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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
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いつも通りのちょっとした問題

 一夜明けて、馬車でシプレースを出て学園へ向かおうとしていたアディンが見たのはとんでもない量の木箱であった。

 その送り先がすべて学園の格納庫に宛てられているのでその木箱を手配した人間は確定した。

「あの、アルさん……?」

「はい、なんですか」

「これ何時の間に発注したんです?」

 思わず敬語になるアディン。

 何せアルの顔が怖かった。

 いつも通りの顔なのに、明らかに何かどす黒いものを抱えているというか、オーラが見えるというか。

「別に。ただスクロールの研究に使う材料類や薬品類を調達しただけですよ。まあ、これだけ買えば学園の保有量を遥かに超えますが」

「え、でもこれ送り先……」

「あ、そうですね。間違えて開けられないように宛名も書いておかないと」

「いや、そうじゃなくて」

「いいんですよ。あんな父親。今回の件。流石に頭に来ました」

 やっぱりそれで怒っていたのか。

 学費や研究費を盾に無理やり呼び出された揚句、学友を撒きこんだのだからアルとしてはやはり許せなかったのだろう。

 そのストレス発散を兼ねての大量購入による大荷物。

「あ、支払いはイスナインの家にお願いしてますから資金面の心配はありませんよ」

 当然支払は実家持ちである。

 いくら資産家とはいえど、安くない買い物を大量にすればそれなりの痛手にはなるはずだが、その辺りは気にしないのだろうか。

「っと。間に合って良かったニャ。アディンくん」

「ムビリさん。それにエルアさんも」

 アルの二人の姉が見送りに来てくれた。ムビリは頭にモフモフを二匹重ねている。

 そのうちの一匹を手にとり、それをアディンに渡す。

 さわり心地は抜群だった。

「昨日言ってた調べ物なんだけど、地下書庫が広くてニャー。まだ時間がかかるから連絡用にモフモフを一匹渡しておくニャ」

「え、これ長距離の連絡とかできるんですか」

「もちろんニャ。ウィスタリア王国内ならどこにいても通信可能ニャ」

 便利なスライムだな、と思いながら渡されたモフモフを撫でてみる。

 物凄く撫で心地が良かった。

「その子はアディンくんを主として認識するようにしてあるから、言う事をちゃんと聞くニャ」

「へえ。よろしくな」

 などと言いつつ、モフモフを撫でる手は止まらなかった。

 アディン専用になったモフモフはするりと手を避けてアディンの肩に乗っかる。

 流石に撫ですぎたかもしれないと若干反省する。

「ん」

 エルアはアルの手を握り、何かを伝えているようだが相変わらず言葉が少なすぎてアディンには何を言っているのかさっぱりであった。

 だがアルにはそれで伝わるのか嬉しそうに笑っている。

「ちょっといいかニャアディンくん」

「はい」

 ちょいちょいと手招きされて二人から少し離れた場所に移動。どうやらあまり聞かれたくない話のようだ。

「実は今判っている範囲では強獣同士の戦闘を見たと言う記録はあったけど、アディンくんから聞いたような事は書かれてなかったニャ。ただ気になる事は書いてあってニャ」

「その気になる事が、あの二人に聞かれたくない事ってことですか」

「うーん。ちょっと違うんだけどニャ。まあ不安にさせたくないってのが大きいニャ。あとはこの不安を共有できるのがキミしかいないというのもあるニャ」

「なんか、その言い方だと結構なことみたいですね」

 こくんと頷かれると、すこし気が締まる。

「えっと。それでその不安とやらはなんなんです」

「強獣同士の戦闘があった前後にシプレース付近に突然魔女が出てきたという記録がちらほら見つかるのニャ。もちろん毎回じゃないニャ。でも戦いの規模が派手で大きいほど直後に魔女が出現している記録が見つかってニャー。流石にちょっと考え過ぎだとは思うし、これはあくまでもおねーさんの推測ニャ。でももしかしたら、と思ったらちょっと」

 確かに推測で不安を煽っても仕方ない。特にそれが血の繋がった姉妹なら、それを隠したくもなる。

 きっとアディンでも同じような選択をするだろう。きっと自分だけが真実に近い推測に至っても、それが最悪の結末を呼び込む可能性があるというのならばアディンはきっと確証を得られるまで黙っている。

 ムビリもそういう人間で、アディンの事を信用して打ち明けてくれたようだ。

「今回モフモフを渡したのは情報共有していて、かつ国王陛下にもパイプを持つアディンくんといつでも連絡が付くようにしておきたかったからなのニャ。そうすれば万が一おねーさんの推測が現実になっても最小限の被害で抑えられる可能性が出てくるニャ」

「なるほど。了解しました。このことはアルには内緒ということで」

「よろしく頼むニャ」

 その後はエルアとムビリにも荷積みを手伝ってもらい、荷物を満載した馬車が二台。そしてアディンとアルを乗せたものが一台が王都ウィスティリアへと走り出した。



 一方で、クエルチア騎士学園の格納庫ではちょっとした問題が起きていた。

「どうしたもんかね」

「全くもって問題であるな」

「技術的限界ってところか」

 エリマ、アルツ、シュデムの三人はそろって頭を抱えた。

 ブラックボックスの性能が頭打ちになってしまったのだ。

 勿論それはカタログスペックであり、実際の性能はそれを操縦する騎士によって異なるだろう。

 だがそれでもある程度の推測はできる。

「解決すべき問題はなんであるか。吾輩、まず機体のスペースが不足していると思うのであるが」

「いや待て。スペースは確かに足りないかもしれないがこれ以上削ったら各部を稼動させているモーターやシリンダーまで取っ払う事になるぞ」

「旧型機みたく全身マナ制御ってのは……」

「駄目だ。確かにコンバーターを二個積みしてるから余裕はあるが、ヘスティオンに慣れた人間には操作が難しい。まあ、アディンなら難なくやりそうだが」

 技術者が三人集まって先の戦闘でとれた実働データを元にさらなる性能向上を図ったまではよかった。

 勿論現状でもブラックボックスは他のヘクスイェーガーとは一線を画す画期的な機体である。それは作り上げたエリマ達が良く知っている。理解している。

 だがそれでもあの時の戦闘のように真正面から魔女とぶつかり合うような事になれば、その装甲は耐え切れない。

 あの時魔女の突進に耐えられたのはアディンの咄嗟の判断によるところが大きい。

 それでは駄目だ。

 先の戦闘で遭遇した魔女のように高速で動きまわり近接戦を仕掛けてくるような相手を前にして、誰もがアディンのように咄嗟に防御行動を取れるとは限らない。

 この機体を――もっと正確にはこの機体の発展機を量産化するつもりでいる以上、誰が使っても高い防御性能を出せなくては意味がないのだ。

 万人が使って万人が同じような性能を出せる。それが量産機として求められるものである。

「んじゃあ機体の基本構造はこのまま。それでいて何らかの打開策が必要って難易度高くないか」

「至極単純に考えるのならば装甲の強化であるな。尤も、増えた重量分稼動に必要なマナの量は多くなる上関節の損耗も激しくなる訳であるが」

「だから頭抱えてるんじゃねえか。ったく。アルツ。魔法のほうで何とかできねえか」

「装甲そのものに防御系魔法の術式を刻むか? いや、現実的じゃないな。あの表面積にまんべんなく書いていくとなると流石に気が遠くなる」

「シルキーの改良も出来ていない以上、そういう地道な作業のオートメーション化も不可能であるからなあ」

 最初に思いついた装甲の強化。これは技術的にも難しい事ではない。

 その一方で重量の増加は避けられず、重くなった機体を動かす為のパワーを生み出すには当然それだけのマナが必要になるだけでなく、関節などの強化も必要となってくる。

 また重くなれば欠損時のウェイトバランスにも影響が出てくる為必要以上の装甲強化は避けたい。

 かといって装甲全体に防御系魔法の術式を刻んで防御能力を強化する、というのも現実的ではない。

 ペンで書くのとは異なり装甲に刻む以上、ちょっとしたミスで術式が発動しなくなる可能性があるだけでなく現状では自動化できない作業である以上、それを人力でヘクスイェーガー一機分の装甲表面積全体分に施すとなると途轍もない時間がかかるし、作業担当の負担が大き過ぎる。

「スピード方面ならどうだ」

「馬鹿を言うでないのである。スピードの強化は回避率に直結する強化であるかもしれぬが、速度が上がればその分操作は難しくなるのである。いくら自分の身体のように扱えるからといって、自分の想定した速度以上が出る機体を使いこなすのは難しいのである」

「第一、どうやってこれ以上の速度を出すんだ。追加装備を付けるってのも手だが」

「それでは根本的解決になってないではないか凡人眼鏡!」

「だよなあ」

「ふごばっ!?」

 全くシュデムの方を見ずに放たれたエリマの拳は見事にシュデムの下顎を捉え、彼の身体を錐揉み回転させながら吹っ飛ばした。

 腰も一切入っていないジャブ程度の一撃でそれである。

 アルツもそんなものを見せられては、流石にちょっと引いている。惚れた弱みとは言うが、そんなものを吹っ飛ばしてしまうほどの光景であり、単純に怖かった。

 これで腰の入った一撃だった場合どうなったのであろうと想像するともっと怖かった。

「さて、他の案はないか」

「現状のサイズを逸脱せずにかつ性能の向上、か。難しいよなあ」

「実際に動く機体を作ってみて思ったが、先人の作り上げたものの完成度が高すぎる。アストライアの完全量産機ってのは高すぎた目標だったかもなあ」

「諦めるのか、エリマ」

「まさか」

「高いハードルほどくぐりやすいのである」

「お前は黙ってろ」

「ふべらっ」

 立ち上がった直後のシュデムが再び床に沈む。

 今度は顔面キックであった。

 安全靴のつま先で蹴られたシュデムは流石に顔を押さえてのたうちまわる。

 容赦がなさ過ぎて見ていたアルツが顔を青くする。

「んで、実際どうする。素材を変えても駄目か?」

「現状使える素材以上のものが手に入ると?」

「……」

 無理だろう。何せ今ここにあるのは国王直々に送ってくる資材だ。この国においてここ以上に質のいい資材を扱っている場所はない。

 この場にないのならば新しい素材を、と言うわけにもいかない。

 今エリマ達が必要としている条件を満たす素材を探す事から始める必要があり、それだけでも時間がかかる。

 そもそもこの国のあらゆる素材を揃えられる環境でも揃わないというのは、今造ろうとしている機体の大前提である量産可能な機体という点から外れてしまう。

「こういうとき、アディンの意見があると違うんだけどなあ」

「あれくらいぶっ飛んだ意見を持ってる人間が居る事で刺激を受けてる部分はあるからな」

「それに慣れ始めてる自分が哀しいよ」

 格納庫にはエリマとアルツの渇いた笑いが木霊した。

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