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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
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思い立ったら即座に有言実行

 予定より遅れて学園に戻ってきたアディンと、それを格納庫で出迎えたエリマ達の第一声は同じであった。

「「何これ」」

 エリマ達はアディンとアルが持ち込んだ大量の荷物を指し、アディンは格納庫に暫定的に置かれた会議用テーブルの上に散らばる無数の設計図と装甲を取り払われた状態で放置されているブラックボックスを指してそう言葉を漏らした。

 確かに派手に壊した記憶はあったが、装甲の下まで及ぶ損傷はなかったはずだ。

 それにテーブルの上の設計図はその全てが没の判子が押されており、何度も試行錯誤が行われていた事が見て取れた。

 が、何故そうなったのかということにアディンは考えが至らなかった。

「よし、状況整理しよう。アディン、その荷物は何だ」

「アルの買い物です」

「え、全部」

「はい。全部研究用の材料です」

 馬車二台分の材料。何を買ったのか一緒にいたアディンすら知らないが、かなりの金額になったのは間違いない。

 学生のポケットマネーで賄える金額ではないことは誰が見ても明らかだ。

「こっちはまあアルの個人的なものなんでおいといてですね。その設計図とブラックボックスの状態は……」

「ああ。それなんだがな」

「おお、アディン・アハット。丁度良かったのである! 吾輩達だけでは既に水分がなくなるまで煮詰まって固形物と化しつつあるのだ」

 ブラックボックスを弄っていたアルツとシュデムがアディン達に気付いて設計図を振り回しながら駆けてきた。

 振り回される設計図にもやはり没の判が押されている。

 アルツは眠そうに目をこすり、気だるさを隠さずふらふら揺れながら歩いてくる。

 よくよく見るとエリマも眼の下に隈を作っているし、シュデムも――常が常だけにすごく判りづらいが――いつもよりテンションが若干高く語気も強い。

「まさか先輩達。寝てないんですか」

「トリア・サラーサの差し入れドリンクを飲んだら寝なくても疲れなくなったのである。吾輩なんと七徹目! 既に眠気など消し飛び焦土と化して新しい大地に命が芽吹くレベルなのである」

「ブラックボックスの最終仕上げから実働テストまでぶっ続けだっただろ。その上テストに参加した各機の整備、テスト後の問題点の洗い出しに強化プランの作成。やることが山積みでね」

「こいつら二人に比べてあたしは仮眠取ってる分マシだけど、それでも纏まった睡眠はここしばらく取ってないな」

 そのうちこの三人は死ぬんじゃないだろうか。過労で。

 特にシュデムがやばい。眠らな過ぎてハイになっている。

「というかトリアの差し入れってそれ大丈夫な奴ですよね?」

「色がヤバかったからあたしとアルツは飲んでない」

「ニオイも過食物じゃなかったしな」

 そんなものを持ってくるトリアもトリアだが、それを飲んだシュデムもシュデムである。

 何よりトリアがそんな危険物を持ってきた理由がわからない。

「んで、まああれだ。この前の魔女との戦闘で突撃くらっただろ。四肢を使った攻撃ならばまだ対処のしようがあるが、突撃ってのは今までにない攻撃手段だろ。それに対する防御策をだな」

「それが技術的に行き詰ってなあ。シュデムの奴、昨日までは良かったんだが煮詰まった結果ああなっちまった。一種のオーバーヒートじゃないか」

「何を言うか。オーバーヒート? 冗談ではないのである。むしろ今エンジンが暖まってきた所なのである。フルスロットルまではまだまだ足りぬ。ひとっ走り付き合うのである!」

「お前が喋ると話が進まないから黙ってろ」

 エリマの手刀がシュデムの首を打ち抜きその意識を飛ばす。

 一週間も寝ていないのだから丁度いい休憩である。やり方は乱暴であるが。

「いっそのこと何かばーっと解決する手段がないかとお前を待ってたんだ。あたし達だけでは発想の転換ができない」

「それは寝てないからでは……?」

「……あー、うん」

「…………それは盲点だった」

 人間、寝ていないと思考能力が落ちる。その典型例がまさにここにいた。

 睡眠。物凄く重要。

「とりあえずやりたいことは何となくわかったので、お二人は寝てください。早急に」

「うん、そうするわ。あー、でも風呂はいんないと流石に臭うしなあ」

 とアルツが自分の服のにおいを嗅いで眉をひそめる。

 それを見たエリマが自分の服のにおいをこっそりと確認するのをアルは見逃さなかった。

「エリマ先輩は女性なんですからちゃんとお風呂入ってますよね?」

「え、あっ……仮眠時間以外はほぼここに居たからな」

 目をそらすエリマにアルは詰め寄るとその手を引いて歩きだす。

「行きますよ、先輩。さっさとお風呂入りましょうね」

「ちょ、待て。痛い。痛いから! 自分で歩ける。歩けるから!! アーッ!」

 初めてアルの怪力を体感し、エリマは悲鳴をあげる。

 それを見てアディンは苦笑いしながら見送った。

「オレもこいつ部屋に連れて行くわ」

 そういって手を振り、アルツは大あくびしながら気絶しているシュデムの右足首を掴んで引き摺っていく。

 部屋につくまでにシュデムの服がボロボロになりそうだ。

「さて、と」

 シュデムの悲惨な姿を想像しながら、それを見なかった事にして思考を切り替える。

 エリマ達が言っていた防御手段とやらについて考えよう。

 参考資料となるのは没になった設計図の数々。

 装甲強化や強化術式による防御性能強化。軽量化による機動力アップ。追加ブースターやエーテルリバウンダーの出力強化による速度強化。

 つまり耐えるか避けるの二択にしぼっての立案である。

 だがそれぞれに没になった理由がしっかりと書かれている。

 装甲の強化は重量増加によるマナ消費量増加と関節負担による損耗率の高さが、軽量化は基礎フレームからは削る部分がなく装甲を削るしかない為防御力に問題が、追加ブースターはそもそも装備するコネクターの増設が必要でありブラックボックスでは想定されていない為ハードポイントの追加が必要。

「いろいろ考えてくれているんだなあ」

 普段無茶振りをして困らせている事を痛感した。が、無茶振りを止める気は毛頭ない。

 せめて負担だけでも軽減させようと、アディンは考えを没になった設計図の空きスペースに箇条書きにしていく。

「装甲の軽量とそれに伴うウェイトバランス調整の必要性。各稼動部の構造見直し。増加パーツ、装備個所はどうする」

 そこで、イスナイン家から依頼された仕事の事を思いだした。

 正確にいうと忘れていた訳ではないが、エリマ達の惨状――というか具体的にはシュデムの醜態を見て完全に頭から抜けていた。

「ヘクスイェーガーの小型化……いや違うな。構造を流用した新機軸の開発、既存機からのパーツ流用、強獣の構造……ん?」

 ペンを動かす手が止まる。

「強獣の構造……」

 金属でありながら生物のような柔軟さを持つ金属で構成された生命体。

 もしその身体を動かしている金属繊維を取り出してヘクスイェーガーの稼動部に使えたならば。

 その発想に至った瞬間に電撃が走り、バラバラな方向を向いていた思考が真っ直ぐ一つの結論に向かって走り出した。

「ヘクスイェーガーを強獣の金属繊維を使って稼動させるようにすれば機体の柔軟性は向上するはず。それどころか人間に限りなく近い動きを再現できるはずいや、でも……どうなんだ」

 しなやかな動きをするあの金属繊維はきっとアディンの狙ったような効果を発揮してくれる。だがどんなものにも損耗というものが付きまとう。

 仮に強獣の金属繊維を採用したとして、それは容易に調達可能なのだろうか。

 金属繊維の加工方法はどうか。それも未確立。不明点は多い。きっと前例もない。

「だからどうした」

 やらなければ壁は越えられない。

 前例がなければ自らが前例を作ればいい。それだけの話じゃないか。

「そうと決まればさっそく行動開始だな。モフモフ」

 服の中に隠れていたモフモフが、アディンの声に応えて襟元から這い出して右肩に乗っかった。

「ムビリさんと話せるかな」

 モフモフは身体を小刻みに揺らし出す。

 それがどういった合図だったのか。またはそれが返答だったのかはわからないが、しばらくすると揺れが収まる。

『ん? あれ、これ繋がってる……? って、アディンくんニャ?』

 突然モフモフからムビリの声が聞こえ一瞬驚いたが、そういうものだと言われていたのですぐに平静を取り戻す。

「本当にこれ離れた場所で会話できるんですね」

『モフモフ同士が遠距離でも通じ合っているから出来る事ニャ。で、昨日の今日でどうしたのニャ? 例の件ならばまだまだ資料の洗い出し中ニャ』

「あ、そうじゃなくてですね。ちょっとお願いしたい事がありまして」

『ふむふむ。何でも言ってみると良いニャ。おねーさん。可能な限りのことはやってあげるニャ』

「それじゃあ……」

 可能な限りやるという言質をとった。

 そして今アディンの考えている事をそのまま告げるとしばらくの沈黙ののち返ってきた答えは、さらなる沈黙。恐らくアディンの言葉を反芻し、分解して自分の理解できるようにしているのだろう。

 アディンが語った言葉はそれくらいに常識から外れた言葉だった。

『はああああああああああああああああ!?!?』

 じっくりと時間を掛けた思考の後、モフモフ越しに絶叫が返ってきた。

 予想通りの反応であった。

「可能か不可能かだけでお願いします」

『うーん。不可能じゃないけどニャー。それやったら間違いなく騒ぎになるニャよ?』

「あ、大丈夫です。ロケットパンチ事件に比べたら実害がないだけマシなんで」

『なんなのニャその気になるワードは!?』

 改造したヘスティオンの両腕が吹っ飛んで学園の中央広場にぶっ刺さった事故のことです、とは言ってもきっと信じてくれない。

『ものすっごく気になるけど、アディンくんがそれでいいならやるけど……うーん。時間かかるかも知れないニャよ?』

「それでいいですよ。それまでにこっちでもやることがあるので」

 この時、偶然アディンの姿を見た格納庫に居た生徒一同は、あれは何かヤバい事を考えている時の顔だ、と直感した。

 それから数分後、学園の理科準備室にアディンが突撃。人体模型を強奪して格納庫に持ちさるという事件が発生し、彼等の予感は見事に的中した。してしまった。

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