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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第五章 魔神編
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燃えるオウカ 2

シュデムによって召集されたブリーフィングから数時間後。バトルコスモス・オオハルシャ・キバナの三艦にパステークで触れた魔神についての情報と、シュデムが推測しウーノによってかなり高い確率で起きると予測される出来事が告知された。

そして、今後に対する方針についても同時に告げられた。

シルキー及びアルブスの技術を応用した無人のヘクスイェーガーまたは遠隔操縦システムの構築である。

オウカ国全域が操作範囲である以上、三艦が稼働させることができる機体を全機投入しても数が足りないのは明白であり、また討伐対象がヘクスイェーガー単体の火力では倒しきれない可能性も考慮した結果、有人機一に対して無人機二を組ませることで数の水増しを図ったものだ。

諸々の問題点は当然あるが、時間的猶予はあまりないと判断。過去に運用例があり一応の技術基盤があるこのプランが最も短期間で結果を産み出せると判断されたことも大きい。

猶予は三日。どれだけ待っても四日が限度。突貫工事もいいところで、各艦の工廠設備や整備班は不眠不休で作業に取りかかっていた。

特に、発案者であり同時にシルキーの開発者でもあるシュデムは自分の抱えた仕事に加え、シルキーの運用経験のないオオハルシャとキバナに赴き、直接指導するなど多忙極まり、いつ倒れるかと見ている者が心配になるほどであった。

一方、実際に機体を運用する側――つまり騎士たちも新たに導入される技術と、それによって変化する操縦性に苦戦していた。

最初は先行してヘスティオンとズワウルが一機ずつ無人機の遠隔操作対応型に改造され、それを使用した訓練が繰り返し行われたが、それはもはやだだの訓練ではなく機種転換訓練に近いものであるのは言うまでもなく、これも頭数を揃えるのは不可能であると早々に判断された。

ではどうするか。簡単な答えである。すでにある機体を参考にするのだ。

結果完成したのはヘスティオンの背部に取り付けるオプション、遠隔操作特化型複合兵装――通称アゲハである。

構造としてはヴァナディスの背部の構造をヘクスイェーガー本体に納めずに追加装備部分だけで完結させたもので、それ自体が操縦席をもつ小型ヘクスイェーガーとしても成立するというものである。

これによりメインの騎士は操縦性に大きな違和感をもたず機体を駆ることができ、またアゲハ部分に乗った人間が情報処理を担当することで無人機の運用を可能とした、という訳だ。

本来はヘスティオンと分離しての運用も想定されており、それ自体が武装を搭載しているというのが当初のプランであったが、流石にそこまで組み込めるほどの時間的余裕はなく、更に生産効率を少しでも上げるために限界まで簡略化され、多くの機能がオミットされてしまっている。

ともあれ、これでヘスティオン側の問題は解決した。問題はズワウルである。

「……どうすっかなぁ」

「どうしましょうか」

アルツとエクウスはキバナから提供されたズワウルの設計図を見ながら、その徹底した無駄の無さに感服しつつも、それ故に手を加えられないという欠点に頭を悩ませていた。

最初からオプション装備を後付けできるように設計されているヘスティオンと異なり、ズワウルは徹底したダウンサイジングと機構の単純化・効率化を図られていて、当然ながら本体に余分なものを詰め込めるようなスペースはないし、オプションを接続するためのハードポイントも存在しない。

「無人機の遠隔操作機能を搭載できただけでも奇跡的だった、ってことですかね」

「だな。オウカにズワウル以外の機体がない理由がわかった。こいつは量産機として完成している」

「ま、故に拡張性もなければ発展性もないのであるがな」

遅れてやってきたシュデムが指摘する通り、ズワウルは完成しているがゆえにこれ以上のものになる、ということがない。所謂、頭打ちな状態なのだ。

「基礎設計から見直すか?」

「いや、そんな時間はないのである。流用できるものは徹底的に流用して、省ける工程は省いていかねば、数をそろえられないのは明白である。いや、現状ですら間に合っているか怪しい」

「……確かに、キバナとオオハルシャは二割程度の遅れ。バトルコスモスに至っては」

「シュデムが抜ける時間が多くて更に遅れている、か」

「アゲハの操作担当の訓練も進んでいるとは言いがたいのである。せめてあと一手。我輩と同等の作業が可能な人間がいれば……」

問題は山積み。

とくに今回の件はシュデムの能力に完全に依存しており、彼一人が抜けるだけで作業効率ががた落ちになるほどだ。

「…………なにぼさっとしてんだ。悩んでる暇があるならさっさと手を動かしな」

「!?」

そんな時だった。

聞きなれた、そして久々に聞く彼女の声が工廠に響いた。

瞬間、誰もが一度手を止め声の主の姿を探す。

「ちょ、待つニャ! まだあんまり動かないで欲しいニャ! 大人しくしてくれないと、おねーさんがおねーさん(エルア姉さん)にベッド送りにされちゃうニャ!」

なにやらムビリと揉めているようだが、そんな彼女を引きずりながら現れたのは、エリマ・ヴェイフその人であった。

その瞬間、工廠が歓喜の声で揺れた。

「いいから、作業を進めろ! で、変態。何をすればいい?」

「こいつを造る。詳細はその設計図と仕様書に目を通すのであるな。あとはズワウルの処置だが……それも含めて貴様にここを任せるのである」

「アルツ、補助を頼む。あとは状況説明も」

「あ、ああ。それより頭を打ったのに大丈夫なのか?」

「今ヤバいのはこんなものを急いで作らなきゃならないこの状況と――あのバカのほうだろ」

「……違いない」

久々の会話。

だというのに変わらない雰囲気に、アルツは安堵した。

この後、エリマが復帰したことでバトルコスモスの作業効率が向上。さらにシュデムがキバナとオオハルシャに専念することが出来たことで、それらの作業も予定通りに完了。

ここに、たった一部隊が行う前代未聞の作戦の準備は完了した。

それはシュデムが敵の存在に気付いてから四日目のことであった。



オウカ国の空をひっきりなしにヘクスイェーガーが飛び回る姿は、何も知らない人々には奇妙な光景に見えたことだろう。

何より自国の機体ではないヘスティオンや、やや通常の機体とは形状が異なるズワウルなど、一見して所属がわからない機体が()()()()ただ頭上を通りすぎるのはなかなかに不気味だ。

当然、そういった異変はすぐ女王であるルーのもとへ報告が上がり、対処を求められるのだが、そのルー自身現状において何が起きているのか把握しかねていた。

話だけを聞くとどこかの武装勢力がなんらかの行動を起こしているとも考えられなくはない。

「全く、面倒事続きだな」

ヘスティオンは生産数が多く、輸出もされている機体である以上そういった勢力も使用する可能性があるし、戦闘で大破し破棄されたズワウルを改修した機体が投入されている可能性もある。

一週間前にカミラが魔神同士の戦闘により消滅していたこともあり、神経質になっているのは、ルー自身理解している。

執務室に積み上げられた陳情書の山に目を通し、どれもこれも似た内容であるのを確認すると、ゆっくりと息を吐き出しながら背もたれに体重を預けた。

「失礼します。バトルコスモスからの使者が女王に話を、と……」

「構わん。通せ」

「はっ」

「失礼します。シオ・シラギク、入ります」

意外な人物の登場にルーは目を丸くしたが、すぐに平静を取り戻す。

「てっきりレンナかゴウトだと思っていたが、まさかお前とはな」

「わたくしもまさかこうしてお話しする機会があるとは思いませんでした」

「……その喋り方。つまり、()()()()()()だな?」

「はい。そう言うことですわ」

シオは手に持った資料の束を渡し、ルーは受け取って直ぐに資料に目を通し始めた。

「……あのヘスティオンと改造ズワウルの出所はわかった。安心したようなそうでないような。いや、そもそもこれをたった四日で組み上げただと? 冗談にしては話を盛りすぎだ」

「とは言いますが、現に空を飛んでいますし」

「わかってる。あまりにも常識はずれなことをやってくれるから、愚痴を言いたくなっただけだ」

「詳細はそちらの資料を見ていただくとして、本題ですわ」

「本題? この資料だけじゃあない、と?」

「はい。資料の最後の方にあるオウカ全土の地図を確認いただけますか?」

シオの言うとおり資料の束の下の方にやたらと×印が書き込まれたオウカ国の地図があった。それも二枚。

印の数は異なるが、よく見れば重なる部分や近い場所に印が打たれている事が多いように見える。

「なんだ、これは」

「一枚はオウカの鉱山や巨大地下空洞のある場所などで、もう一枚がここ二日で発見・駆除した魔神幼体の場所ですわ」

「……今、何て言った」

流石にルーの声色が変わる。

今までの呆れが混じったようなものではなく、国を治める者として、シオが放った言葉の意味の重大さに戦慄しながらも突飛な事に理解が追い付かない困惑が混じったような声。

魔神はすでにカミラで撃破されたはずではなかったのか、そもそも魔神の幼体とは。

聞きたいことは山ほどあったが、それらを一旦飲み込む。

「本題とはその事か?」

「はい。ですが何分手が足りません。この地図でまだチェックできていない箇所に軍の派遣をお願いしたいのです」

「だが魔神には通常のヘクスイェーガーでは歯が立たないはずではなかったか?」

「幼体のうちならプレスガンや魔法による飽和攻撃で撃破が可能ですわ」

「だが、ここから指示を出すにしても今からでは時間がかかりすぎる」

「ご安心くださいませ。すでにモフモフを持った使者が各地点最寄りの軍施設に赴き準備を済ませてますわ」

用意周到だった。

シオから差し出されたモフモフを受け取り、ルーは息を整えるように何度か深呼吸する。

「最後に確認する。もし魔神が幼体ではなかった場合はどうなる」

「……我々は国を失います」

「そうか。ならどうやっても抗わねばならんのだな」

覚悟は決まった。

「女王陛下、どうぞ」

「聞け、皆のもの。オウカ国女王ルー・オウカである。諸君らはこの状況に困惑している事だろう。だがあえて言わせてもらおう。我が――否、我らが母国オウカは未曾有の危機を迎えている。カミラの悲劇を知っているな。あれは魔神同士の戦闘によって起きたものだ。だが、あの時は魔神同士が戦ったからこそ()()()()で済んでいたのかもしれぬと、私は今思う。今まさにオウカの地は魔神に蝕まれ、あの惨劇以上の惨劇の舞台になろうとしている」

言葉を選んでいられるような状況ではない。

失った命のことを想えば、使うべきではない表現すら使う。

今必要なのは配慮ではない。強い言葉で強い意思を伝える。それが最優先なのだ。

「バトルコスモスの調査でこの国の地下に魔神の幼体が複数箇所に潜んでいることが判明している。この声を聞いている拠点は近くに地下空洞が存在するはずだ。そこに潜む魔神の幼体を駆逐して貰いたい。幸い、幼体のうちは飽和攻撃で撃破が可能であるとも報告されている。完全体になる前に必ず駆除しろ。だがもし、魔神が完全体になっていた時は――無力な民の殿(しんがり)となれ。諸君らの活躍にこの国の未来が掛かっていると思え。以上だ」

シオにモフモフを返し、背もたれに体を預ける。

「これだけ言ったんだ。何もなければ批判は免れないな」

「何か起きないほうがいいのですわ。まあ、そうはならないと思いますが」

「その通りだな」

窓の外の風景を眺める。見納めになるなどとまでは考えずに。

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