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【W/S】―世界終焉の物語は学園生活とともに―  作者: 灰土おやつ
第一の巡礼 悠久原生世界_エイヴス
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96.交戦

 原生林を進むこと四十分。

 昨日到達した地点よりも奥へオレたちは入り込んでいた。


『……皆さん、聞こえ……か?』


 テスタマイザーから聞こえるマルの声に、ノイズが生じ始めている。

 やはり、奥へ行くほど通信に悪影響を及ぼす何らかの異常があるようだ。


「通信状況が悪くなってる。もしかしたら、そのうち駄目になるかもしれないな」

『そのよう……すね。こちらも原因……アーロンさんと調べてみる……にします』


 材料の少ない現段階ではまだ特定出来そうにもないが、希望は捨てないでおくことにしよう。

 自然発生なものか、或いは人工的なものか……もし後者だとすれば、阻害しているのはエルフなのか、それとも。


「あともう少し歩けば、アンパッサに着くはずです。皆さん頑張ってください!」


 テルさんが励ましの言葉をかけてくれる。日頃から鍛錬している彼やメルシオネ教官は涼しい顔だが、オレや女性陣は若干疲れ始めていた。

 ……エスカーが何ともなさげなのがちょっとムカつくな。


「アンパッサの里にはどれくらいのエルフが住んでるんですか?」

「そうですね。具体的には把握出来ていないんですが、二百人いるかいないかというくらいだと。アーテミーの人口が三千人ほどなんで、それに比べたらかなり少ないですね」

「なるほど……」


 オレが驚いたのはむしろ、アーテミーの人口の方だった。

 小さな世界であるとは認識していたが、首都ですらそれくらいの人数だとは。


「……皆さん、警戒を」


 そこでふいに、これまで沈黙を保っていたメルシオネ教官が注意を促す。

 ……微かな気配。この感じからすると、魔物というわけではなさそうだ。


「里はもうすぐそこです。だったら――」


 テルさんが言い切るよりも前に、彼の足元に何かが突き刺さった。

 それは簡素な矢だった。彼が飛び退くと、ちょうど立っていた場所に第二の矢が飛んでくる。


「――ひい、危ない!」

「来ますよ……!」


 樹上から、或いは木陰から、オレたちを取り囲むように彼らは現れる。

 耳長の種族、森とともに生きる者――古典派のエルフたち。

 粗末な弓、或いはナイフを携え、輪を狭めてくる。

 数は七人……オレたちと同じか。


「あの、俺たち用があってこちらを訪ねてきたんです! ちょっと話を聞いてもらえませんかね!?」


 テルさんは両手を挙げながら事情を訴えるものの、エルフたちが耳を貸す様子はない。

 完全にオレたちを排除すべき外敵と見做しているようだ。


「……やはり、こうなりますか」


 メルシオネ教官は溜め息を一つ吐き、それからテスタマイザーに手を伸ばす。

 ブースターの出力、そして――イマジネート。


「――快刀乱麻クルセウス・マギ


 煌びやかな細剣。クールな教官にぴったりの武器だと毎度思う。

 オレたちも教官に続いて、自分たちの能力をイマジネートしていった。

 エルフたちはイマジネートという特殊な力に戸惑いを見せたが、それでも武器は降ろさなかった。

 弓は引き絞られ、矢の先端がこちらへ向けられている。

 あくまでオレたちと一戦交える方針は変わらない、か。


「まずは無力化しましょう。ただし、なるべく怪我は負わせないように」

「ハハ、難しいこと言いますねえ」


 エスカーはそう言って笑うと、誰よりも早く動きをみせた。

 目の前にいたエルフのすぐ脇をすり抜けると、木の幹を蹴って枝の上に登る。

 有利な位置から敵を狙う、あいつお得意の戦法だ。


「――氷刃」


 まずはお手並み拝見とばかりに、エスカーはエルフたちに満遍なく氷刃を飛ばす。

 それを相手は弓を、或いはナイフを薙いで容易く砕いた。

 これくらいの攻撃は簡単に捌いてくるか。


「てぇいっ!」


 その合間を縫い、ルカが前方の一人に突っ込んでいき、懐に潜り込んでからの蹴り上げを見舞う。

 氷に気を取られていたエルフの男は、ルカの素早い攻撃に対応し切れず綺麗に宙を舞った。


「くっ……!」


 他のエルフが一斉にルカを狙う。

 その間へオレが飛び込み、盾を構えて矢を弾く。

 後ろで感謝の言葉をくれたルカは、そのままくるりとオレの頭上を一回転し、もう一人のエルフに踵落としをクリーンヒットさせるのだった。


「いい動きですね」


 メルシオネ教官はルカを褒めつつ、自身も細剣を構えて狙いを澄ませる。

 教官のイマジネートはその形しか見たことがなかったが、どのような力を有しているのだろう。


「――三重刃トリ・ラミナ


 教官が細剣を相手に向けて突き出すと、その刀身が三つに分裂した――ように見えた。

 本当に刃が分かれたわけではなく、実際には魔力による複製された刃だ。だが、受け手にとって大差はない。

 いずれにせよ、三つの刃を躱さなければならないわけなのだから。

 

「ぐおっ!?」


 その特異な攻撃を捌き切れず、相手は横っ腹への一撃を許す。

 斬った――と一瞬思ったのだが、そうではなかった。細剣の刃の無い部分で薙ぎ払いをして、エルフを地面に叩き伏せたのだ。

 怪我を負わせないようにと言ったのは教官なのだし、そりゃあ斬るわけないよな。……凄く痛そうではあるけれど。


「貴様ら……ッ!」


 次々と仲間が倒れて行くのに怒ったか、それとも焦ったか。

 残ったエルフたちは標的を絞り込むようにキョロキョロと視線を動かした後、フェイの方へ駆け出した。

 とにかく有利に立ちたいという考えなのか、彼女を人質にとろうとしているようだ。


「させるかよ……!」


 既に統率もとれておらず、動きもそれほど素早くはない。

 オレはなりふり構わず突っ込んでくるエルフたちの前立ちはだかって、彼らを一人ずつ冷静に捌いていった。


「ふっ! ……はあッ!」


 盾でいなし、剣で払う。或いは剣で受け、盾で弾き飛ばす。

 攻撃は単調だったので、対して苦労することもなかった。


「「――フラッド!」」


 そこへ、イオナとフェイの水魔法が同時に飛んでくる。

 頭を冷やせとばかりに、凄まじい勢いの鉄砲水がエルフたちにぶつけられたのだった。


「……終わりかな?」


 降りてきたエスカーが、やれやれとばかりに肩を竦めながら言う。

 囲まれたときは少しばかり焦ったが、案外強くない人たちだったから助かったな。


「そのようですね。お疲れ様です」

「俺が出る幕もなかったですね」


 バタバタと倒れ伏したエルフたちを眺めて、テルさんは苦笑する。

 それから、


「……ええと、こんな状態になってからで何なんですけど、話を聞いてもらえません? 俺たち、里に用があって訪ねさせて貰ったんですけど……」


 改めての説明に、返ってきたのは呻き声だけ。

 ……流石にやり過ぎただろうか? いや、加減し過ぎると反撃が怖いしなあ……。


「――騒がしいな」


 そのとき、里の入口の方から声がした。

 低く、威厳のある男性の声だ。


「あ……貴方は」


 テルさんが驚いてそちらを見つめる。

 オレたちも声がした方を向くと……そこには初老のエルフの姿があった。


「ふむ。……きみは確か、アンドルー殿との対談に同席していた者だな?」

「は、はい。テル=イースティンと言います。アンドルーさんの補佐官をさせてもらっている者です」


 ペコリと頭を下げたテルさんは、オレたちの方を手で指し示すと、


「本日はアンパッサの方々にお聞きしたいことがあって、同行者とともに訪ねさせてもらいました」

「それで、里の門番を無力化したと」

「襲い掛かってこられたんだから、正当防衛だと思いますけどねえ」


 口を挟んだのはもちろんエスカーだ。ここはちょっと黙っておいた方が良くないか? ヒヤヒヤする。


「……ぞ、族長……」


 倒れていたエルフたち――門番だったらしい――が起き上がり、初老のエルフのところへ集まっていく。

 ……あの人物が、アンパッサの里を取り纏める族長のようだ。


「あの者たちはそう言っているが、どうなのだ」

「それは……」

「用がある旨は最初に伝えました。それでも皆さんは武器を下ろさなかった、ということは主張しておきます」


 テルの言葉に、族長の男性はしばらく沈黙したままこちらを睨んでいた。

 嘘ではないと示すため、オレたちは真っ直ぐにその目を見つめ返す。

 静かな攻防の後、溜め息を吐いたのは族長の方だった。


「……良いだろう。嘘を言っているわけではなさそうだ。ただ、このような対応になったことも理解してほしい。こうも続けざまに怪しい来訪者があっては気が立つのも当然のことなのでな」

「続けざま……」


 ……ということは、オレたちより前にも里を訪れた人間がいたということ。

 不用心にも里へ近づく人間がいるなら、やはり可能性が高いのはあいつらのはず……。


「まずは腰を落ち着けて話すとしよう……ついて来るがいい」


 門番に持ち場へ戻るよう指示を出すと、族長はオレたちにそう告げる。

 一悶着あったものの、こうしてオレたちは何とかアンパッサの里へ入ることが出来たのだった。


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