだ」

「そちらも祈っておくとしよう」


 ついでみたいに言うのが少しおかしくて、オレも笑ってしまう。

 バランには悪いが、アイツは何だかんだ悪運が強い気がするし、悪態吐きながら救出されそうなんだよなあ。


 ……それからオレたちは、もう少しだけ剣を振るってから拠点へと戻った。

 帰り着いた頃、拠点内では男女の部屋割りが決められており、すぐさまオレたちはベッドの移動役に駆り出されるのであった。


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