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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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101.ディオン=マナリー

 待機指示から十分ほどして、アンドルーさんがオレたちを呼びに来た。

 彼に案内され、オレたちはアンドルーさんの仕事場である執務室へと向かう。

 テルさんは午後の仕事があるということで、食堂で分かれることになった。


「さ、入ってくれ」


 アンドルーさんは扉を開き、オレたちを中へ招く。

 広々とした空間。本棚や収納棚は整然としており、広い窓から陽射しがほどよく採光されている。

 奥にどんと置かれたワークデスクは十分なスペースがあって、処理しなければならない書類などもきちんと区切られ積まれていた。

 快適そうな仕事場だと一目見ただけで思えるところだ。

 ワークデスクの手前側に長テーブルが置かれ、六脚置かれた椅子の一つに腰掛けている男性がいた。

 いかにもなローブを身に纏ったこの男性こそディオン=マナリーさんに違いない。


「呼んできたよ、ディオン」

「ああ……助かります」


 すっくと立ち上がったディオンさんは、こちらを向いて軽く会釈をした。


「初めまして、ロウディシアの皆さん。私がディオン=マナリー、顧問魔術師をさせていただいている者です」


 意外にもディオンさんの物腰は柔らかい。正確な予言をもたらす魔術師ならば、もっと威厳のある物言いなのかと思っていたが、そうでもないようだ。

 見た感じは五十代後半くらいに見えるものの、彼は純粋なエルフだろうし実年齢は相当上だろう。

 肩より少し下まで伸びた深緑の長髪、やや吊り上がり気味の細い眉と目。

 体型は恐らく中肉中背だが、ゆったりとしたローブを着ているため少し大柄に感じられた。


「アンドルーから話は聞きました。この度の問題は私にも一因があると痛感しています。まずはそのことを謝罪させていただきたい」

「謝罪なんて、そんな。……詳しいことはこれから聞かせていただきますが、ディオンさんにはディオンさんなりの事情があると思っていますので」

「……ご配慮、感謝します。そうですね、今後に大きく関わることですし、ここでしっかり説明させてもらいます」


 人数が人数なので、また男子組は立って話を聞くことになるかと考えたが、使用人が現れて追加の椅子を後方に配置してくれた。

 細かな心配りをありがたく思いつつ、オレたちは着席してディオンさんの話に耳を傾ける。


「……私がこれまで革新派の存在を明らかにしなかったのは、お察しの通り自己保身によるところが大きいのです。父のアゼールは革新派の旗頭であり、殊更に人間との融和を嫌い、古典派の仲間すら見限ってエイヴスを離れる選択をしました。そんな人物の息子ですから、初対面で事情を打ち明けても拒否感を示されるだけだとあえて語らず、そのままずるずると今日に至ってしまいました」

「父もあれで始めは慎重な考えだったようだ。古典派以上に過激な思想を持つ一派がルーツだと知れば、確かに信頼は勝ち得ていなかったかもしれない」


 今でこそ全幅の信頼を置いているように感じられたが、第一印象が最悪だったら実際、関係性は大きく違っていただろう。

 二代目顧問魔術師にディオンさんが選ばれなかった可能性は高い。


「しかし、先代顧問のアッシュさんは事情を認識していたはず。特に咎められることはなかったのかな」

「叔父はむしろ、私に同情してくれました。私は革新派が旅立った後に生まれたエルフですし、融和派憎しなんて気持ちはこれっぽっちもありませんでしたから。むしろ、酷い暮らしを強いた家族を恨んでいましたよ」


 聞けば、革新派の旅は予想通り絶望的なものだったそうだ。

 国を離れたところで定住出来るレベルの島は無く、生き抜くのが精一杯の日々。

 それでも限界が訪れるまで五十年近くは放浪を続けていたのだとか。


「当初三十人以上いた一団は、最終的に十人ほどになっていました。父も母も亡くなり、私に決定権が下りてきた際エイヴスに戻る選択をしたんです。でなければ、皆野垂れ死ぬだけだった」

「国へ戻ったのはディオンの決定だったわけか」

「ええ。……この絶望的な五十年で、革新派の行いは過ちだったと自認出来れば良かったのですが、身勝手なことに私以外の者は責任を外に求めてしまいました。勝手に出ていった側のはずなのに、我々をこんな暮らしに追い込んだ者たちが憎い、と。そこで流石にまずいと思い、私は集落から逃げ出すことにしたのです。後はご存知の通り……」


 逃げ出したディオンさんはアンパッサの里に辿り着き、事情を説明してしばらく暮らした。

 それから当時の顧問魔術師であり、叔父にあたるアッシュ=マナリーさんに出会い、やがて彼の跡継ぎとなった……。


「なるほど、これで貴方が顧問魔術師に就任するまでの経緯は認識を修正出来たように思う。では、ここからが肝心な問題だ。ディオン、貴方は何故革新派が争いの芽になるというような予言をした? そして彼らは実際、何か良からぬことを計画しているのか?」


 過去の話は終わり、重要な今の話に移る。

 革新派は一体、何をしようとしているのか。

 それはエイヴスにとって良いことなのか、悪いことなのか。


「……申し訳ない、アンドルー。私も彼らが具体的に何を企んでいるのかは分からないんです。ただ、アンパッサに向かった皆さんも耳に挟んだと思いますが、彼らは人手を欲している。特にアーテミーとの融和を嫌悪する者を」

「確かに、マレー族長からその話は聞きました。……では、ディオンさんも族長から?」

「いえ、そうではありません」


 メルシオネ教官の問いかけに、ディオンさんは首を横に振る。


「来たのです……私のところにも、勧誘が」

「何……?」


 驚きの声を上げたのはアンドルーさんだった。

 ただ、オレたちも同様に驚いてはいる。……既にアーテミーとの共生をこれ以上なく示すディオンさんに、勧誘を?


「革新派のリーダーを父に持つというのは《《箔》》があるのでしょう。私があちら側につけば指揮が高まる、そう考えているんじゃないかと思います。だからと言って、ここで顧問魔術師を務めている時点で望みは無いと分かりそうなものですが」


 望み薄でも打てる手は打っておきたい。

 そうまで思って行動しているのなら、革新派は生半可なことを計画しているわけではないように感じる。

 もはや最低限の暮らしさえ満足に出来ていなさそうなエルフたちだ。

 よほど覚悟を持って、現状を打破しようと画策しているのではないか……。

 

「勧誘を受けてから、私は予言という形でそれとなく警告させてもらったのですが……こうなった以上、回りくどいやり方は終わりにしなくては。一つ、提案があります。まずはそれを聞いていただきたい」

「……分かった。話してみてくれ、ディオン」


 アンドルーさんの許諾を得て、ディオンさんは自らの案を提示する。


「私のところへやって来た革新派のエルフは、志を共にするなら我々の拠点へ来いと伝え、そのまま去っていきました。つまり、その時点で交渉が決裂していないのです。……私が彼らに賛同するフリをして拠点に潜入すれば、革新派の計画を知り、尚且つロウディシアの方を救出することも可能なのではないかと」

「だが、それは危険過ぎる」

「危険は承知しています。ですが、正面から攻め込む方が危険でしょう」

「……否定は出来ないが」


 納得も出来ない、という表情のアンドルーさん。

 今の話だとディオンさんだけが危険に晒されるのだから、首肯し難いのは尤もだ。


「もちろん、丸腰で乗り込むつもりではないですよ。何人かは護衛をお願いして、怪しまれないよう待機してもらおうかと考えています。まあ、私自身魔術師の座に就いているくらいですから、ある程度魔法の心得もありますがね」

「ディオンの魔法が優秀であることは知っている。……そうだな、テルには同行してもらうとしよう。後は――」

「私が同行しても構いませんか?」


 立候補したのはメルシオネ教官だ。

 革新派がこちらの問題全てにも絡んでいる可能性は高いのだし、任せきりにはしたくないのだろう。

 オレも、誰か一人くらいは付いていくべきだとは思っていた。単純に、イマジネーターであるオレたちは戦力としても申し分ないのだし。


「うむ、私も君たちが同行したいだろうとは思っていた。ディオン、それでどうかな?」

「……ええ、ロウディシアの方に来ていただけるなら心強い限りです。ぜひお願いしたい」


 アンドルーさんとディオンさん、二人の了承も取れた。

 メルシオネ教官だけに付いて行ってもらうのはもどかしくもあるが、人数が多いと怪しまれるだけだ。

 まだひよっこのオレたちは、大人しく吉報を待つしかない。


「革新派は、豊饒祈願の祭が行われる日を期限と伝えてきました。今から三日後になりますね。ですが、動くなら早い方が良いでしょう。出発は明朝にしたい」

「私の方は異存ありません」

「俺もいつでも行けます」


 教官とテルさんが承諾するのにディオンさんは頷き、


「では、明朝七時に一度ここへ集まり、そこから出発しましょう。……この国の揉め事に巻き込んでしまい、心苦しいですが……よろしくお願いします」

「こちらの人間が不用心だったのもあります。そうでなくとも、これは友好国の問題ですから。お気になさらず」

「ありがとうございます」


 これで次の動きは決定した。

 ディオンさんたちの潜入が上手く運ぶことを信じ、オレたちは英気を養っておくとしよう。

 明日、何もかもが片付けばそれで万事解決だが、そうなってくれるとも限らない。

 だから今は、もしもへ備えるのがオレたちの役割なはずだ。


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