秘密の彼氏
蒼士に一途な美緒の気持ちを知って、蒼馬と付き合うことにした優愛。
蒼馬の誘いで、蒼士のレコーディングに見学に行くけで、帰れといと言われてしまい、CDの発売のポスターを作るため、蒼馬の撮影を見学したのだったがー!?
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど?」
翌朝、学校に行くと、昇降口で上履きに履き替えている時だった。
この前、言いがかりをつけてきた先輩達とは、別の先輩達と隣のクラスの女子達がワッとあたしを取り囲んだ。
「みんな、どうしたの?怖い顔してー」
あたしは、顔をこわばらせながら、みんなを見た。
「昨日、西本さんが蒼士君と一緒に車に乗るところを見かけたんだけど、付き合ってるの!?」
一番始めに言い出したのは、隣のクラスの子達だった。
「……」
昨日、撮影が終わった後、車を立たない場所に停めてもらって、蒼馬君と車に乗ったのにー。あの時、見られていたなんて……。
「ねぇ、どうなのよ!?」
先輩達も、あたしを睨みつけた。
「つ……付き合ってないし。たまたま、同じ方向に行くみたいで、乗せてくれただけだから……」
あたしは、言葉を選びながら説明した。
この人達が言っているのは、学校の蒼士君だもの、付き合っていないのは本当のことだ。
「なぁーんだ。そうだったんだ」
しばらく経ってから、みんな納得した顔で、あたしを見た。
「始めから、おかしいと思ったんだよねぇー。こんな、地味な子が彼女なんて」
「本当本当。でも、蒼士君と一緒に帰るなんて生意気ー!!」
独りが言うと、次々と口を揃えて言い始めた。
どうして、そうなるわけ!?本当のことを言ってやりたい。
でも、双子だって知れたら、蒼馬君が歌っていないこともバレるのも時間の問題だ。そうなると、人気度も下がるかも知れない。
蒼士君が、心配していたことが的中してしまう。
「とにかく、蒼士君には近づかないでよ!!近づいたら、今度は、何するかわかないから!」
一斉に、あたしを睨みつけると、さっさと行ってしまった。
あたしは、ヨタヨタと靴箱に寄りかかった。
いつも、監視されているようで、これじゃ、身がもたない。
蒼馬君には、しばらく会わないようにしよう。
蒼士君とは……。どうすれば、いいのかな?話することもできないなんて、そんなの嫌だ。
あたしの瞳から、涙が溢れてきた。
そんなあたしの様子を、近くで蒼士君が見ていたなんて、気づきもしなかった。
「優愛ー。あたし、蒼士君に告白しちゃった!」
その日の、昼休み。
いつものように、美緒は蒼士君にお弁当を渡しに行っていた時のこと。
美緒が、教室に戻ってくるなり、落ち着かない様子で椅子に座った。
それも、今まで下の名前で呼んだことがなかったのに、『蒼士君』になっていた。
あたしは、お弁当を食べていた箸を持つ手が止まる。
「そ……そうなんだ。それで、返事はもらえたの?」
あたしは、恐る恐る聞いてみた。
「それがー」
きっと、断ってるよね……。
そう思っていたのに、
「蒼士君、付き合ってもいいって言ってくれたの!」
美緒は、嬉しそうに満面な笑みを浮かべた。
「えっ……!」
ポロッと、箸に挟んでいたウインナーを床に落としてしまった。
「ちょ、ちょっと。優愛ー、大丈夫?」
「ご、ごめん。蒼士君って、誰とも付き合わないイメージがあったから、少し驚いちゃって……」
苦笑いしながら、あたしは、ウインナーを拾った。
「あたしも、てっきりそう思っていたけど、あたしが毎日、お弁当を作って行く一途さに惹かれたみたいなんだよねぇー」
美緒は、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「……」
蒼士君がだんだん、遠くなって行くような気がして、キューンと切なくなった。
「それで、今度、デートすることになったんだけど、何処がいいと思う?」
美緒は、ウキウキしながら聞いてきた。
「……でも、美緒。蒼士君と普通のデートは難しいと思うよ。学校では、芸能人ってことになってるし……。それに、また酷いめにあわされるかも知れない」
「そっかぁー。そうだよね……」
美緒が、落ち込んだ顔でがっかりと肩を落とした。
あたしだって、落ち込むよー。
好きな人が、美緒の彼氏だなんて、これから、どう接したらいいの?
「優愛ちゃん。蒼士に彼女ができたんだって?」
それから、2、3日が経ってマスコミも落ち着いたので、今日から、徒歩で帰ることになって、自由を満喫しながら、家に向かって歩いている時のことだった。
蒼馬君からの電話に、あたしは、キュッと唇を噛み締めた。
「そ、そうなの……。友達の美緒と付き合うことになてー」
「蒼士から聞いてる。毎日、弁当作ってくるって。俺もだけど、蒼士は押しに弱いからなー」
蒼馬君が、笑う。
「……」
これ以上、2人の話はしたくない……。
「そうだ!外でダブルデートはできないけど、友達を連れて、家においでよ。マンションだから、一般の人も出入りしているし、2人で来れば噂にもならないし」
電話越しの蒼馬君は、楽しそうだ。
「う、うんー。美緒にも言ってみるね」
蒼士君の顔を見るのは辛いけど、うちに遊びに行けるなんて、夢みたいだ。
あたしは、早速、美緒に聞いてみることにした。
「勿論、絶対に行く!」
美緒は、すぐに返事を返した。
そして、蒼馬君が空いている日に遊びに行くことになった。
「お邪魔します!」
案外、近い日に蒼馬君が空いている日があったので、あたしと美緒は、蒼馬君達の家に遊びにきた。
「お茶入れてくるから、座ってて」
蒼士君が、キッチンの方へ向かった。
「あたし、手伝う……」
蒼士君の後をついて行こうと、ソファーから立ち上がろうとした時だった。
「蒼士君。手伝わせて!」
美緒が、蒼士君の後をついて行ってしまった。
「優愛ちゃん。後は、2人に任せて座ってて」
蒼馬君が、あたしの肩に手をやった。
「う、うん……」
あたしは、チラッと蒼士君の方を見ながら、ソファーに座った。
2人は、仲良さそうにお茶の用意をしていた。
あたしの胸が、キュッと締め付けられる。
「優愛ちゃん。この後、俺の部屋においでよ。頼みたいことがあるんだ」
蒼馬君が、あたしの耳元で囁いた。
「う、うん。わかったー」
あたしは、小さく頷く。
みんなで、お茶してから蒼馬君の部屋へ。
「結構、綺麗にしてるね」
蒼馬君の部屋は、整理整頓してあって、綺麗に片付けてあった。
「ありがとう。仕事の合間に片付けてるかいがあったよ」
蒼馬君は、あたしに笑顔を向けた。
「そ、それでー。頼みたいことって何かな?」 あたしは、蒼馬君から目を反らしたまま聞いてみた。
「うん。これなんだけどー」
蒼馬君は、「ラブヒット」の台本をあたしに見せた。
「セリフ合わせしてほしいんだ。ここなんだけどー」
「わかった。あたしで良かったら、協力するね」
あたしは、パラパラと台本を捲って見た。
蒼馬君がセリフ合わせしてほしい所は、主人公の涼が元恋人だった奈留と寄りを戻したい場面。
奈留の役は、今、人気急上昇の瀬名泉ちゃん。あたしより一つ年上の高3の女の子だ。
「じゃあ、ここの場面からお願い」
蒼馬君は、言ってほしいセリフを指で示した。
「涼のことは、まだ、好きだよ……」
あたしは、ぎこちなく、台本通りにセリフを合わせた。
「じゃあ、いいだろ?もう一度、やり直そうよ」
蒼馬君もセリフに合わせて、あたしの肩に手をやった。
「でも……。あたしには、今、付き合っている人が……」
セリフが一通り言い終わった後、蒼馬君は、もう一度、繰り返した。
「優愛ちゃん。なかなか、良くなってきたね」 蒼馬君は、ニコニコしながらあたしの顔を覗き込む。
「ありがとう」
蒼馬君に言われて、何だか自信がわいてきた。
「今度は、さっきの続きからお願いしようかな」
そう言うと、蒼馬君は、あたしを抱き締めた。
「あいつ浮気してるんだぜ!お願いだから、奈留。俺の所に戻ってこいよ」
台本では、抱き締められた後、彼に連れ去られるみたいな感じになっているみたいだ。
蒼馬君は、あたしをギュッと抱き締める。
「もう、あいつには渡したくないんだ!」
蒼馬君は、あたしの顔を覗き込んだ。
さすがは、人気俳優。何だか、本当に涼に言われているような気がしてしまう。
それに、あまりにも真剣な瞳だったから、こっちまで、ドキッとしてしまった。
「りょ……涼の気持ちは、嬉しい。でも……」
台本を見ながら、蒼馬君に言った途端。
急に、蒼馬君の手が、あたしの髪を撫でるように触れた。
ちょっと、待って。こんなシーンあった?
あたしが、慌てて、台本を読もうとした瞬間だった。
蒼馬君が、あたしの唇にキスをしてきた。
「……!!」
いくら、台本通りでも、キスシーンなんてなかったはずー。
あたしは、慌てて蒼馬君から離た。
「そ、蒼馬!やめて……」
慌てて拒否したけど、押し倒されてしまった。
蒼馬君は、無言のまま、あたしの首筋にキスをする。
「や、やだ!」
あたしの瞳から、涙が溢れてくる。
あたしは、思いっきり、蒼馬君を突き飛ばすと、部屋から飛び出した。
「優愛、どうしたの?そんなに慌ててー」
廊下にいた美緒が、あたしに声をかけた。
「ご、ごめん。美緒……。あたし、用事、思い出したから帰るね」
あたしは、顔を背けたまま言った。
「えっ、どうして?今から、みんなでゲームでもやろうって、蒼士君と話してたのに……」
美緒が、驚いた顔であたしを見た。
「どうかしたのか?」
蒼士君が、あたし達の様子に気づいたのか、部屋から出てきた。
「蒼士君。それがね、優愛が帰るって言っててー」
今は、蒼士君に顔を見られたくない。
わざと、顔を背けたのに、蒼士君があたしの顔を覗き込んだ。
「高野ー、悪い。西本の荷物持ってきてくれないかな?」
美緒は、蒼士君に荷物を頼まれて、部屋へ入って行った。
「西本。こっちー」
蒼士君に腕を掴まれて、洗面所へ連れてこられた。
「顔、洗った方がいいぞ」
蒼士君が、タオルを貸してくれた。
「ありがとうー」
あたしは、蛇口を回して水を出すと、ジャブジャブと顔を洗った。
「蒼馬と何かあったのか?」
あたしが、顔を洗い終わると、蒼士君は改めて聞いてきた。
あたしは、黙って左右に首を振る。
「本当にか?じゃあ、どうして泣いてるんだよ」
蒼士君が、あたしの肩を掴んだ。
「痛っ……!」
あたしは、顔をしかめる。
「ごめん……。言いたくないなら言わなくていいから」
蒼士君は、肩から手を離した。
「蒼士くーん、優愛ー!何処ー?」
美緒が、廊下であたし達を呼ぶ声が聞こえてきた。
「み、美緒が呼んでるー。行かないと」
ドアを開けた瞬間だった。
蒼士君が、あたしの腕を掴むと、グイッと引き寄せた。
「ごめん。少しだけ、このままでいいかなー?」
蒼士君は、静かにそう言った。
ドキンドキン……。
あたしの心臓の鼓動が、速くなる。
また、切ない想いが募ってくる。
トントン!
「蒼士君ー、優愛。いるの?」 ドアをノックする音がして、ドアの向こうで美緒の声が聞こえてきた。
あたしは、慌てて蒼士君から離れると、ドアを開けた。
「蒼士君も優愛も、こんな所にいたんだ?」
美緒は、驚いた顔であたしと蒼士君を交互に見た。
「め、目にゴミが入っちゃって、洗面所貸してもらってたのー」
あたしは、慌てて言い訳をする。
「なぁーんだ。そうだったんだ?」
美緒は、ほっとした顔をさせた。
美緒ー。絶対、疑ってたよね……。
「じゃ……じゃあ、あたし。先に帰るね!」
美緒から荷物を受け取ると、マンションの外へ出た。
美緒がいるのに、どうして、あんなことしたのー?
蒼馬君に抱き締められた時よりも、蒼士君に抱き締めたられた感触がまだ、身体に残っていたー。




